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政治の時間:イアン・ブレマー 安倍訪米を語る

自分の方針を明確に表明するということが必要な場合がある。

しかしひとたび表明された言葉は、どんどん一人歩きしていく。特に政治や外交の言葉というのは、自国語で語られた場合も、外国語で語られた場合も、結局は、多くの解釈、歪曲の対象となっていく。ある意味では、言葉とはそういうものである。

 

とりわけ、英語というグローバル世界のデファクトの共通言語になった言語で語られたメッセージがどのように解釈、歪曲されていくか、それに対してどのように対応していくかということに対するアンテナは高くし、センサーを研ぎ澄ませる必要がある。

 

ある意味では、それが外交ということだ。そして、その外交の成否を分けるのが言葉をどのように駆使していくかという技術になる。

 

とりわけ、PR会社というものが、グローバルなオピニオン形成において、大きな影響力を持つということは、ことの善し悪しを超えた現実となっている。

 

高木徹の戦争広告代理店はそのメカニズムを生々しく、暴き出している好著だった。

 

Amazon.co.jp: ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫): 高木 徹: 本

 

ここしばらくは、安倍訪米が投げた一つの石が全世界にどのように伝わっていくかについて、注意深くあるべき時期のような気がする。

 

 

有名な政治アナリストのイアン・ブレマーがタイムマガジンに、安倍首相の訪米の成否は、そのメッセージがアジアの近隣諸国の耳に届くかどうかであるというコラムを掲載している。

イアン・ブレマー - Wikipedia

 

Japan’s Shinzo Abe Is Talking in Washington—But He Needs to Talk to Asia

 

安倍晋三は今週鳴り物入りで米国入りした。議会の両院会議に日本の首相として初めて行ったスピーチで、安倍は「世界の平和と安定に対して今までよりも多くの責任を取る」という決意を表明した。

 

第二次世界大戦における敗戦とその後の米国占領にさかのぼる平和憲法の結果、日本は、長い間、地政学的舞台から比較的遠い立ち位置を保っていたが、近年、新しい外交戦略方針の形成を急いでいる。

安倍首相の訪米に対して関心が集まっているが、日本のグローバルステージへの再登場にとって本当に重要なのは、中国と韓国を代表とする、アジアの隣国との関係性である。

アジアのこの二つの経済大国が、自己主張を強める日本に対してどのように反応するかが、安倍首相の野心がどこまで日本を変えていくかを決める上で大きな役割を果たすことになる。

数十年間の敵対関係の後、日中関係は過去6か月間で、目立って改善してきている。

安倍と中国の習近平主席は生産的な会見を行ってきた。そして今後もオープンな対話を継続することに合意している。中国と日本は双方が東シナ海の領土問題に対処するために「対話と協議」を行うことを約束し、事態のエスカレーションを避けるための危機メカニズムを構築する方向で動いている。

あまり大きな動きのように聞こえないかもしれないが、これは長い間、いがみ合ってきた二つの超大国にとっては大きな前進なのである。

中国の大国化がアジア全域に大きな影を及ぼしているが、日本は協力的姿勢を示しており、これは両国関係にとって良い兆しである。

日本とインドの劇的な関係改善は、中国も対日関係に対して注意深いスタンスを取らざるを得なくなっている。

とはいえ、解決すべき問題はまだまだ多い。特に、第二次世界大戦時の日本の行動に関する問題が大きい。しかし中日関係は今やG20の二国間関係の中では最も改善してきていると言える。

中国との間の関係が改善しているのに対して、正しくは、同盟であるはずの、韓国との間には緊張が続いている。

米、日、韓の三国間関係はこの地域のアメリカの計画を遂行する上で重要な意味を持つ。しかし日韓の歴史問題についての論争がこの枠組みを危うくしてきた。第二次世界大戦中に、韓国女性が日本の占領軍の慰安婦(性的奴隷に対する婉曲表現)を強制されたという問題についての歴史認識をめぐる対立である。

安倍は月曜日にハーバード大学で行ったスピーチの中で、犠牲者に対して彼の「心は今も痛む」と述べた。しかし韓国政府が望むようには公式のスピーチで、この問題を認め、謝罪するまでは至っていない。

Business: Washington Post Business Page, Business News

 

安倍は、日本の侵略行為に対する謝罪は、過去の政権の行ったもので十分というスタンスを維持している。韓国人はこれに明らかに同意していない。韓国の新聞は、今週、第一面で安倍が問題の根幹であると非難した。

 

米国はこの感情的な応酬からは距離を置こうとし、主要なアメリカの同盟国であるトルコの先例を利用している。トルコ人の感情に対する配慮から、オバマ大統領は20世紀初頭のトルコ人によるアルメニア人の大量虐殺に対してG-word(ジェノサイド)の言葉を使うことを避けてきた。ほとんどの歴史家がジェノサイドの存在を受け入れている中でのこの配慮は戦略的に重要な関係性を毀損することを回避するために計算されたものである。

日本の場合、安倍は過去の侵略行為に対して謝罪する政治的資本を持っている。しかし彼はそれを使わないことを選択している。オバマにとってアジアシフト(Pivot to Asia)戦略はあまりにも重要でそのリーダーと仲たがいするリスクを冒すことはできない。特に重要なTPP貿易協定のゴールが見えてきている中では尚更である。

アジアシフトが成功し、日本の新しい外交戦略の野望が現実化すれば、アジアにおけるアメリカの民主主義的同盟諸国も、前に進むための道を模索する必要がでてくるからである。安倍は米国において発言した。しかし重要なのはアジアがそれに耳を傾けるかどうかなのである。(以上)