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政治の時間:安倍演説をNYTはどう報じているか

録画した首相演説を見た。ハラハラ、ドキドキだけでなく、少し気恥ずかしい気分もあった。

 

アメリカ的なユーモアやエピソードを入れたり、硫黄島からの手紙の敵味方の握手などアメリカ的な演出も工夫されている。

 

内容というよりは、そのプレゼンテーションという観点から見ていた。

 

メディアの反応などを意識しながら、努力していることは感じられた。これまで、そのあたりの鈍感さによる国益の毀損が懸念されてきたからである。

 

しかし、百歩譲って、日本人がアメリカ的に受けのいいスピーチができたところで、それでどうするという気持ちもある。それによって、何を達成したいのかが具体的でなければならない。

 

国際社会におけるコミュニケーションというのは、政治であれ、商売であれ、とにかく厄介で気の遠くなるような代物であることだけは間違いない。

 

 

asia.nikkei.com

 

ニューヨークタイムスは、どちらかといえば、TPPにスペースを割いている。

慰安婦問題の言及に関する韓国のおそらく外務省関係の官僚の安堵感などが、現場のリアリティを伝える気がした。

 

http://www.nytimes.com/2015/04/30/us/politics/shinzo-abe-japan-trade-accord-speech-to-congress.html?&moduleDetail=section-news-5&action=click&contentCollection=World&region=Footer&configSection=article&isLoggedIn=false&module=MoreInSection&pgtype=article

 

Shinzo Abe of Japan Avoids Specifics in Speech on Trade Accord

 

 

安倍晋三は日本の首相としては初めて、上下院議院における演説を行い、自国の経済改革の質的飛躍を自画自賛した。ただ広範囲に及び日米貿易交渉に対して懐疑的な議員に対してアピールするうえで、具体的な譲歩は行わなかった。

 

日本や環太平洋地域(Pacific Rim)のその他10か国とのTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の早期締結権限をオバマ大統領に付与するという点で二分されている議会に対面した。共和党、民主党の両議員は安倍首相の日本の農業と自動車市場を米国製品に対して開放する能力に関して疑問を呈している。これが今回の交渉の最大の問題の一つである。

 

安倍首相は、具体的な譲歩案を提示することはなかった。

 

「日本農業は曲がり角にある。農業が生き残るためには、今変わらなければならない。」と述べた。その一方で、女性の権利とコーポレートガバナンスの進歩について指摘している。

 

「TPPは経済メリット以上のことを意味する。それは我々の安全保障問題であり、その長期的、戦略的価値は巨大である。我々はそれを決して忘れてはならない。」

 

 

「我々はこの地域を敬和と繁栄が続く場所に変えなければならない。それが我々の子供、そして、子供たちの子供のためなのである。」

 

 

貿易問題は安倍首相、オバマ大統領双方にとって重要性が増している。双方の既存勢力の抵抗が次第に強くなっているからである。ほとんどの民主党議員は、引き続き、大統領に早期交渉締結の権限、すなわち議会が修正できない貿易交渉を行う能力を与えることに断固反対している。共和党も、この点については同じである。

 

 

安倍氏は第二次世界大戦時に日本軍が行った略奪(predation)をより広範に認めることに対する驚くほど頑強な要求に直面した。とりわけ韓国人従軍慰安婦問題である。カリフォルニア州選出の民主党議員のMichael M. Hondaは、安倍首相の演説の場に、生存する数少ない慰安婦の一人を招待した。フロリダ州選出の共和党議員で、大統領候補のMarco Rubioは火曜日にカリフォルニア州で支持者に対して、「よりeffusive(感情をあらわにした)謝罪を聴きたい」と発言した。

 

安倍氏はこの件について今回もはっきりと(specific)発言はしていない。

 

 

「歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。我々の行動がアジア諸国の人々に苦しみをもたらしました。我々はそれから顔を背けるべきではありません。この点に関しては、私は、私に先立つ首相のみなさんが表明された見解を支持します。」

 

曖昧ではあるが、前首相の謝罪を踏襲するという発言にはほっとしたとある韓国官僚は告白する。安倍首相がこの問題に一切触れない可能性が懸念されていたからである。

 

議会の関心は、TPPにおけるより具体的な譲歩を引き出す点にあった。

 

Paul D. Ryan議員(下院歳入委員会議長)はワシントンポストに以下のような文章を寄稿している。

 

「日本は米国の食材に対して巨大な関税を課し、米国の自動車を締め出すためにあらゆる障壁をはりめぐらしている。関税の中には700%を超えるものもある。日本はTPPの対話に加わるための激しいロビーイングをした。しかしこれらの障壁を撤廃することをコミットしていない。」

 

アメリカの自動車業界は、貿易交渉の中で、とりわけ為替レートの操作を禁じることを要求している。日本はそれによって自動車の輸出価格を下げ、米国からの輸入のコストをあげるものだとしている。

 

しかし安倍氏はより一般的な発言にとどめ、以下のように続けた。

 

「米国と日本は、公正で、ダイナミックで、維持可能な市場を構築することを主導しなければならない。さらに市場はいかなる国の恣意的な意図から免れていなければならない。太平洋市場においては、いかなる労働搾取も環境に対する負荷も見過ごすことはできない。さらに知的所有権に対するただ乗りも断固として認めてはならない。我々は我々両国の共有の価値を世界中に普及させることができる。」

 

(記事以上)

 

New York Times の記事から。安倍訪米を前に (内田樹の研究室)