21世紀ラジオ (Radio@21)

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法輪功はデジタルに反撃する

ニューヨークタイムスのBrad StoneとDavid Barboza連名の記事。

中国政府の役人たちと、海外の反体制派の、サイバー空間での、戦闘が詳細に描かれていて、サイバー戦争の日常が良くわかる面白い記事だった。

Scaling the Digital Wall in China

(中国のデジタルウォールをよじ登る)

http://www.nytimes.com/2010/01/16/technology/internet/16evade.html?ref=asia&pagewanted=print

中国のデジタルな万里の長城は難攻不落だ。

しかし、万里の長城が、モンゴルからの侵入者を止めることができなかったと同様に、中国市民も、政府の高度なインターネット検閲システムを回避する方法を見つけている。

彼らは政府のフィルターをかいくぐって、政府が危険とみなすオープンなウェブの世界に到達している。すなわちユーチューブ、フェイスブックのようなサイトである。グーグルが中国から撤退という脅迫を実行すればGoogle.cnもその対象に含まれることになる。

中国でデジタルな不服従運動を行っている人が何人かは正確にはわからない。しかし中国の大学生や世界中の活動家たちは、昨年の北京オリンピック共産党60周年イベントの間中、ウェブの洗浄努力を強化した時にこの数は急増したという。

この粛清の一環として、政府はポルノサイト、ブログ、オンラインビデオサイト、フェイスブックツイッターなどへのアクセスをシャットダウンした。

政府のフィルターを回避するためにこういったツールを使っているのは、いまだ中国人のほんの一部にすぎないが、その利用がそんなに難しくはないということは、ほんの数年前なら可能だったタイプの厳密な検閲を強制することが困難になっていることを示している。


ある中国の工業学校の卒業生は、毎朝830に起きると、デジタルな万里の長城を駆け上ることで、オープンでグローバルなネットワーク経由でバーチャルな旅をはじめる。彼は、自分で設定したプロクシーサーバーと呼ばれるリンクによって、海外のコンピュータと接続する。費用は、20数名の友人たちとシェアすることで月2ドル程度のコストで済む。

そして自分のブログを書いたり、グーグルリーダーやツイッターでニュースをチェックすることで一日の情報収集を開始するのである。

政府が個人を取り締まることはほとんどないらしい。政府のターゲットは禁止されたトピックをオンライン上で発信する著名な反体制派なのだという。

いきおい、大学生、人権活動家、ブロガー、ジャーナリスト、そして中国の多国籍企業は中国政府の設定した情報障壁を回避するこういったツールに殺到している。理由は、そうしないとグローバルなオンラインコミュニティにアクセスできないからだ。

有名なブロガーで活動家のIsaac Maoは、どんどん人気サイトが中国政府によって閉鎖されているため、ブロックされたサイトへのアクセスを求める人の数が増加している。

こういったデジタル反体制派たちは、小規模なコンファレンスやネットワークを組織して、禁止された情報へアクセスするための情報やトリックを共有しはじめている。「人々は、自分達がいつも訪問していたウェブサイトへのアクセス権を政府によって取り上げられたことへに恨みを抱くようになっている。」

しかし政府がインターネットに対するコントロールを強めれば強めるほど、オンライン上の封鎖線を回避するための努力も拡大している。

その結果、中国政府とオンラインの自由を求めるグローバルな闘争グループとの間のテクノロジー的イタチごっこが行われている。

カリフォルニア州サニーベールに拠点を置くスタートアップ企業のAnchorFreeは、Hotspot Shieldという名前の無料の、広告支援によるソフトウェアを提供することで収益事業をを構築した。このソフトは、インターネットユーザーのデータを暗号化し、ユーザーのアイデンティティを覆い隠すことによって世界中で750万人の人々をインターネットへと秘密裏に入り込むことを可能にしている。

しかし昨年夏に、中国政府はAnchorFreeのウェブサイトを閉鎖して、中国市民がこのソフトウェアのダウンロードが行えないようにした。

即座に、ユーザーは、Eメールで、このプログラムのコピーを送ったり、このプログラムが手に入る他のサイトへのリンクを添付するようになっている。AnchorFreeの創業者のDavid Gorodyanskyによれば、中国でのこのプログラムの使用はそれ以降2倍になった。


さらに、多くのNPOがこういった検閲に対抗するツールを開発している。


グローバルインターネットフリーダム(GIF)というグループが、こういったツールをいくつも作っている。このグループは1999年に、米国に居住していた法輪功(Falun Gong)のメンバーが、自分たちの活動を母国にEメールで自由に送るために設立した。

現在、中国で約100万人の人々がこのサービスを利用しており、このサービスを全世界で50名のボランティアが保守している。

ユーザーはこのツールを利用するためにはGIFのプログラムをダウンロードしなければならない。そして彼らがサーバを使い、世界中のサーバのIPアドレスを探す際に、GIFのボランティアがこれらの接続をインスタントメッセージングサービスのように、複数のチャネルを通じて配信するのである。

メリーランド州NASAのエンジニアであるDavid Tianは、本業よりも、夜間のGIFでの仕事の方が忙しいと言う。彼曰く、最近は中国政府の官僚たちが、こういったIPアドレスを傍受して阻止することができるようにGIFのユーザーになりすますようになっているという。これに対抗して、GIFのボランティアは今これらの政府官僚を見破り、それをトラッキングし、情報を彼らの手に入らないようにするために日夜努力している。

さらに大きな課題は、中国やイランのような国からのサービスへの需要の急拡大についていくことである。

ボトルネックはこういう国のファイアーウォールではなく、我々の通信容量なのである。我々がこのサービスのために使える帯域には制約があるので、ユーザーが殺到すると、行列になるのだ。」

こういった組織の多くは、米国政府の金銭的支援を望んでいる。2008年度に議会はインターネットの自由を奨励するためのツール開発に約5000万ドルの予算を割り当てた。しかしその資金のほんの一部しか分配されていない。

保守系の政策調査グループのHudson Instituteによると、問題は、中国政府との関係をまずくさせる可能性のあるグループたちの活動に資金を提供することを連邦政府が渋っていることだ。

「これらの活動家の多くは、法輪功を実践している。国務省は中国を怒らせたくないのだ。辞書の中で、法輪功ほど中国を激怒させるような単語は存在しない。」

こういった官僚との戦いにも拘わらず、インターネットの自由のためにビッグブラザーと戦い続けている側の人々は、戦いは有利になってきているという。

ノースカロライナで、こういったソフトウェアを開発している中国系のエンジニアは次のように言う。

「インターネットのアーキテクチャが我々の仕事を容易にしている。インターネットの出発点は、オープンネットワークである。誰もがデータを発信し、受領できる。そして政府がインターネット全体を閉鎖したいと思わない限り、我々には優位性がある。」

(以上)