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グーグルと広告代理店、昨日の敵は、今日の友、明日はどっちだ

「想定範囲内の」動きではあるが、インターネット企業と既存勢力の合従連衡(あるいは野合?)が始まった。敵味方が、手を携えなければならないほど、今回の共同の敵(世界同時不況)は手強いということなのかもしれない。ただ、これが永久平和になるという感じはしないし、一時停戦で、敵味方の組み換えがここ数年で起こるのだろう。いずれにせよ、世の中にあるコンテンツ(デジタル、アナログを問わず)のかなりの部分の資金源となってきた広告モデルの危機の状況からは目を離さない方がいい。

マイクロソフトからのツイートでこんなURLが送られてきた。ERIC PFANNERという人の7月3日付の記事。

http://www.nytimes.com/2009/07/04/business/media/04digital.html?_r=2&ref=business

かつては不倶戴天の敵同士だった、広告代理店とインターネット関連企業も、今回の不況の深まりのなか、低迷する広告支出に対応するために、新しい方法を模索するために、手を携えるようになってきた。

先週、グーグルとマイクロソフトのCEOが、そろって、フランスで行われた広告業界の年次大会(the Cannes Lions International Advertising Festival)に参加した。これははじめてのことである。

消費者のオンライン利用時間が増加するなかで、インターネット企業と広告代理店は、デジタルメディアからより多くの収益を得るための方法を開発するために、協業を余儀なくされてきていることのあらわれだ。

デジタルマーケティングのトレンドを追いかけているContagiousというオンラインマガジンの編集長によると、「やむをえないというのが本音のところだろう。両社の協業がうまくいくとは限らないが、多くのデジタルコンテンツの収益化には、両社の協業が不可欠なのだ。」

マイクロソフトやグーグルは、ヤフーやAOLのような競合他社とともに、新しいタイプの広告(たとえばオンラインビデオスポット広告)の開発を模索している。

ただ、彼らのアイディアを単独で実現することはできない。広告主を多数クライアントに持つ広告代理店が、こういった新しいフォーマットの利用を、自分たちの企業クライアントに説得する必要があるのだ。これまでのところ、多くの企業は検索結果にリンクした広告を好んでいる。広告効果の測定が直接できるということが好まれている理由だ。

マイクロソフトは、WPPグループとPublicis Groupeという広告代理店のトップ2社とパートナーシップを組むことを発表。CEOのBallmerは、広告が、爆発的に拡大するオンラインコンテンツの資金源にどこまでなりうるかという点については、楽観的ではなかった。

広告代理店とインターネット企業はなさぬ仲だったとはいえ、互いに、互いの顧客でもある。最大の広告代理店持株会社WPPは、自社のクライアントの年間広告支出のうち8億5000万ドルをグーグルに支払っている。(WPPのCEOのMartin Sorrell)

Sorrell氏はかつてグーグルと広告業界の関係をfrenemyという造語で表した。Friendとenemyを合わせたこの言葉は、グーグルが、かつてはWPPが支配していた媒体購買(media buying)のようなビジネスに参入してきているという状況を表したものだ。広告代理店の経営者たちはさらにグーグルがお高くとまって、まったく広告を行わないことにも不満がある。

マイクロソフトはといえば、ここ数年、広告フェスティバルに、CEOはともかく、数百名の従業員を送ってきている。同社自体が巨大な広告主であり年間7億ドルの広告支出を行っている。媒体購買分野への参入や、広告代理店の所有などのマイクロソフトの一連の動きに、広告代理店も警戒感を隠さない。

マイクロソフトとグーグルの間の対決も、広告業界に場所を移しはじめている。

グーグルの検索分野での支配を崩すべく、マイクロソフトはBingという新しい検索エンジンを5月下旬に導入した。調査会社のcomScoreによれば、Bingによって、同社のオンライン検索における米国シェアは、8%から12%に上昇した。

グーグルも、新聞広告やラジオ広告の販売システムというプロジェクトで失敗という不慣れな経験をしている。CEOのSchmidtは、企業のマーケッティング担当者がグーグルの検索エンジン上のキーワードへのビッド価格を低くしていると発言した。グーグルでは広告はオンラインオークションを通じて売られている。

グーグルは、買収した、オンラインビデオ共有サービスであるユーチューブからの広告収入を増加させることにも苦労している。Schmidtはユーチューブでの新しい種類の広告フォーマットには高い期待を抱いていると述べた。さらに、新しいフォーマットのいくつかは、Publicisと共同で開発されていると付け加えた。

昨年1年かけて形をなしてきた、こういった協業関係は、広告代理店とインターネット関連の巨大企業の間の冷え切った関係の雪解けのはじまりを意味している。

その後、WPPはグーグルとデジタル広告の未来を検証するための調査を行うことを発表した。

先週、カンヌでは、Ogilvy & MatherやGrey, Young & Rubicamなどの代理店を傘下に持つWPPマイクロソフトと別途、調査プロジェクトを行うことを発表した。

傘下にSaatchi & SaatchiやLeo Burnettを持つ、Publicisも、マイクロソフトとの広範な契約を発表し、インターネットに関する連携に関して適正なバランスを取った。両社は、PC、携帯電話、マイクロソフトXボックスなどの多様な端末用の新しいデジタル広告を共同で開発しようとしている。テレビ視聴者ひとりひとり用の広告の送信についても検討をするらしい。

アナリストによれば、マイクロソフトとPublicisやWPPのような企業の間の新しい友好関係には別の理由もあるという。マイクロソフトは、Razorfishというデジタル広告代理店を売却しようとしている。この会社は2年前に、親会社のaQuantiveを60億ドルで買収した時に、同時に手に入れた会社である。

WPPとPublicisはともにコメントは避けているものの、買い手候補になっているという。(以上)

ロングテールクリス・アンダーソンが、近著Freeで、コンテンツ業界のぞっとするような未来を描いているらしい。コンテンツは今後どのように創造され、流通していくのか。読者としてのぼくは、そのあたりが気になって仕方がない。

当面、広告代理店とグーグルの合従連衡の行方は、ミクロに追いかけるべきだろうと思う。