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インターネット:マーク・アンドリーセンの予測;Software is eating the world

4年前マーク・アンドリーセンが書いたコラムが話題になった。あらゆる産業はデジタル化し、あらゆる企業はソフトウェア企業になるという内容の強烈なデジタル革命宣言だった。

 

アンドリーセンの予測は、かなりの部分、現実化している。

 

今のデジタル革命が、バブルなのか、(良いバブルか、悪いバブルか)などは定かではないが、あらゆる産業が多かれ少なかれ、ルビコン川を渡りつつあるのは事実だ。

 

音楽、映像などそもそもデジタルに親和性の強い分野はおろか、価値の90%がハードウェアの自動車産業にも否応なくその破壊的イノベーションは押し寄せている。

 

昔、この記事を昔要約したものが、あったので読み直してみた。 

 

 

WSJ 2011 年8月 20日

Why Software Is Eating The World

なぜソフトウェアが世界を食い尽くすのか

 

By Marc Andreessen

 

今週、ヒューレットパッカード(私は同社の取締役を務めている)は潜在成長力のより高いソフトウェア事業への投資を増やすために、苦境にある PC事業を売却検討中であることを発表した。その一方、グーグルは携帯端末メーカーのモトローラモビリティの買収を発表した。この両社の動きはテクロジーの世界をあっと言わせた。しかし、両社の動きは私が観察してきたトレンドに沿ったものだった。そのトレンドを見ると、昨今の株価低迷にもかかわらず、私は米国経済、世界経済の将来成長性について明るい気持ちになる。端的に言えば、ソフトウェアが世界を食っているのだ。

 

1990年代のドットコムバブル最盛期から 10年以上が経ったが、フェイスブックツイッターのような新興インターネット企業 10社程度が、未公開市場や株式公開で非常に高い株価をつけており、シリコンバレーでは議論が起きている。ウェブバンやペットドットコムのバブルで痛い目にあったことが投資家の記憶にはまだ鮮明に残っていて、「これは新たなバブルなのではないのか?」と疑問を持つのもわからないではない。

 

私は、他の同調者と一緒に、反対の論陣をはっている。(私はベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロヴィッツ社の共同創業者兼ジェネラルパートナーであり、フェイスブックグルーポン、スカイプ、ツイッター、ジンガ、フォースクエアなどに投資をしてきた。個人的にはリンクトインに投資している。)私たちは将来性のある新興インターネット企業の多くが真の、高成長、高収益で強固な競争力をもつビジネスを作り上げると固く信じている。

 

今日の株式市場は実はテクノロジーが嫌いだ。主要なテクノロジー企業の株価収益率が過去最低にあることを見ればそれは明らかだ。例えば、アップルの株価収益率は 15.2倍で、株式市場の平均と同じレベルだが、アップル社は圧倒的な利益率や支配的なマーケットポジションをもっているのだ(この二週間でアップルは時価総額ベースで米国最大の企業となり、エクソンモービルを超えた)。そして、私がバブルではないと思うのは、よく言われることだが人々が「バブルだ!」と叫び続ける時はバブルにはならないという経験則に基づいている。

 

しかし、あまりに多くの議論が株価に終始しており、シリコンバレーの新興企業がもつ本源的な価値については十分に議論されているとはいえない。私は、今や世界は、広範囲に及ぶ技術的・経済的な大変革の真っただ中にあって、そこではソフトウェア企業群が経済の大きな部分を飲み込もうとしていると考えている。

 

さまざまな既存事業や業界が、ソフトウェア上に再構築され、オンラインサービス化しつつある。映画、農業から国防にいたるまで、このトレンドの勝者の多くはシリコンバレー型起業家が経営するテクノロジー企業だ。こういった新興企業が既存の業界構造に襲いかかり、破壊しつつある。今後10年、もっと多くの業界のビジネスモデルがソフトウェアによって再編され、世界を席巻するシリコンバレー企業がさまざまな分野で変革をもたらすことになるだろう。

 

なぜ今、こういうことが起きているのか。

 

コンピューター革命が始まって 60年、マイクロプロセッサーが発明されて 40年、インターネットが立ち上がって 20年、ソフトウェアによって業界を変革するために必要なあらゆるテクノロジーがようやく機能しはじめ、地球規模で広く行き渡るようになった。

 

今や 20億人以上がブロードバンドインターネットを使っている。この数字は、私がネットスケープを共同創業した 10年前には5000万人程度だった。今後 10年間で、世界の少なくとも 50億人がスマートフォンをもち、あらゆる個人がインターネットに瞬時にアクセスし、インターネットパワーを毎日あらゆる瞬間において存分に享受できるようになると予想する。

 

その背後では、ソフトウェアプログラミングツールやインターネットサービスのおかげで、多くの業界においてソフトウェアを活用した世界的なスタートアップ企業が誕生しやすくなる。そのために、新規のインフラに投資したり新しく入った従業員を訓練する必要はない。 2000年において、私のパートナー、ベン・ホロヴィッツは最初のクラウドコンピューティング企業、 Loudcloud社のCEO だったが、基本的なインターネットアプリケーションを利用する際の顧客コストは月額約15万ドルだった。今では同じアプリケーションをアマゾンのクラウドサービスを利用すれば月額 1500ドルで済む。

 

起業コストが安くなり、オンラインサービスの市場が広がったことで、世界経済は初めて完全にデジタルでつながった。これは、 1990年代初頭にあらゆるサイバービジョナリーが夢見たことだが、一世代を経てついに実現したことになる。

 

おそらくこのソフトウェアが既存ビジネスを席巻する現象の最もドラマチックな例は、ボーダーズの自滅とアマゾンの隆盛だ。 2001年に、ボーダーズはアマゾンに自社のオンラインビジネスを譲渡した。オンライン書籍販売は戦略的に重要ではないとの理由からだった。

 

これは正直痛かった。

 

今日、世界最大の本屋アマゾンはソフトウェア企業だ。同社の中核をなす力は驚くべきソフトウェアエンジンで事実上あらゆるものをオンラインで販売することだ。店舗は不要だ。さらに、ボーダーズが破産の崖っぷちに追い込まれる一方、アマゾンはウェブサイトを一新し、キンドルのデジタル書籍を販売し、初めて紙ベースの書籍販売数を上回った。今や本そのものでさえソフトウェアなのだ。

 

今日、会員数ベースで最大のビデオサービス企業はソフトウェア企業のネットフリックスである。どのようにネットフリックスがブロックバスターを骨抜きにしたのかという話はすでに語りつくされた感があるが今や他の既存エンターテイメント企業も同じ脅威にさらされている。コムキャスト、タイムワーナーなどは自社をソフトウェア企業に転換することで対応しつつある。たとえば、 TV Everywhereはコンテンツを物理的ケーブル線から解放し、スマートフォンタブレットに流すような努力をしている。

 

今日市場を支配している音楽企業もソフトウェア企業だ。アップルの iTunesSpotify¤Pandora 。既存レコードレーベルはますますこうしたソフトウェア企業に対してコンテンツを提供するだけの存在になりつつある。デジタルチャネルからの業界収入は合計で 2010年には46 億ドルにのぼるが、この全収入に占める割合は 2004年の2 %から 29%となった。

 

今日最も急成長しているエンターテイメント企業はビデオゲームメーカーだ。これもソフトウェア企業だ。業界収入は 5年前の300 億ドルから 600億ドルに成長している。そのなかで最も成長著しいのがジンガ(FarmVilleなどのゲームをつくっている)である。同社はゲームをすべてオンラインで提供している。Zyngaは今年第一四半期の収入が 2億3500万ドルとなった。前年売上の二倍以上だ。Angry Birdsを制作しているRovioは、今年1億ドルの売上を達成すると予想されている(この会社は 2009年終わりにiPhone 向けに人気ゲームをデビューさせるときにはほぼ破産状態にあった)。この間、伝統的なビデオゲーム大手、エレクロトロニックアーツや任天堂などは売上が低迷、減少している。

 

何十年にもわたる歴史の中で最高の映画製作会社ピクサーもソフトウェア企業だ。あのディズニーがソフトウェア企業のピクサーをアニメーション映画で生き残るために買収せざるを得なかったのだ。

 

もちろん、写真もだいぶ前にソフトウェアに席巻された。ソフトウェアカメラが搭載されていない携帯電話を買うことは事実上ありえない。写真は自動的にインターネットにアップロードされ、永久に保存され、世界中で共有可能だ。 Shutterfly、Snapfish やフリッカーコダックの地位を奪った。

 

今日最大のダイレクトマーケティングプラットフォームはソフトウェア企業のグーグルである。グルーポン、 Living Social、フォースクエア等が加わり、ソフトウェアを駆使することで小売マーケティング業界を席巻している。グルーポンは 2010年には7億ドルを超す売上を生み出した。創業たった二年で達成されたのだ。

 

今日最速で成長しているテレコム企業はスカイプだ。マイクロソフトが85億ドルで買収したソフトウェア企業だ。米国第三位のテレコム企業CenturyLinkは時価総額200億ドルで、この6月末現在1500万のアクセスラインをもつが年率7%で減少中だ。クエスト買収効果を除けばCenturyLinkの既存事業からの売上は11%以上の落ち込みだ。この間、二大テレコム

企業AT&TとVerizon は、アップルや他のスマートフォン企業と提携しているが、ソフトウェア企業への転換することで生き延びている。

 

リンクトインは今日最速で成長中のリクルーティング企業だ。私たちは、初めて、リクルーターがリアルタイムで検索できるように自分の履歴書をリンクトイン上で保管することができるようになった。こうしてリンクトインは 4000億ドルのおいしいリクルーティング業界を席巻する機会を得た。

 

ソフトウェアは一義的に物質世界にしか存在しえないと考えられていた業界のバリューチェーンの多くを軽々と再編してしまった。今日の自動車はソフトウェアがエンジンを動かし、安全面をコントロールし、乗り手を楽しませ、運転主手を目的地まで案内し、それぞれの車をモバイルネットワークや衛星ネットワークや GPSネットワークに接続している。カーマニアが自分の車を修繕することができる時代はもはや過去のものとなった。それは車がもはや相当ハイテクになってしまったからだ。ハイブリッド車電気自動車のトレンドはソフトウェアへの転換を促進するばかりだ。電気自動車は完全にコンピューターがコントロールするものとなる。そして、ソフトウェアによって動き、運転手不要の車は、すでにグーグルや他の大手車メーカーで開発が進められている。

 

今日のリアル小売業者のトップ、ウォールマートはソフトウェアを物流や配送に活用し、それで競争に打ち勝ってきた。フェデックスにおいても同様だ。同社はトラックや飛行機や配送センターを自前で持つことにはなったが、最高のソフトウェアネットワーク企業と考えられている。また、航空会社の成功と失敗は、今日も将来も、ソフトウェア活用によるチケットのプライシング能力や運行ルートや利益を最適化能力にかかっている。

 

石油会社やガス会社はスーパーコンピュータの活用やデータのビジュアル化・解析においては先駆者だった。それらは今日の石油ガス探索においてはとても重要である。農業もまたますますソフトウェアに支えられている。たとえば大豆生産の衛星を活用した解析に、1エーカーあたりの種の選択をアルゴリズムソフトを使うようなことが行われている。

 

金融サービス業界はこの 30年間ソフトウェアによって明らかな転換を遂げた。実際に、一杯のコーヒーを買う人からクレジットデフォルトデリバティブで一兆ドルの取引をする人まで、あらゆる金融取引はソフトウェアによって行われている。金融サービスにおける先端的な発明を担った多くの会社はソフトウェア企業だ。たとえば、スクエアは携帯電話でクレジットカード決済をできるようにした。ペイパルは今年の第二四半期には前年比 31%増の10 億ドル以上の売上を達成した。

 

ヘルスケアや教育分野は、ソフトウェアによる転換が起こる次の業界だというのが、私の見方だ。私のVCは、これら二つの巨大で重要な業界を果敢に攻めているスタートアップ企業を支援している。この二つの業界は、歴史的に起業家による変革に随分抵抗してきたが、新たなソフトウェアを梃にした起業家によって変革がまさに引き起こされようとしていると信じている。

 

国防ですらますますソフトウェア抜きでは考えられなくなってきている。現代の戦闘要員は情報、コミュニケーション、兵站業務、兵器解説を提供する一連のソフトウェアを装備している。ソフトウェア装備の無人機は人間パイロットを危険にさらすことなく空爆を実行する。情報機関はソフトウェアを使って大規模データ探索を行い潜在的なテロの企てを見出し、追跡する。

あらゆる業界における企業はソフトウェア革命が到来することを当然のこととして考えなければならない。今日すでにソフトウェア化された業界も例外ではない。オラクルやマイクロソフトのよう偉大な既存ソフトウェア企業はますますセールスフォースドットコムやアンドロイド(特にグーグルが端末メーカーをもつような世界において)のような新しいソフトウェア製品・サービスの脅威にさらされている。

 

いくつかの業界においては、特に石油やガスのようにリアル世界の要素が強い業界においては、ソフトウェア革命は既存プレイヤーにとってのチャンスである。しかし、多くの業界においては、新しいソフトウェアによるアイディアが新しいシリコンバレー型スタートアップ企業の隆盛をもたらす。彼らはとがめられることなく、既存の業界を侵略する。次の 10年間、既存勢力とソフトウェア装備された反乱者との間の戦いは壮絶なものになるだろう。「創造的破壊」という言葉を生み出した経済学者、シュンペーターがいたら、喜んだに違いない。

 

この数週間 401Kの資産価値が増えたり減ったりするのを見てきた人々は信じがたいだろうが、これは特に米国経済にとって非常に前向きな話だ。グーグル、アマゾン、イーベイなど最近のテクノロジー企業の多くが米国企業であることは偶然ではない。優れた研究を行う大学、積極的にリスクをとるビジネス文化、イノベーションを求める豊富なエクイティキャピタル、信頼できるビジネス慣行や法律の組み合わせは世界でも前例がなく、比類ないものだ。

 

しかし、まだ私たちはいくつかの試練に直面している。

 

第一に、今日のあらゆる新興企業は経済の逆風のなかでスタートしており、温かな環境にあった 90年代においてよりも厳しい試練を受けている。こういう時代に企業を興すことのいい点は、成功する企業は極めて強靭になるだろう。経済が安定した時に見てみれば、新興企業の中でベストの企業がより速く成長しているだろう。

 

第二に、米国や世界で多くの人々がソフトウェア革命から誕生する偉大な新興企業に参加するために必要な教育やスキルを身につけていないようだ。これはひとつの悲劇だ。とうのも私が経営したすべての企業は優秀な人材に渇望していたからだ。シリコンバレーのソフトウェアエンジニア、マネージャー、マーケッター、セールスは、彼らが望むならいつでも、高収入、高い雇用条件を引き出すことができる。にもかかわらず、国の失業率や不完全就業率は非常に高い。この問題は見た目よりもひどい。というのも、既存業界の多くの就業者はソフトウェアによる破壊の間違った側で立ち往生していて、二度と自分のフィールドで仕事をすることができなくなるだろう。この問題は教育によってのみ解決可能で、道のりは遠い。

 

最後に、新興企業は自分の価値を証明しなければならない。強力な文化を築き、顧客を喜ばせ、自社の競争優位を確立し、自社の企業価値が高まることを正当化しなければならない。新たに高成長ソフトウェア企業を既存業界において作ることが簡単だとは思わない。とても難しいことだ。

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私は、新しいタイプのソフトウェア企業の中の最高の数社と仕事をすることができて光栄に思う。そういう会社は自分が行っていることが本当に得意だ。彼らが私や他の人たちの期待に沿った業績をあげるならば、世界経済において高い価値を提供する企業として礎石になり、これまでテクノロジー業界が追及することができたよりもはるかに大規模に市場を席巻することになるだろう。

 

彼らの株価評価を問い続ける代わりに、ぜひとも新世代テクノロジー企業がどのように事業を行っているか、ビジネスや経済にとってのより大きな意味がなんであるか、そして米国や世界において新規の革新的ソフトウェア企業の数を増やすために私たちが協力して何ができるか、こうしたことを考えようではないか。

 

まさにビッグチャンス到来だ。私はどこに投資すべきかわかっている。

 (以上)

 

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