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グーグルが中国撤退してまで守ろうとしたものは何か(ニコラス・カー)

ニコラス・カーのグーグルの中国撤退に関する見立ては、彼が以前に書いた「グーグルが本当に怖い理由(補完財の戦略的価値)」のロジックが首尾一貫して流れていて、極めて明快だった。

http://ameblo.jp/whatawondefulworld/entry-10105583056.html

http://www.tnr.com/article/politics/gathering-clouds

彼は、グーグルが中国撤退も辞さずという声明を発表した動機は、見かけほど純粋じゃないと読んでいる。

たしかに、企業判断に倫理的要素があるのは事実だし、グーグルとその創業者たちも中国の検閲活動と共犯になるということの企業理念との葛藤に悩んでいることを隠さなかったが、昨日の判断は、ソフトな道徳判断というよりは、ハードなビジネス計算によって行われたのだと彼は言う。

もっとありていにいうと、中国発の自社インフラに対する高度なサイバー攻撃がなかったら、現状の中国当局の要求に応じて検閲協力を行うという方針を変えはしなかったはずだ。


彼らの背中を押したのは、突然の正義感の奔出などではなく、中国発のサイバー攻撃だったのだ。

グーグルの事業上の最優先課題は、我々がインターネット上でできるかぎり多くの時間を使い、より多くの個人情報をインターネット上に預けるようになることだ。

特に最近は、個人のコンピューティングの中心をPCのハードドライブから、オンライン上のコンピューティングクラウドに移そうと試みているところだ。

我々がネットを使えば使うほど、グーグルは我々のことを良く知ることができ、より頻繁に我々に広告を見せることができ、よりお金が儲かるという仕組みだ。人々がオンライン上で過ごす時間を増やすようにするためには、グーグルや他のインターネット企業はインターネットを安全でプロテクションが良く効いている空間であると感じてもらう必要があるのだ。

どのような形であれ、我々のウェブに対する信頼が破壊されるならば、我々はネットワークから撤退し、コミュニケーション、コンピューティング、そしてデータの貯蔵や処理するための別の方法を考えることになるはずだ。

そうなった場合のグーグルのビジネスに対する帰結は極めて深刻だ。

初期の列車や飛行機の運営会社が、その安全性と信頼性を説得したのと同様に、グーグルはネットが安全であることを一般の人々に説得しなければならないのだ。過去数年間、グーグルはウェブの警察官の役割を果たした。直接に利益に繋がらないことでも、人々がインターネット上に滞留する時間を増加させることなら、お金と時間を使うことを厭わなかった。

この文脈でいうち、今回の、中国反体制派のGメールアドレスやその個人情報を狙った中国発のサイバー攻撃は、まさにグーグルのビジネスの根幹を揺るがすものだったのだ。グーグルもユーザーのGメールに障害が起きていることを認めた。こういったことが続くと、インターネットクラウド上に、自分の個人情報を置くことに人々は躊躇するようになるのだ。

短期的でも長期的に、中国市場がどれほどグーグルにとって重要だったとしても、重要性の観点から、情報交換の人気メディアとしてのネットの完全性を維持することには劣るのだ。グーグルも多くの西側企業と同様に、中国の消費者にリーチするために自分の理念において多くの妥協をしてきたが、自社の事業の根幹がかかっているクラウドの安全性に関しては一切妥協はできなかったのである。