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映画;「ダライラマ14世」:ダライラマの笑い声が聴こえる

渋谷のユーロスペースのスクリーンで観た、ダライラマの豪快な笑いがいまだに頭のどこかに残っている。

 

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どこまでも、大らかで、天に突き抜けるような明るい笑い声。

 

ダライラマ14世の写真を撮った薄井大還さんという写真家とその息子の薄井一議さんが企画して、ダライラマ法王の生活に6年間密着取材をした、素晴らしいドキュメンタリー映画だった。

カメラやスクリーンを通じても、失われることのないダライラマの霊性のようなものを感じた。

霊性というと、どこか、現実離れをしたものに聞こえてしまう憾みがある。それどころか、死んでも死なないイノチに繋がって、今を生きることが霊性の本質なのだ。

ダライラマ法王が来日時にさまざまな人々の質問を受けたり、チベットの亡命者と触れ合ったりするシーンからは、彼の体温や呼吸のリズムが聴こえるようだった。

来日時に、チベット難民の若者たちと話し合うときの、ダライラマの一貫したチベットというものへの愛情と誇りが、彼らに伝わっていく様には心が震えた。

 

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亡命政府のあるダラムサラやラダックなどでの教育施設の様子、多数で行う五体投地という身体技法など、映像としては初めて目にしたものも多く、一瞬たりとも飽きることがない。

 

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映画をみおわった後も、その余韻が強く、ネットでダライラマの記事を探していたら、今年の3月の、「ダライラマのReincarnationしないという発言に、中国共産党激怒」という奇妙な記事が見つかった。

http://www.nytimes.com/2015/03/12/world/asia/chinas-tensions-with-dalai-lama-spill-into-the-afterlife.html?ref=topics

 

Reincarnationはチベット文化、チベット仏教の精髄であり、それをダライラマが生まれ変わらないなどとは言語道断と共産党が激怒しているという話だ。

チベットの仏教の伝統を守ることが、共産党の使命というような、墓の中のマルクスもびっくりするような話だ。

しかしこういった共産党のMonty-Python的どたばたを仕掛けるダライラマのユーモアと不敵さはまさにこのドキュメンタリー映画の中にも見え隠れする。

映画の中で、彼の受け答えのユニークさがハイライトされる。

個人的な悩みについての質問や、日本はどうすればいいのか的な、質問者が咀嚼しきれていない問題に対しては、そっけない。

「私にはわからない。それはあなたの方がよくわかるのだから、あなたが考えるべきだ。」

子供が先天的病に苦しむ母親に対して、起こったことについては原因がある。しかし、起こったことを認めて、もう苦しむのをやめなさいと語りかけるとき、彼は、事の本質において仏教者である。そのあたりに甘さはない。

人やモノに対して強い関心を持ち、常に眼は動いている。そして気持ちの良いほど大笑いする。

自分の言葉を失ってしまった共産党幹部に対して、ダライラマが仕掛けた、語弊はあるが、最後の大きなイタズラが生まれ変わらないという発言なのだろう。

実際、中国共産党には前科がある。チベットの伝統に乗っ取って、パンチェンラマの生まれ変わりと認められた子供の消息がわからなくなったという事件が数年前に起こっているという。

自分の現世での欲得からの発言しかできない人々に対して、イタズラを仕掛けて、右往左往させることで、その愚かさを気づかせることができればという彼の思い。

いずれにせよ、しばらくは、ダライラマのあの豪快な大笑いが耳に残ってしまうような傑作だった。