21世紀ラジオ (Radio@21)

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巨大データセンターの裏側 その3

データセンターは昔から日の当たらない存在だったわけじゃない。1960年代には、巨大なメインフレームコンピューターはIBM本社に堂々と置かれていた。

「温室というニックネームのコンピュータ室は、役員室の近くにあった。経営者たちは、自分の会社がこういった機器に1500万から3000万ドルも使っているということをおおっぴらに見せびらかせたいと思っていたのだ。」(ケネス・ブリル アップタイムインティチュート)

過去数10年間、ITリソースに関する中央集中型と分散型のどちらかにするかをめぐる振れがあった。メインフレームとデスクトップコンピューターの戦いである。この戦いが最近反復されたのが、シンクライアントだ。多くのコンピューティングニーズを満たすために、デスクトップ上のソフトウェアやOSよりも中央に位置するサーバを使用するという考え方である。しかしオフィスが軽くなれば、どこか別のところが厚くなるわけである。すなわちどんどん巨大化するデータセンターに多くのサーバが置かれることになるのだ。

ITリソースを中央集中型にするのか分散型にするのかについては過去数十年間、右に左に振れている。メインフレーム対デスクトップコンピュータの戦いである。この戦いの最新版が、thin clientをめぐる最近の動きだ。ただ、どこかが軽くなれば、どこかが重くなるのだ。

オフィスが軽くなれば、どこかのデータセンターがどんどん巨大化することになるのだ。

ニコラス・カーは、その著書「クラウド化する世界」(”The Big Switch”)の中で、メガデータセンターの台頭と産業革命の間の類似性を指摘している。以前は水車による発電に頼っていた、新興産業が20世紀までに、遠隔地の発電所で生み出された電流で機械を稼働させることができるようになったように、テクノロジーと伝送速度の進展がコンピューティングに遠隔で、アクセス可能なサービスのクラウドに、公共事業(蛇口をねじれば水が出て、使った分だけ使用料を支払うかたちの事業)ようなビジネスモデルが可能になりつつある。

これは企業にとっても社会にとっても重大な意義がある。ソフトウェアを買い、IT関連の従業員を雇い入れる代わりに、企業は、顧客情報管理のためのデータベースソフトウェアであるCRMを、自社の利用度に応じて、セールスフォースドットコムのようなインターネット企業にアウトソースするようになる。

「町の花屋のようにセールスフォースドットコムに2つのシートしか持たない顧客も、スターバックスやデルのような6万5000シートを有する顧客と同じアプリケーションへアクセスすることができる。」(アダム・グロス;セールスフォースドットコム)

数年前だと、5万社に対してCRMアプリケーションを配信したり、すべての曲をサーバー収容するような大規模プロジェクトは超大手企業でもないかぎり、対応不能だったのだ。今では、町の花屋でも、こういったプロジェクトに自分なりに対応するためのアーキテクチャが完備している。

いまだに多くの企業が自前のデータセンター運用を行っているが、ITハードウェアに対する高コストの投資を行わず、他人のインフラに乗っかるという意味で、ユティリティコンピューティング網を利用する企業がどんどん増えてくるだろう。

既に、アマゾンウェブサービスは、手数料さえ払えば、外部の顧客に対して同社の巨大なコンピューティングを利用可能にしている。アマゾンのこの部門はすでに、アマゾンの巨大な小売部門よりも多くの帯域を利用するようになっているし、そのシンプルストレージサービスは520億件のバーチャルなオブジェクトを収容している。

グーグル、ヤフー、マイクロソフトのような企業にとっては、データセンターは工場である。

自分たちの工場であるデータセンターでこれらの企業はサービスを製造している。

マイクロソフトもデスクトップソフトウェア帝国の陰りの中で、グーグルのようなサービスベースモデルに対応するべく、巨大データセンターを展開しはじめている。

昔なら、機能停止した時にしか、経営者が気にもとめなかったデータセンターという地味なインフラ層に、マイクロソフトはフォーカスを当て、将来の差別化要因にすることを目指しているのである。

米国のサーバ台数は1997年から2007年までの10年間でほぼ5倍になった。インターネットによって促進されるビジネスモデルの拡大と、会計基準や金融規制が厳格化によるデータ保存やコンプライアンス要求とあいまって、データセンタースペースの需要が急増した。

さらに個人向けウェブサービスの急激な拡大を理解するために、フェイスブックの状況を見てみることにしよう。

フェイスブックにかかわるあらゆる数字は驚くべき内容だ。2億人以上のユーザーは、150億枚以上の写真をアップロードしており、フェイスブックは世界最大の写真共有サービスになっている。この拡大に伴って、それに見合ったインフラの拡大が必要であり、彼らはそのための資金調達活動を精力的に行っている。

「我々はこの急成長についていくために、文字通り、全ての時間を使っている。基本的に我々が行っているのは、データセンターのスペースと電力を買い続けているのだ。」(フェイスブックの技術運用部門VPのJonathan Heiliger)

彼曰く、フェイスブックは、マネージドコロケーションファシリティにスペースを借りるには大きすぎるが、自前のデータセンターを保有するほど大きくはないのである。

「5年前、フェイスブックは、創業者のMark Zuckerbergの寮の部屋の机の下にある数台のサーバーだった。その後2種類のホスティングファシリティに引っ越しし、その後、次の段階に入った。具体的にはサンフランシスコのベイエリアで、REITからデータセンターを借りて、そこを中核として、サービスを拡張することにしたのだ。その後、我々は何棟ものデータセンターを有するまでになった。」

フェイスブックや、数百万ユーザーをかかえるインターネットサイトにとっての大きな課題は、スケール可能性(scalability)である。すなわち新しいアプリケーションやユーザーがつけ加わったときに、インフラが稼働しつづけられるようにすることである。(ウェブサービスに人気者のオフラ・ウィンフリーが参加した途端、突然17万人の友人が集まるというような信じられないくらいの現象が、インターネットの世界では起こるのだ。)

もう一つの問題は、フェイスブックのデータセンターがどこに置かれ、そのユーザーがどこに存在し、その間の距離はどのくらいかを決定する、いわゆる反応時間(latency)の問題である。平均的ユーザーはさほど関心を持たないかもしれないが、フェイスブックを利用するには、ユーザーのブラウザーと多くのサイトのサーバー間の往復旅行を何十回も繰り返す必要があるのだ。

2007年に、フェイスブックバージニアに3番目のデータセンターをオープンし、その容量を拡大し、欧州やその他地域において増加するユーザーへのサービスに対応した。ところが、インドまでその通信を拡大するとなると、遅延の問題が生じてくる。物理の法則によって制限されているビットは、光の速度よりも速くは移動できない。物事をはやく進めるために、フェイスブックはこの往復回数を減らすことができる。具体的には(新しいデータセンターを作ることによって)データを可能な限りユーザーの近くに置くこと、世界中のインターネットのPOP上で普通に取り出し可能なデータを貯蔵する、コンテンツデータネットワークを利用することなどだ。

デジタル時代のリアルタイム性に対する強いニーズを理解するには、フェイスブックの熱狂的なファンが、友人からのレスポンスを時々刻々とチェックすることだけでも理解できるかもしれないが、ビジネスの世界でもこれを示す例が存在する。

ニュージャージ州のウィーホーケンにあるデータセンターには、いくつかの巨大取引所の取引用エンジンが稼働している。

最大手のデータセンターREITでDigital Realty Trustが所有し、ホスティング大手のSavvisが
管理しているNJ2という名前のデータセンターは、金融機関と金融市場の隣接性を可能にしている。隣接性といっても、物理的市場の存在するウォールストリートへの隣接性ではない。金融機関のマシンが、取引所のマシンの近くに存在するということを意味している。さまざまな金融機関や取引所間で取引の実行速度の競争がおこなわれる中で、ひとつのデータセンター内にそれぞれの当事者のマシンが存在することの意味は大きいのだ。「かつては物事は秒単位だったが、今では1000分の1秒単位なのである。」(SavvisのVarghese Thomas)

こういったミリセカンドの競争の中では、自前のセンターからの接続によって生じる遅延が致命的になる可能性があるのだ。このため彼らはデータセンター内部へと移動してくることになる。

同一施設の中に自社のマシンを移行させることで、サーバ間通信にかかる時間が1秒の100万分の1にまで低下する。この理由で、フィラデルフィア証券取引所という米国最古の取引所が、2006年に、NJ2というフィラデルフィアから80マイル離れたデータセンターにマシンを引っ越しさせたのである。(その4に続く)