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フランス「革命」のリスク France's next revolution (トランプのアメリカ)

2017年3月4日(土) 15℃ 晴れ時々曇り

 

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議会演説のトランプが「大統領らしく」振る舞ったということを強引に好材料としたのか、はたまた実態経済が強いのかは定かではないが、市場の強引な意欲に引きずられて、ドル高、株価高の方向への動きは続いている。

 

為替という観点から見ると、米国経済の強さということを前提にすると対ドルでの円高の反転の要素というのは弱まったようだ。市場というのは、常に、時々の旬な材料を探し求めるわけであり、次は欧州各国の選挙に関心が移っているようだ。

 

その中でも、ドイツとならんでECの中核を占めるフランスの大統領選で極右のルペンが最有力候補の一人になっているということが、Brexitに続く、FrexitそしてEUの瓦解というリスクシナリオを浮上させてきた。市場が円高リスクというものを全く意識しなくなったわけではない。

 

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しかし円高というものをリスクとしてのみ取り上げる世の中のバイアスはいったいなんなのだろう。長期的に自分が作って外に売ったものが経済活動全体の制約条件になるということは確かで、輸出企業が日本の経済活動全体の原資を輸出によって稼ぎ出しているということから考えれば、マクロ的、中長期的に見た日本全体に与える円高のリスクというのは否定できない。

 

しかし個人に戻して考えれば、海外旅行が割安になることを喜ぶ人々や、海外企業の買収に有利になる人もいるわけなのだが。

 

円高を全きリスクと捉えるという世論の前提となっている充たされるべき日本の国益、国民の幸福というものをもう少し具体的に考える必要があるような気もする。

 

前置きはともかく、フランスで何が起こっているのだろうか。

 

どの国も、どことなく似ていて、少しだけ違う。

 

第二のフランス革命とまで言葉がインフレしているこの国も、国民の変化を求める声にあるのは、経済、治安で押し寄せる不安と、それに対するエリート層の無策に対する怒りだ。

 

イギリスが離脱を決めた後の、EUの中核を占めるのはフランスとドイツである。そもそもドイツを抑え込むことを目的としたフランスのイニシアティブが強かったはずだし、欧州というものを自分たちのアイデンティティの中核ととらえる点においてフランス人に若くものはなかったはずなのだ。

 

しかしここ数十年、経済面での停滞がひどい。ドイツが堅実な成長を遂げているのに比べるとただでさえ誇り高い国民がイラつくのも無理はない。

 

4月が一回目の投票で、予想によれば過半数を占めるものはいなそうなので、5月の決戦投票で上位二人の競り合いになるらしい。

 

中道右派フィロン候補は、家族に対して不正に給与を与えたとかいうかない「残念な」スキャンダルで人気急落である。これは政治的暗殺だとかいって、一応、大統領選から撤退はしていないが、有権者がこの「残念きわまりない」人をまともに耳を傾けるはずもない。。

 

すると、なんと、1958年の第5共和政以降、政権を二分してきた社会党共和党という二大政党が、大統領候補を出さないという異例の状況が生じる可能性が大なのだという。それをして、革命と呼びたくなる気持ちはわからなくはない。実際、言葉のインフレとは言い切れない政治的危機なのかもしれない。

 

世論調査では、極右の国民戦線のルペン党首が1回目の投票では首位になるが、決戦投票では中道系の独立候補のマクロン元経済産業デジタル相が勝つというのが、今のところ大勢を占める予想ということが、いくつかの新聞の要約になる。

 

一躍最有力候補に躍り出たマクロン氏も、フランスを前進させるという掛け声はいいが、政策の公表も先伸ばして、ようやく先週政策を発表したところだという。しかも、真の意味でのフランスの慢性病である停滞に対する本格的な改革の覚悟も準備もなさそうという冷ややかなコメントも多い。

 

社会党共和党で見かけ上の政権交代は起こるものの、本格的な改革は、フランス革命以降(?)ない、長期停滞がフランスの代名詞になってしまったという嘆きの声が聞こえてくる。

 

今週のエコノミストのカバーストーリーの見立ては頭の整理に役に立つ。グローバルなトレンドにもなっている政治的対立軸のシフトがもっとも鮮明にフランスの大統領選に現れているという見立てである。

 

www.economist.com

 

『この異常事態の意義は強調しすぎるということはない。最近のグローバルなトレンドのもっとも明確な現れである。政治的対立軸が左派と右派ではなく、オープンかクローズかになってきているということである。この対立軸の再編はフランスの国境の外にも波紋を広げている。この動きはEUを再活性化するかもしれないが、台無しにしてしまう可能性もある。』

 

 

 

現職のオランド大統領の空前前後の不人気という大チャンスを共和党の候補は、家族に対する不正給与という絶妙の馬鹿馬鹿しいスキャンダルで台無しにしてしまった。

 

見かけの政権交代さえままならぬ、愚かで品性下劣な支配階級への有権者の怒り。エリートに対する下からの怒りに駆動されるポピュリズムという最近のパターンにぴったりはまっている。

 

 

trailblazing.hatenablog.com

 

昨年の世論調査では、世の中が悪くなっているという回答が81%を占めていたという。フランス人の憂鬱の原因のほとんどは経済的なものだとエコノミストは言う。経済の長期低迷の結果、フランスの若者の4分の1が失業中。うまく職についているとは言っても、親の世代のような安定した長期的雇用に恵まれているものは少ない。やるきのある若者は、フランスの規制の多さと、税金の高さを嫌って、ロンドンなどへと脱出した。

 

悪いことは重なるもので、ただでさえ不景気な国民心理を相次ぐテロが逆なでする。国内に欧州最大のムスリムコミュニティをかかえるフランスだから単なる文化対立とは片づけることができない。

 

こういった累積された慢性病を、放置した既存政治エリートへのフラストレーションをマクロン、ルペン両者ともにうまく利用した。しかし二人はそれぞれ違った診断をし、異なる治療法を提唱している。

 

ルペン女史は、対外勢力を敵とみなし、入国への障壁を高め、国内の社会福祉を高めるという組み合わせで国民を守ると公約している。国民戦線の創設者であった父親を追い出すまでして、自党の反ユダヤ主義的過去から自らを切り離した。しかし他の世界からフランスを遮断すべきだとうい主張をしているということに変わりはない。

 

『ルペンはグローバライゼーションをフランスの雇用への脅威として非難し、イスラム主義者を公共の場でミニスカートをはくことまで危険なものにした、テロの原因として非難する。彼女からすればEUは「反民主主義的モンスター」である。彼女は過激なモスクを閉鎖し、移民の流入を減らし、海外貿易を阻止し、ユーロからフランスフランに通貨を戻し、EUから離脱する国民投票を行うと公約している。』

 

マクロン氏はと言うと、

『彼はオープンさを増すことによって、フランスはより強くなると考えている。彼は強硬な貿易、競争、移民、EU肯定派である。彼は文化的変化と技術的破壊を肯定している。彼はフランス国民がもっと働くようにするためには、厄介な労働者保護を削減することが必要だと考えている。彼は具体的政策を長い間提示していなかったが、マクロン氏は自分をグローバル化肯定派の革命家であると主張している。』

 

どちらの革命家も筋金入りのアウトサイダーというわけでもない。

 

(ルペン女史は、政治一本でやってきたし、マクロン氏は元経済デジタル相。)

 

この二人の有力候補は、自分の革命の目的を実行するのは難しい。国民戦線が議会の過半数を取ることはありえないし、マクロン氏に至っては自分の政党すらない。

 

『しかしながら、二人とも現状維持への拒否という世論を代表している。マクロン氏の勝利は自由主義がいまだに欧州人には魅力であることの証拠である。ルペン女史の勝利はフランスをいまより貧しく、隔離され、汚い状態へと追い込むだろう。』

グローバリズムを肯定するマクロン氏が世論調査でも最有力となるということに、私には少々違和感があったのだが、それは、さすがに、欧州統合というものの持つポジティブメッセージが生き延びているというところに、フランスの底力があるのかもしれないと思った。

エコノミストの結論は、マクロン氏も頼りないが、ルペン候補の勝利は最悪であると。

『彼女がフランスをユーロから離脱させるならば、金融危機を引き起こし、多くの欠陥はあるものの、過去60年間欧州の平和と繁栄を促進してきた欧州連合の未来を真っ暗にするだろう。ウラジミール・プーチンは喜ぶはずだ。ルペン女史の政党がロシアの銀行から大量な貸し付けを受けており、マクロン氏の組織に対して4000件以上のハッカーからの攻撃があったのも偶然ではないだろう。』

 

世論調査はこのところ期待を裏切り続けている。Brexitとトランプ大統領とありえないことが立て続けに起こった今、「ありえない」ということだけがありえないことだけははっきりと言える。

 

そういう意味では、フランス革命以来、世界を揺るがす能力にかけては世界有数のこの国の、少々「哀れな」大統領選挙が、世界を再び揺るがす「革命」に繋がる可能性は低くはない。

こうやって物事を整理してみると、為替市場が、気持ちよく円安のポジションを取り切れないのも不思議じゃない。