Creative Middle Classが真っ当な生活ができるようになるために;Kickstarter
ずっとPC画面やスマートフォン画面でテキストを読むのにも疲れてきて、ちょっとしたPodcastシフトをしている。目が弱ってきた時のためにも、英語での聞き取りを上げておかなければという防衛モードもある。た視聴覚とひとくくりにするものの、持続性という意味で聴覚は馬鹿にしがたいものがある。読むということが集中を要求するのとは一味違った知的な化学反応の可能性もありそうだ。
お気に入りのPodcastというと、Time Ferris, Glen Beckなどがある。特徴は、声の良い人。内容も大事だが、声というのは本当に重要だ。
その伝でいうと、ちょっと早口かつ甲高い声で好みとは言えないが、Jason CalacanisのThis week in startupsは、毎週、旬なテクノロジー企業のCEOのインタビューが中心なので、楽しみにしている。
アーカイブの中で、Kickstarterの創業者の一人であるCEOのYancey Stricklerのインタビューがあった。
VCから調達しているが、IPOもバイアウトもありえない。株主も納得していると言い切るところなど抜群に面白い。
Union Square VentureのFred Wilsonにも納得してもらってるしとか彼の苦笑いが浮かぶような発言だ。
その中で、Amanda Palmerの毀誉褒貶のあった大型調達や、Kickstarter発の作品がオスカーやサンダンスフェスティバルの常連になっている状況などを語っている。
http://thisweekinstartups.com/yancey-strickler-kickstarter-launch-festival/
確かに、クリエイティブ活動の重要プラットフォームになっていることに間違いはない。
Tidalのようなトップアーチストだけの聖地(とはまだ言い切りたくはないが)ではなく、Kickstarterはバイトしながら、一生懸命音楽づくりしている地方のバンドに、ツアーやアルバム作りのチャンスを与えているのは事実だ。
ただKickstarterも明確に言っているように、このプラットフォームは、アーチストたちに安定した収入を与えることを目的としていない。
ツアー費用は負担できても、その期間の生活費の負担は決してなくならないという現実を
Newyorkerが冷徹に報じている。
http://www.newyorker.com/business/currency/can-crowdfunding-replace-artists-day-jobs
ELIZABETH WEISSが取り上げたのは、ジョージア州Statesboroのソウル、ファンクバンドのThose Catsだ。
彼らは自分たちのデビューアルバムの資金調達のために、Kickstarterを利用した。
Kickstarterでのマーケティングのコアであるビデオも訛り懐かしの感じで楽しい。
プレゼンをしているドラマーのScottはコックで生計を立てている。
彼らが調達したのは3,459 ドル。
アルバム制作のための資金調達としては悪くないできだ。でも当然、バイトを辞められるわけではない。
Kevin Kellyが昔、1000人の本当のファンがいれば、新しいテクノロジーを使えば、多くのミュージシャンが真っ当な生活(honest living)ができるようになるという発言をした。ロングテール真っ盛りの頃だ。
(検索してみたら、その記事には七左衛門さんの翻訳がされていることが、わかった。http://memo7.sblo.jp/article/12799892.html 確かに紙の出版の世界でも、毎回1000冊買ってくれる固定ファンがいれば、出版も成立するという話を聞いたことがある。)
クラウドファンディングとなるとAmanda Palmerの百万ドル調達の話や、テレビ番組がキャンセルになったVeronica Marsのプロジェクトとか派手なものばかりが取り上げられることが多いが、これは、例外中の例外だ。
ジョージア州のThose Catsのようなバンドがほとんどで、クラウドファンディングによって真っ当に生計を立てられるわけではない。
Kickstarterで調達を行った5万6000件中、その4分の3は調達額が1万ドル以下。クラウドファンディングのイメージキャラクターは、どぎつい化粧のAmanda Parmerじゃなくて、実直なThose Catsなのだと彼女は嘆く。こういうバンドは、当然ながら、音楽で食っていけるはずもない。
芸術への愛の名のもとに、いかに多くのアーチストたちが悲惨な低賃金労働に耐えているか。芸術のために、アルバイト(本業?)漬けの毎日というのが普通の日常なのだ。
(これは当然、アメリカに限った話ではない、ファッション、メディア、アートの世界では普遍的な状況なのだろう。)
KickstarterのYancey Sricklerの父親もも、ギタリストで、カントリーシンガーだったが、一生、ウォーターベッドのセールスマンとして全国を旅していたらしい。
クラウドファンディングがアートの世界に大量の現金を流し込んでいるのは事実だ。
しかしながら、支援者たちが、プロジェクトにお金を寄付するのは、アーチストを助けて、自分もプロジェクトの一員となるためである。クラウドファンディングの参加型倫理とでもいうべきところか。生活費の支援のサイトもないことはないが、規模は小さいという。
Creative Middle Classの生活という観点から見ると、プロジェクトの成功を契機として、アーチストとして生計が立つようになるというような可能性を除いては、あまり役に立ってはいない。
良くも悪くも、Kevin Kellyの言う、真っ当な生活をするための第一歩にすぎないのだと、ちょっとほろ苦いこのコラムは終わっている。