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Spotify巨額資金調達:赤字のサービスが継続するのはなぜ?

無料で音楽が聴ける。とりあえず、ありがたい時代だといえる。

 

あってもなくてもいいものならば、今、とりあえず楽しめるだけで十分だろう。

 

音楽が生活の一部となっている人にとっては、それがいつまで続くのかということが心配になるかもしれない。

 

無料だったものが、突然、有料になるのも腹が立つことだが、赤字続きで、サービスがなくなってしまうことも困ったことだからだ。

 

youtu.be

 

Jay Zの独立宣言で、やけにスポットライトを浴びたストリーミングサービス。この新しい業界のトップ企業であり、何かと批判にさらされるSpotifyの巨額資金調達が間近という記事が、WSJやNYTで報じられている。

 

www.crunchbase.com

 

 

New York Times

http://www.nytimes.com/2015/04/11/business/fund-raising-may-value-spotify-above-dollar8-billion.html

 

Wall Street Journal

http://www.wsj.com/articles/spotify-nears-deal-to-raise-400-million-at-8-4-billion-valuation-1428700668

 

株主でもあるゴールドマンザックス主幹事による、未公開企業のSpotifyの4億ドルの資金調達が完了間近。

 

未公開企業なのに、4億ドルという資金調達が可能になるというのが昨今の資本市場のすごさだ。そもそも株式公開(IPO)というのが、未公開企業の私募では限られている大型調達を行うための手段だったのだから、隔世の感がある。

 

未公開企業とはいえ、その成長段階に応じて、その株式を買う価格は違ってくる。

 

世界58か国で、6000万人のユーザーがいて、そのうち1500万人が毎月9.99ドルを支払ってくれるという売上18億ドルの大企業。

 

今回の募集価格で計算すると、会社全体の価値に相当する時価総額は80億ドル。

 

競合他社としては長年のライバルであるPandora Mediaがすでに上場している。この企業の時価総額は35億ドル。その2倍以上の株価で評価された。

 

ちなみにPandoraもまだ赤字だ。赤字で、35億ドルの時価総額がついている。

 

これは、Softbankが以前Universal Music Groupの買収価格として提示した85億ドルにほぼ等しい。(親会社のVivendiはこのオファーを拒否)

 

大手レコード企業と等しい価値だとみなされているということ。

 

未公開企業でこの規模の時価総額に達しているのは、Uber、Airbnb、Snapchatとインターネット時代の最先端企業だけである。

 

 

(こういった短期間に、急激な成長を遂げる企業をUnicorn企業と呼ぶらしい。)

 

今回の調達資金を何に使うのか。答えはシンプル。赤字を埋めるため。先ほどのように売上は、急激に拡大してはいるものの引き続き赤字は継続している。

 

なぜ赤字なのか。ストリーミングから入る収入の70%をレコード企業やアーチストなどの著作権者に支払っているからだ。

 

アーチストやレコード会社から天敵のように扱われているのかといえば、なかば、救世主でもあるということだ。別にSpotifyのせいで、CD売上が落ちているかといえば、そんなことはなく、技術進歩に伴う、海賊版の横行が原因だ。それに比べれば、お金が取れるモデルということで、生まれたのはSpotifyなどの新しいストリーミングサービスである。

 

その証拠に、Spotifyの15%近い株式をUniversal Music Group、Sony Music Entertainment, Warner Music Groupの大手レコード会社が保有している。

 

アーチストやレコード会社ともめているのは、Spotifyがとっているフリーミアムモデルの点だけなのである。フリーミアムモデルというのは、まず無料サービスを提供して、サービスの良さを味わってもらってから、有料サービスへと誘導していくというビジネスモデルである。スマートフォンアプリに広く採用されているやり方である。

 

Taylor Swiftは、無料で自分の曲がばらまかれるのは嫌だというので、Spotifyから自分の曲全曲を取り下げた。

 

レコード会社は、無料会員の有料化を急げとプレッシャーをかけまくっている。

 

Jay Zは、無料サービスのない、高音質を売り物とする、トップアーチスト主導のプラットフォームを導入している。これによってアーチストのロイヤリティ料交渉力があがるだろうなどとの発言している。

音楽業界の内部構造の一部としてはっきりと取り込まれているのだ。

 

ただ、Spotifyは、成長戦術して、無料サービスはやめるべきではないと主張しているに過ぎない。

 

アーチストもレコード会社も、ストリーミングプラットフォームもある意味、同じ穴の貉だ。

基本的には同じ船の中での取り分争いにすぎない。

 

一方、僕たち、ユーザーも結局、無料でサービスを享受できるに越したことはない。

 

じゃあ誰がこんな素晴らしいサービスを僕たちに届けてくれるためにお金を払ってくれているのか。

 

80億ドルという眩暈のするような企業価値をつけている人々、すなわち市場なのだ。

 

赤字の企業がなぜ80億ドルなどという株価で評価され、4億ドルという資金を手にすることができるのか。

 

それは、この会社が未来の音楽会社となり、音楽配信サービスの中心を占め、いつか独占的な利益を生み出す時代が来ることを信じている人がいるからである。

 

無料サービスがいつか有料化し、大きな利益を生み出すであろうというSpotifyの夢を信じ、それを煽る人がいるからこそ、僕たちは、今、無料で大量の音楽やコンテンツを手にすることができるのである。

 

未公開の段階ではいわゆる一般個人投資家という人々は参加できない。今、この取引に参加しているのは、今後、この会社の株式公開(IPO)やM&Aにかかわってお金を儲けることも含めて画策している投資銀行や、エンジェル投資家や、ベンチャーキャピタルである。

 

その意味では、純粋に未来の音楽配信プラットフォームという夢を追いかけている人々だけではなく、「夢」が続くこと、簡単に言えば、自分が買った以上の値段で、株を買ってくれる人が続々と現れるという夢を信じる人がいたり、どこかでこの夢がはじけることを予測しながら、弾ける前に、自分だけお金を儲けてしまおうと思う人など、さまざまな人がいりまじっている。

 

それが株式市場というものだ。

サービスを享受する僕たちが、心配すべきなのは、実は、赤字でSpotifyが潰れることではなく、このインターネットという「夢」が破裂することなのである。

 

そのことを一言であらわす言葉がある。バブルだ。

 

ただ残念なことに、弾けなかったバブルは存在しない。

 

今、ユーザーとしての幸福を享受している僕たちにできるのは、バブルが弾けたときに、ひきつづき、過剰な幸福を引きずることなく、自分にとって本当に価値のあるものを継続的に追い続けるための、ちょっとした覚悟かもしれない。