ニコニコ動画は、スポーツ観戦を救えるか
今年のMLBはつまらない。イチローは絶好調だが、松坂も上原も故障者リスト入りだし、松井もヤンキーズであまり必要とされなくなったようで淋しい。最近は、深夜のプレミアリーグ今年のベストマッチのような番組を毎回録画して、ウィニングイレブンとからめて楽しんでいる。
日本人のぼくは、MLBファンといっても、個別のチームというよりは、日本人プレイヤーのファンなので、試合全体というよりも、どうしても、個別のプレイにフォーカスしてしまう。そのあたりが、どうも、MLBを心底楽しめない理由なのだろう。
野球世界での日本人プレイヤーのレベルに比べれば、日本人の格下感の強いサッカーの世界で、日本人プレイヤーなど誰もいないプレミアリーグでさえ、試合自体を楽しめるのとはかなり違った視聴者体験である。ウイニングイレブンというバーチャルな装置の存在も、この体験を増強してくれているのは事実だ。これに比べれば、野球ゲームはさっぱり楽しめなかった。
(マンUで活躍する、パク・チソンの存在も特筆すべき点だ。若い頃、Jリーグで頭角を表し、ヨーロッパサッカーに雄飛したということも、ぼくの親近感をそそる。)
スポーツにとって、試合がエキサイティングであることは当然なのだが、スポーツの楽しみというのは、それに限らない。
MLBやプレミアリーグの中継で映し出されるファンの喜怒哀楽の方に魅力を感じる。
ぼくたちが、日本のプロ野球や、Jリーグで、翌日のスポーツ新聞を楽しみにするのと同じように、MLBやプレミアが楽しめるならば、もっと楽しいだろう。
NHKのMLBダイジェストや、サッカーダイジェストのような番組で、選手や評論家だけでなく、普通のファンの蘊蓄のあたりをもっと取り上げると面白いのになあと思う。
松井秀喜のホームランに熱狂する観衆という風景だけでなく、彼らがその瞬間について語る蘊蓄をもっと聴きたい。マリアノ・リベラでさえ涙ぐんだという、あの、松井の狂喜のホームイン(ホームベースで跳んだあのシーンだ。)について、評論家や、ファンが語る言葉をぼくたちはもっと聴きたかった。
アメリカにいたころは、あれほど大好きだった、NFLに今一つ燃えないのも、日本では(仕方がないとはいえ)満遍なく、いろんなチームの試合をやるからだ。
基本的にアメリカンフットボールは、毎週日曜日に、自分の地域のチームが、他の地域のチームと死闘を繰り返すのに手に汗握る体験であり、月曜日にオフィスで、コーヒー片手に、同僚と昨日のプレイについての感想戦を戦わせる楽しさだったのだ。
アメリカの場合、出身地ごとにお気に入りチームがあるので、シカゴ出身の同僚は当然、ベアーズ、ボストン出身はペイトリオッツファン。これがMLB,NBAなどメジャースポーツそれぞれにあって、地元のチームを応援しないというのは想像もできないことだったのだ。
ニューヨークで暮らしていた僕にとってはジャイアンツで、そしてかなり離れて、ジェッツだったわけだ。
こういった雑談や、雑誌や新聞や、ニュースでの蘊蓄の宇宙の中に浸ることがフットボールファンであるということだったのだ。
そして地元が出てようが出てまいが、スーパーボールだけは、大勢で見たい体験だった。
ぼくも、自宅に同僚などを呼んで、ピザや中華とビールで、ゲームを満喫した楽しい記憶がある。
そういったすべてと切り離されたフットボールの衛星中継に何の魅力もあるはずがない。
ニコニコ動画で、プレミアリーグやNFLの試合に、蘊蓄や野次を流しながら、見たら、こんなプロスポーツ観戦という宇宙を少しは回復できるのかなあ。銭ゲバのプレミアや、NFLなんて、本質的に難しいのかもしれない。
さらに、知らない人との匿名観戦というニコニコ動画のアーキテクチャーと、仲間うちの雑談観戦というのはちょっとカテゴリーが違う気もする。
まあ、いずれにせよ、20年近く前の、フットボール観戦はとっても楽しかったのだ。せっかく、テクノロジーが発達したので、そのあたりを使い回して、類似した楽しさを創造できればいいのになあ。