Redditの歴史 その9:Reddit Gold決戦の金曜日!
一目ぼれの恋愛で結婚した二人。片方は、社会的にも認められたビジネスマン。彼は、恋人の野性的な魅力に魅かれた。しかし一緒に暮らし始めると、そのお互いの幻想がどんどん壊れ始める。コンデナストとRedditのM&Aにも隙間風が吹くのは早かった。とりわけ、コンデナストの紙メディアのビジネスが変調をきたしはじめると、舅小姑入り混じっての、いじめが始まる。
まるで、月9のトレンディードラマが、昼間のメロドラマに変わったようなものだ。
コンデナストでの、最初数か月はうまく行った。人手不足にもそれなりの対応ができるようになった。
採用プロセスに時間がかかったものの、Redditの初期に出会ったJeremy Edbergなどを雇うことができた。サーバーが必要になれば、Kouroushが小切手を切ってくれた。
Redditは買収後も、トラフィックを拡大し、プレスカバレッジも順調に増え続けた。コンデナストは基本的にRedditのやりたいようにやらせてくれた。
なにより、創業者たちは皆リッチになっていた。
「SteveとAlexisにとって最高だったのは、コンデナストでは、そんなにハードに働かなくてもよくなったことだった。ブラブラする時間もできた。」と傍で見ていたTwitchのEmmettは思い出す。
彼もサンフランシスコに引越しして、次のプロジェクトのJustin.tvに取り掛かっていた。
「皆1日8時間労働だったので、一緒にディナーに行ったり、一杯やる余裕があった。なんとも牧歌的な時代だった。」とEmmet.
しかしAaronだけは違っていた。仲間は、皆、彼は早々に辞めて、手にしたお金で彼にとっての何か新しい大きなことa new big thingに取り掛かるのだろうと思っていた。ところが意外にも彼はコンデナストでゆるく働き続けることを選んだ。
2006年末に、Aaronは突如オフィスに出てこなくなった。そしてその1か月後、突然欧州で見つかった。こんな彼の行動は、コンデナストに大きなショックを与えた。
翌年初めには、彼は自殺予告とも読めるブログを投稿した。さすがに、これには創業者たちも動揺し、Alexisが警察に電話をする騒ぎになった。
コンデナストは、こういったAaronのエキセントリックな行動にうんざりし、辞任を求めた。しかし彼はそれに抵抗した。
内部に詳しい人によると、Aaronは「メルトダウン」を起こしたという廉で最終的に解雇された。
こういった経緯を経て、Aaronは大企業に勤めるかわりに、大企業相手に戦うという道を選んだ。
彼はStop Online Piracy Act(SOPA)反対運動の先頭に立ち、パブリックドメインにおける情報を自由の必要性を主張した。
パブリックドメインにおける情報の自由の追求で、彼はトラブルに巻き込まれることになる。
2011年7月にMITのデータベースに侵入して、400万件以上の学術論文をダウンロードしたという嫌疑で逮捕されたのだ。
連邦検事は2013年の初めにAaronを裁判にかける予定だった。懲役35年という脅しをかけていた。
2013年1月11日、Redditから追放されてから約6年後に彼はニューヨークで自殺した。26歳だった。
Alexisはメディアのインタビューに、悲しいとしか言いようがない。彼の自殺の理由など納得のいく説明などつかないと答えた。
2008年11月からレイオフが始まった。不況が勢いをまし、出版業界も業績不振に陥った。コンデナストは傘下のWired.com, Portfolio.comなどでの人員整理を行った。Reddit買収の責任者で、その経営をサポートしたKouroshも解雇された。
レイオフ当時にRedditの古株ユーザーの中から採用された従業員は、その後、数年採用凍結が続いたと語っている。Redditはコンデナストに対して新規採用を正当化できるような収入を生み出していなかったのだ。
「この採用凍結は、コンデナストが行った最悪の失敗だ。当時、このサイトは信じられないような急成長を遂げていたからだ。」とこの従業員は言う。
採用が全くできず、気に入った候補者の履歴書を人事部に送っても、一切採用レターが出ないという事態にSteveも苛立っていた。
コンデナスト側の言い分は、問題は、Redditのメンバーに大企業で働くという経験が全くなかったことにあるのだということだった。たしかに彼らはみな大学出立てで、大企業でリソースを要求するにはどういうプロセスを踏むべきかなどに関する経験が全くなかった。
Mashableからの質問に対して、コンデナストからは正式の回答はない。
どちらの理由が正しかったかは別として、いずれにせよ、Redittにとっての影響は同じだった。
4年間の波瀾万丈の年月の後に、チームは皆、何か新しいことを始めたいという欲望が膨らんでいた。それもあって、採用すらできないことへのフラストレーションはどんどん高まった。創業メンバーは、コンデナストとの契約が終了するのを待ちかねるように、一人ひとり会社を去り始めた。
Alexisは2009年10月27日のブログに、雇用契約が今年のハロウィーンに終了するので、僕たちはredditを去ることになると、自分とSteveが辞めることを公表した。
「皆さんに知っておいてほしいもっとも大切なことは、僕らがいなくなってもredditは何も変わらないということだ。」
2010年にRedditチームは本来であれば、絶好調であるべきだった。主要なライバルだったDiggはこの年の8月に、今でも不評なデザイン変更を行った。 変更の目的は、コアユーザーではなく、出版社や広告主のためだった。
この変更の結果、Diggは自己崩壊した。
数日後、ユーザーたちが反乱を起こした。
Diggのフロントページに一斉にRedditへのリンクを投稿したのだ。
Diggの崩壊によってメディアのRedditに対する取扱いが変わり始めていた。しかしこれは会社の現場にはあまり影響がなかった。
Redditは最初の数日で大量の新規ユーザーが増えたぐらいである。しかしこういう影響も短命だった。
Diggが崩壊しようとしまいと、Redditのトラフィックは、毎年2倍になったし、Diggの致命的デザイン変更後もその勢いは止まらなかった。
これはという特別の出来事もなく、トラフィックはただただ拡大し続けた。
しかし本当に深刻な問題は、この会社が創業者をすべて失ったということだった。そして親会社からリソースを獲得するために、広告収入を増加させるために苦闘することになった。より多くの従業員が必要なので、より多くのお金が必要になったのである。
2008年の後半に雇われた開発者はこの状況を「reddits needs help」というブログを書いた。
たしかに無神論者や、ゴリゴリのリバタリアンや、好物とポルノとRon Paulというような連中で一杯のサイトに広告を出したいと思うまともな企業がどれだけいるだろうか。
2010年の中ごろの社内の雰囲気は、最悪だった。スタッフは皆意気消沈しており、毎週、何か事件が起きて、そのたびに、パフォーマンスが悪化し、ひどいときにはサイト全体がブラックアウトしてしまう。前向きの機能追加など考える余地もなかったという。
Redditは、熱心なコミュニティメンバーに対して、特典も何も決まっていないのに、新しい有料会員への加入を呼びかけた。Reddit Goldというプレミアムサービスはユーザーの中では笑い話だったのだが、Redditの従業員たちはこれを真剣に宣伝しなければならなくなったのだ。
一つ問題があった。コンデナストがこのことを知らなかったことである。最古参のスタッフとなったChrisと先ほどの開発者は意図的に、このアナウンスを遅らせた。
夏の金曜日の正午まで。
理由はコンデナストの経営陣が週末の休みに入るのを待ったのである。
Redditはコンデナストが広告料ではなく、有料メンバーからの購読料を取ることを喜ばないかもしれないと考えたからだ。
この週末で、コンデナストの経営者たちが間違っていることを証明するという大きな賭けに出たのだ。
今やRedditに最古参でもっとも偉いスタッフとなっていたChrisが、ゴーサインを出した。彼も、そのうちAlexisやSteveの後を追って辞めることになるだろうと思っていたので、失うものなど何もなかった。
新しいオプションをアナウンスした後に、Chris達は近くのインド料理店にランチに出かけた。そして自分たちの携帯電話をじっと見つめた。
特典もはっきりしないReddit Goldへの加入希望メールが殺到した。
チームは寄付がどんどん貯まっていくのを横目で見ながら、いくつかの機能を一気に作り上げた。
月曜日の朝コンデナストの経営陣は、テクノロジーニュースの一面を見て、腰が抜けるほど驚いた。自分の子会社がユーザーに物乞いをするというヘッドラインが彼らの目に飛び込んできたからだ。
Redditは、この離れ業で、この週末だけで6桁の収入を得たのである。
Reddit Goldはこうやって新サービスとして定着することになった。
決戦の金曜日はひとまずは彼らの大勝利に終わったように思えた。
(その9 以上)