「トランプ流外交政策のロジック」Michael Auslin (WSJ)
2017年2月22日(水)
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日本のメディアは、北朝鮮関連の暗殺の事件が、連日トップニュースである。北朝鮮という漠然とした不安感と、ほどよいワイドショー的な側面が、営利企業としてのマスコミが殺到する理由なのだろう。しかしこれは、あくまでも供給側の理由にすぎない。
需要側は、いたって冷淡。マスコミというのは世界的に見てもおしなべて横並びなんだろうが、この視野狭窄は少々異常だ。リベラル系のソーシャルメディアが叫ぶように、何かを隠そうとしていると思われても仕方がないところもある。そのあたりについては、どちらの言い分にもさほど興味がない。
それはともかく。
ウォールストリートジャーナル日本版に、小ぶりながら、ピリッとした寄稿が掲載されていた。
トランプ流外交政策のロジック
筆者は、「The End of the Asian Century: War, Stagnation, and the Risks to the World’s Most Dynamic Region」の著者のマイケル・オースリン(Michael R. Auslin)
http:// http://yalebooks.com/book/9780300212228/end-asian-century
論旨はいたって明晰。行き当たりばったりに見えるトランプの外交政策には明らかな世界観があると。
『国内問題に直接影響を与える外交課題に関しては、トランプ氏は抜本的な変化を起こそうとしている。しかし純粋に対外的な課題に関しては、従来の考え方を踏襲することをいとわない。一貫性のなさと受け止められるこうした姿勢は、実は本人の世界観に深く根ざした本能によるものなのだ。』
ツイッターや公開の場での感情的な発言は、全世界が、「話半分に」割り引くようになっている。それに一喜一憂することの不毛さを思い知ったからである。米国の政権運営も、人選の試行錯誤を経て、一種の均衡値に収斂して言っている模様だ。そうなってくると、オースリン氏が言う通り、国内問題に直結するものから変えていこうというスタンスが浮き出てくる。
『グローバル化は必ず米国の利益につながるという考えを、トランプ氏は受容しない。これは、戦後から続く国際秩序のあり方へのトランプ氏の抵抗の中でも最も不変的なものかもしれない。しかし国内情勢に影響を与えない範囲では、トランプ政権は公約を実現させ責任を果たそうとしているようだ。』
無条件のグローバル化推進が南北の格差を相対的に縮小させていくというダイナミズムは存在するとしても、先進国のローエンドの労働層から後進国のミドルエンドの労働層への富の移転が生じることは否定できない。
経済学では、生産性の低い分野で起こる産業の衰退を当然として受け止める。そして失業等の問題は、産業調整によって解決するという考え方をする。学問ならばそれでいいのだろうが、現実には、産業調整される側の悲惨や怠慢などの心理要素が錯綜した政治問題を生み出していくのは、当然のことだ。
世界の中の経済要素だけを他から分離するという経済学思考の価値は否定しない。しかし現実の世界は、政治経済が抜き差しならぬ骨絡みの状態なのだ。
だからこそ世界の現実は、純粋なグローバル化、市場化と保護主義の様々な組み合わせの併存となる。
何を言いたいのかと言えば、こういった現実を前提としたうえでいえば、トランプの言っていること、とりわけ外交政策は、それほどハチャメチャとは言えないかもしれないということだ。
親トランプと反トランプの綱引きは続く。トランプが1年持たないというシナリオと、存外、アメリカの新しい成長の旗手となるというシナリオのどちらが現実となるのか、あるいは、その中間解が見えてくるのかは、未だ不明だ。英語でいえばremain to be seen。
年末は円高かドル高の綱引きも結局は、この綱引きをどう読むかということにかかっている。