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クルーグマン ギリシアとアメリカ

ギリシア危機が、米国では、医療改革などオバマ政権の目指す福祉国家への方向を阻止するために不当に用いられていると、クルーグマンが批判している。

長期的財政赤字を解消しなければ、今のギリシアが明日のアメリカの姿だと共和党は主張する。その背景にある真意は、オバマ政権が目指す国民福祉の改善の柱にある医療改革の否定である。

しかしオバマ政権の目指す医療制度の効率化なしには、長期的財政問題は解決できない。だからこそ、我々は、ギリシア危機を不当に煽って国民を惑わす発言には気をつけなくてはならないという主張だ。

日本は、アメリカが今目指す一定水準の福祉を達成しているとすれば、このロジックから言えば、我々が目指さなければならないのは何なのだろうか。

同じくギリシアの今が日本の明日という論調に対して、ぼくたちは、どのように今のギリシアと日本を比べればいいのか。

今日のニューヨークタイムスのコラム、

We’re Not Greece
我々はギリシアではない

http://www.nytimes.com/2010/05/14/opinion/14krugman.html?hp=&pagewanted=print

クルーグマンは、今アメリカで、医療改革や社会保障に反対する人々は、ギリシア危機の展開にほくそ笑んでいると言う。

客観性を装った論説や評論が、野放図な支出をやめなければ、今のギリシアが明日のアメリカの姿だと。

でも本当のところ、アメリカはギリシアじゃない。

ではアメリカとギリシアをどのように比較すればいいのか。

最近の両国の巨大赤字は、対GDP比でほぼ同じような水準にある。

しかし市場はまったく違った反応だ。

ギリシア国債金利は米国国債金利の2倍以上。

すなわち、投資家は、ギリシアの国債が実際にデフォルトするリスクが高いが、米国のデフォルトリスクは事実上ないと考えているからだ。

それはなぜか。

一つの答えは、対GDP比で見ると、新規借入に対して既に借入を行った既存債務額がかなり低いということがある。たしかに米国の既存の債務残高ももっと低い水準であるべきだったとはいえる。

金持ち向け減税や戦争にあれほど多くのお金が無駄に遣われなかったならば、現在の緊急事態に対応する上でもっとよい立ち位置を取ることができたはずだ。

しかしそれでもギリシアに比べれば、アメリカはかなりましな状態だ。

もっと重要なのは、我々には景気回復への明確な道筋があるが、ギリシアにはそれがないということだ。

米国経済は、昨年夏から、景気刺激策とFRBの拡張的金融政策によって、満足いく速度とはいえぬまでも、成長してきている。

とはいえ、ようやく雇用が増え始め、収入面にも反映しはじめている。政府の税収の大幅な拡大予想に合った方向に向かっている。これをオバマ政権が実行しようとしている政策と合わせれば、今後数年で財政赤字は急激に低下する可能性がある。

一方、ギリシアは罠にとらわれている。

好況の時には、資本が流入したため、ギリシアの費用構造や物価は欧州の他の国とはかなり乖離してしまった。

この危機状況で、ギリシアに自国通貨があったならば、通貨切り下げで競争力を回復することができた。

ところが現在自国通貨を持たぬギリシアのユーロ離脱も難しいとすれば、この国は、今後数年過酷なデフレと低成長、ゼロ成長の時代を迎えることになる。

その場合、財政赤字を減らす唯一の手段は、暴力的な予算削減しかなく、投資家はこういった削減の実際の可能性を疑問視しているのだ。

ところで、財政状態が我々より悪いが、ギリシアとは違ってユーロを採用していないイギリスがいまだにかなり低金利で借入れができていることには注目すべきだろう。

自国通貨を持つということは、大きな違いなのだ。

結論を言えば、我々はギリシアではない。我々は現在彼らに匹敵するような赤字を生み出している。しかし我々の経済的ポジションとその帰結である財政見通しは、かなり良いのである。

とはいえ、我々には長期的な財政赤字問題があることに変わりはない。

しかしこの問題の根源は何なのだろうか。

「我々が自分達がコストを支払いたいと思う以上のことを要求しているから」というのはよくある説明だ。ただこれはかなり誤解を招く説明だ。

先ず、ここでの我々とはいったい誰なのだろう。大幅な減税への動きはアメリカ人の少数派を資するだけだということを忘れないで欲しい。ブッシュの減税を恒久化することによるメリットの39%は人口の1%に相当する最富裕層をうるおすだけなのだ。

また巧妙な共和党の政治戦略に基づいて税収は支出に追いついていない。

動物に餌を与えず、はらぺこにしておく戦略だ。

保守派は意図的に政府に収入を与えず、彼らが今必要と主張している支出削減を余儀なくさせようとしている。

一方、これら問題の予算に対する長期予想をじっくり眺めてみると、一般に言われる過剰支出によっては決定されていないことがわかる。

むしろ赤字予想は一つの事実によって決定されている。

医療コストが過去に比べて今後上昇するという前提である。

このことは我々の今後の財政問題の鍵は、医療制度の効率性を高めることにあることを示している。そしてまさにこれがオバマ政権がやろうとしてきたことなのだ。

さて現実だ。アメリカの今後数年の財政見通しは悪くない。しかし我々は深刻な長期的財政問題はかかえている。

これは医療改革とその他の方策(多分その中には穏やかな増税が含まれる)の組み合わせで解決されなければならない。

しかしあたかも財政責任への懸念を言い訳に、彼らの本当の目標である、福祉国家の解体をもくろみ、国外の危機を使って我々を脅すことで、自分達の目標を達成しようとする人々の発言は無視しなければならない。(以上)