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ウィルダース? それが何か (Simon Kuper;Why Wilders doesn’t worry the Dutch)

 2017年3月10日(金)14℃ 晴

 

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私は、ずっとSimon Kuperのことをスポーツ記者だと思い込んでいた。おそらくロシアワールドカップが近づけば、またぞろ、Kuper名義の切れ味の良いサッカー記事も増えてくるのだろうが、彼の取材対象は広い。サッカーの良いところは、野球に比べて、世界に広く普及していることだろう。サッカー取材は、勢い、各国の取材に繋がり、彼の書く記事に独特な色合いとコクを生み出している。

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そんな彼が、ヘルト・ウィルダースとの取材などを思い出しながら、オランダ政治の二つの見方という面白いコラムをFTで書いていた。

 

海外からほとんど注目されることのないオランダの国内選挙が、排外主義対リベラルな国際主義のグローバルな対決の大事な一幕としておかしな脚光を浴びている。

 

外国人には物珍しい金髪オールバックの、ウィルダースも10年以上同じ芸風なので、オランダ人は辟易としていて、真剣な政権担当候補としてみなしている国民は誰もいない。しかも、ウィルダース自身、政権を取る気もなさそうだ。オランダ政治特有の連立政権の必要性による妥協を彼は望まないからだ。政権を取るより、オランダで唯一海外からの脚光を浴びる政治家というブランドの方が彼には大切なはずだと。

 

マスコミが騒ぐわりには、市場は平然としているのは、この辺りの事情をマスコミよりも深く理解しているからなのかもしれない。つまりは、フランス総選挙に大きな影響を与えるほどのサプライズも起こりはしないというコンセンサスがあるのだろう。

 

Brexit以来、何でもありの世界になってはいるが、オランダ政治を見つめる内外の視線のギャップはかなり大きいということなのかもしれない。

 

Why Wilders doesn’t worry the Dutch

https://www.ft.com/content/f19653be-0383-11e7-ace0-1ce02ef0def9


(以下意訳です。)

ヘルト・ウィルダース(Geert Wilders)はほとんど外に出ない。このオランダの排外主義的(nativist)の政治家は、イスラム主義の原理主義者から受けた殺害予告のために、常時、保護下の生活を余儀なくされている。

 

昨年の春、デン・ハーグで、物々しい警備の施された彼の議員オフィスで、彼に取材をした。ウィルダースは、自分のオフィスの壁に飾ってあるウィンストン・チャーチル肖像画の下に座っていた。取材中、イスラームやEUのような彼が敵対視する論点でなければ、彼は、きわめて好感の持てる話し相手だった。会話は機知に富み、知的で、リラックスして、友好的で、しかもこちらの話にもしっかりと耳を傾けている。

 

この取材は、Brexit国民投票の直前だった。彼はBrexitが可決されたならば、即座にオランダのEU離脱(Nexit)の国民投票(referendum)を提起すると熱く語っていた。デン・ハーグを2日間かけて歩き回ったこの取材の中で、私が耳にしたもっともエキサイティングな発言だった。

 

ウィルダースチャーチルとNexitとくれば、オランダ政治についての面白い記事を書こうと苦労している外国人ジャーナリストにとっては、夢のような導入部になる。しかしKuperは、オランダのEU離脱の件で書いた記事の中ごろのところにちょっとこのエピソードを触れるぐらいに止めたという。

 

理由は、オランダ育ちの彼には、このエピソードを引用しても、オランダの現実にはまったく関係がないことがよくわかっていたからだ。

 

オランダ総選挙についての見方は、海外と国内で驚くほど違っている。海外のメディアは、ウィルダースだけに注目し、Brexitの可決、トランプ政権樹立の後、彼のポピュリズム運動は成功を収めるだろうかというストーリーで今回の選挙を取り上げがちだ。

 

ところがオランダ国内の眼から見れば、ウィルダースは今回の選挙の主役ですらないのだ。

 

普通は、オランダの国内選挙に対する海外メディアの関心は0に近い。今回は、排外主義者対国際主義者という世界を二つに分ける政治対立の重要な場面というような見立てで、オランダが取り扱われている。

 

ウィルダースにとっても渡りに船の見立てである。いろいろな分野で、野心的活動を行っているオランダ人同様、彼も国際展開を望んでいる。実際、取材した彼の部屋の中には海外関連のモノであふれていた。壁に貼られたマーガレット・サッチャーの写真の乗った新聞記事、窓に掲げられたイスラエル国旗、扉に貼られたアラビア語のメッセージ。ウィルダースによれば、「コーランは毒、ムハンマドは盗人」という意味だという。

 

当時、彼はクリーブランドの米国共和党大会への参加の準備に熱中していた。待合室でぶらぶらしている4人のボディガードだけが、グローバルなイスラム原理主義との戦いの名残を感じさせていた。

 

ウィルダースに政治資金を提供している人々の中には、アメリカの反イスラム主義者の、David Horowitzなどが含まれている。Horowitzは、このオランダのチャーチルだけがカリフ制に陥ることから欧州を救うことができると考えているようだ。

 

こういった人々はウィルダースのPVVをオランダ最大の政党にするために応援している。外国人の眼から見ると、ポピュリズムが、オランダで「勝利する」ことができると考えているのだろう。しかし今回の選挙に対するオランダから見える風景はかなり違っている。

 

 

世論調査で、ウィルダースは約15パーセントを獲得し、中道右派のVVDに1ポイントリードされている。Brexitやトランプの時のように、本選挙で、彼への投票が調査結果を上回ったとしよう(過去の選挙ではそれは起こっていない)。例えば、彼が20パーセントを獲得したとする。

 

それが何か。(so what?

 

オランダでは常に連立政権が形成される。政治を支配するには50%以上が必要なのだ。

 

他の政党のほとんどが、ウィルダースとの連立を拒んでいる。オランダの連立は妥協によって決まる。しかしウィルダースは、妥協を好まない。そして今回、彼の過激なアジェンダは他党には到底受け入れられるものではない。

 

ウィルダースと比べれば、トランプすらグダグダとはいえ多文化主義者に見える。

 

ウィルダースは、オランダにおけるあらゆるモスクの閉鎖、コーランの禁止、国境の閉鎖、EU離脱を提案している。

 

オランダの他の政党で、こんな政治的立場を受け入れられるものなどない。

 

ウィルダース自体、本当に政権を取りたいのかどうかも明らかではない。

 

連立政権に参加するために彼が妥協すれば、彼は、標準的なオランダ人政治家に成り下がってしまう。そうなると、Horowitzたちのような人々の思惑からは外れてくるのだろう。

 

妥協を一切せず、海外が注目する唯一のオランダ人政治家であり続ける方がはるかに彼にとってはエキサイティングなはずだ。実際2010年以来オランダ首相であるMark Rutteよりも海外の知名度においてはウィルダースが勝っている。ウィルダースの過激主義は、彼のブロンドに染めたオールバックの髪と同様、海外に通じるブランドの構成要素なのだ。

 

 

しかしウィルダースの希望はともかく、オランダの有権者は自分の国の運営を任せる相手を真剣に考えている。

 

オランダ国民にとって、ウィルダースは現実の候補とはいえないし、誰も今回の選挙の主役だとも思っていない。

 

左派の主要三党、PvdA、SPとGroenLinksは、喜んで連立を組むだろう。彼らが連立すれば28%に達する。中道右派のVVDとCDAの連立によって、同じような数字が可能だ。

 

ウィルダース世論調査でトップ争いをしているのは、彼が一手に排外主義的を引き受けているからだ。その過激な発言は、いまだにニュースになる。しかし時間が経つにつれて、そのインパクトも落ちてきているのも事実だ。

 

喩えて言えば、トランプが11年間も一つの政党を率いているようなものなのだ。メディアは大概ウィルダースに飽き飽きしている。

 

1月1日から3月の初めまで、彼はオランダの主要国営テレビ、民放テレビに183分間登場した。(Lijsttracker.nlというウェブサイトの調査)

 

他の7名の候補の登場時間はそれよりも長い。ウィルダースがもっとも娯楽性に富んでいたことだけは否定できないが。

 

オランダでは大物ながら、海外ではほとんど無名の、Alexander Pechtold(リベラル系のD66党)は429分間テレビに登場した。

 

(オランダ国営テレビは、ウィルダースに対する検閲を否定している。彼は、テレビ上での討論にこれまでのところ参加していない。)

 

ウィルダースの難民、移民、EUについての見解は確かに国家的論争に影響を与える。しかし世論調査のよれば、有権者にとっての最大の関心事は、zorg(医療と高齢者福祉)である。。

 

人々はさらにウィルダースの公衆の面前での無作法や、品行の悪さに懸念を持っている。この問題についての長時間にわたる専門家によるテレビ討論は高い視聴率を上げた。こういった国内事情は外国人からはかなりつまらない話だろう。ウィルダースが3月15日にトップになったところで、何か月もかかる連立の交渉が始まり、ようやく成立した連立政権の中にはウィルダースはいないという可能性が高い。

 

結局、外国人は、次の10年間、またオランダの政治のことを忘れてしまうのだろう。

(以上)

 

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