21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

英国政府の勧告変更内容を説明する大使館主催の電話会議(3月18日 16時)

危機が「いま、そこにある Clear and Present」状態では、ふりかえる暇はない。近い将来、今回の危機を振り返る場合に重要な論点になるのは、自国政府、大企業の情報開示の姿勢に対する一定の信頼性が危機の段階では必要になるということだろう。

危機状況における開示情報の内容や開示方法の点で、日本政府も東京電力も完璧であったとは思えない。完璧を求めるのはフェアではない状況かも知れない。しかし危機状況においては、情報発信者に対する「一定の信頼」がなければパニックを引き起こす可能性があるということを、国民すべてが自ら経験したということは重大である。

自分が日本政府や日本のマスコミの発表以外に、海外メディアや海外政府の判断をモニターし続けているのも、個人のサバイバルを考える際に、自分自身が「一定の信頼」を自国政府や東京電力の開示姿勢に対して持てなかったからである。

海外メディアをずっと読んでいて、彼らもまた第三者専門家の意見に依拠しているという意味では、日本のメディアと構造的には変わらないということがわかった。彼らの意見もまた素人的に増幅される可能性がある。しかし彼らは、ソースを開示しているので、ぼくたちは自分自身でそのオリジナルな発言を辿ることができる。

日本のメディアでは、海外メディアの発言の一部だけを恣意的につまんで、ソースも明確にしないことも多い。今回、その問題を一番強く感じた。

新聞が海外メディアの一部を元の文脈から無関係に取り出し、不安を煽る効果の高い部分だけをヘッドライン的に記事にし、それを、ツイッターなどのメディアが増幅するということが始終起こっていた。

オリジナルとの乖離がどこにあるのか。結局、自分が今、やっているのはその検証だけである。

東京の住民として、きれいごとではなく、自分や家族のサバイバルを考えたときに、依拠するSecond Opinionとして依拠したのが、英国大使館の日本に居住する自国民へのアドバイスだった。インターネットの時代には、自国民にだけ情報を提供するということが難しい。おそらくインターネット時代に、外国で起こった災害において、自国民保護のためにウェブ技術を使うという新しい政府活動が今まさにここで生成しているという実感があった。

国外退避できる外国人に対する情報が、国外退避が困難な日本人に対しても提供されてしまうということが今起こっている。そして日本人は、日本政府やマスコミの提供する情報への不信感を募らせている。その中で、ウェブで情報を提供することは、違った利害を持つ日本人にも影響を与え、再帰的に、あらかじめ想定しない副次効果を産んでいっている。

英国大使館の自国民に対する勧告が、東京の住民に対して、一種のパニックをトリガーしかけた。それに対応して英国大使館と英国政府の科学顧問が18日にBriefingを行ったものを、BCCJ(英国商工会議所)がウェブページで発表している。

立入禁止圏を80kmに拡大し、東京からの避難を検討すべき(consider leaving)と勧告の内容が変わったことに対する確認のためのブリーフィング電話会議だった。

質疑応答も含めて感じたのは、対象地域だけでなく、Fukushimaという名称が立入禁止圏と同義で使われていくという状況が生成されていることがある意味衝撃だった。

当然文脈の中では、福島の立入禁止圏を意味して、外国人によってFukushimaと利用されているのだが、日常の用法の中で、立入禁止圏の方がどんどんFukushima全体に拡大していってしまっている。今回の事故が福島県に与えた被害というのは底知れない。


3月18日(金)16時 英国大使館状況説明
https://www.bccjapan.com/asp/general.asp?contentid=108
3月18日16時に、英国駐日大使のDavid Warrenと英国の主席科学顧問(UK’s Chief Scientific Advisor)のSir John Beddingtonが福島原発の状況について電話による情報説明、意見交換(Briefing)を行った。過去数日間、福島の状況についての懸念が続いていた。特に昨日の英国の東京から離れることを検討すべき(consider leaving)という勧告への修正によってそれが引き起こされていた。

Sir John Beddington(以下JB)は以下のように説明した。

今週のはじめには、我々の懸念は主として原子炉のメルトダウンの可能性だった。日本がこれまで行なってきたことは、この状況に対して完全にふさわしい(entirely proportionate)ものである。極端な悪天候のような、我々が考える最悪シナリオにおいてさえ、懸念することはまったくない。(nothing remotely to worry about)

我々が英国人に対する移動についての勧告を変更したのには2つの主要な理由がある。

1. 燃料プール(Fuel Ponds)

使用済み燃料棒を収容している燃料プールから水がなくなる状態が続けば(特に4号機において)放出されるものはかなり放射性が高いものになる可能性がある。

我々は、放射能が火災や小規模な爆発の結果外部に放出され、原子炉からの多量の放射能放出を引き起こすことを懸念した。
.
これが福島原発の周辺でより用心深く(Precautionary)することが重要と考えた理由の一つである。これを受けて、立入禁止圏(evacuation zone)についての勧告を80kmに拡大したのである。我々はこの点につき、科学分野におけるアメリカの同僚たちと話し合い、彼らもそれに同意している。依然として膨大な危険の可能性はないが、用心深くありたいと考えている。

2. 最悪シナリオWorst Case Scenario

英国首相は、我々に対して、好ましくない気象条件と組み合わさった際に起こりそうな(plausible)最悪シナリオについての検討とりわけ東京への影響についての検討を依頼した。私としては、これに関しては全くありそうにもない(HIGHLY UNLIKELY)という結論を繰り返すことになる。

我々がありそうと考える最悪シナリオが生じた場合でも、東京への危険は控えめな(modest)ものになるだろう。短期的には放射線レベルは増加するかもしれないが(それは48時間を超えない)人体への影響は屋内にとどまり、窓を開けないことによって緩和されうる。

東京の住民に対する切迫した懸念を和らげても構わない。
(For people living in Tokyo, immediate concerns can be allayed.)

英国が放射能に関して懸念すべき兆候(trace)を察知した場合には、住民が予防措置を取るべきタイミングがいつかを東京に対しても伝える。

現在はこのような状況にはない。(This is NOT the current situation)

これはあくまでも最悪シナリオを想定しての話である。我々が考える最悪シナリオである、原子炉の爆発と極端に悪い気象条件は、起こりそうもない。(Unlikely)

要約すると、原発周辺の用心のための立入禁止圏については、それを拡大するのが賢明(sensible)である。しかし最悪シナリオにおいても、我々は人体へのリスクについては懸念していない。米国、フランスには我々のこの結論を伝え、同じ意見を共有している。

Q: 東京での汚染の可能性はあるか

JB;東京の住民への密接な関係はない。
(Implications to people in Tokyo- none.)

Q;(ブリティッシュスクールからの質問)原子炉の密閉状態は保たれていたが突然、爆発があった場合には、どれだけの期間、危険な状況が継続すると考えるか。

JB;重要なのは、現場の作業チームが、4号機の貯蔵プールに十分な水を注入し、他のプールにも水を注入しつづけられるかどうかである。原子炉を冷却するためには、適切な量の水が必要なのである。

これが極めて重要なのである。いつになったら安心できるのかといえば、日本が原子炉とプールの冷却に成功したときである。それに成功すれば、我々は安心することができる。1週間程度で、本当に懸念する必要がないかどうかがわかることになるだろう。成功したとしても、その後の対象地域の浄化は大変な問題であり、何年もかかることになるだろう。
Q; (David Warren大使の質問)食品と水の汚染について明確に説明して欲しい。

JB 我々は英国環境食料農林省(DEFRA)や食品規格団体の同僚と検討を続けている。
ここでの結論は、当然ながら原発周辺地域で育った食品は避けるべきということである。
通常の汚染処理(sewage filtration)プロセスによって放射能は除去される。

これが福島の外部の人間に対しても危険ということならば、日本の規制当局が対応し、勧告を行うことになるだろう。

チェルノブイリにおいては、このリスクが大きく深刻かつ厄介な問題だった。しかしチェルノブイリにおいてさえ、汚染処理を行った水に関してのリスクは無視できるものだったのである。ペットボトルに入った水は常に安全である。今後の生水(tap water)に関する問題も放射能とは関係がない。むしろ水道管の破損によって生ずる汚染の問題になるだろう。

結論は、放射能汚染の問題よりも細菌学的問題の方が懸念される。カートン、ブリキの容器、ボトル、箱に入って、店舗で売られている食品には全く問題がない。周辺地域の農園で栽培された食品を食べるのは賢明とは言えない。福島の屋外に放置されたものも食べるべきではない。

Q 現在貴方は退避を検討すべき(consider leaving)とアドバイスしているが、どの段階で、退避すべきに変更するのか。

JB 最悪シナリオの場合のみである。さらに言えば、我々が退避を検討すべきと言ったのは、日本全体で交通機関やサプライチェーンに大規模な混乱が生じたからである。繰り返しになるが、放射能のリスクを理由に人々に退避すべきとアドバイスしたのではない。爆発に伴う灰(plume 爆発に伴う火柱、水柱)が東京に到達したとしても大きな人体へのリスクは引き起こさないだろう。

Q ありそうな(plausible)な最悪シナリオとは何か。ありそうもない(implausible)最悪シナリオもあるのか。

JB ありそうもないのは、全ての原子炉と全てのプールが同時にだめになり、極端に悪い気象条件によって放射性物質(plume 爆発に伴う火柱)が東京に届くという事態である。この状況を検討することは賢明なこと(sensible)とは思えない。

Q 日本政府が全ての事実を語っているかどうかをどうやったらわかるのか。

JB 原子炉で爆発が連続し、それが事実だった場合に、日本政府はその事実を隠すことはできない。

Q  なぜフランス政府は違ったアドバイスを行ったのか。

JB 彼らのアドバイスは科学に基づいていない。

Q 東京の住民がヨードカリウム(potassium iodide)服用する必要はないか。子供、妊婦などはどうか。

JB  英国健康保険局(The Health Protection Agency)もこのブリーフィングに参加している。最悪シナリオが生じた場合には、妊婦、子供、乳飲み子の母親の甲状腺は、放射性ヨウ素(radioactive iodine)に対してより敏感なので安定薬(stabilizing drug)を服用することが賢明になるかもしれない。しかし現時点で東京の住民がこれらの薬を服用する必要はない。必要になった場合には、錠剤を服用せよという多くの事前の警告が出されることになるだろう。

最後に、我々はこの状況を、原子力や公衆衛生の専門家たちと毎日モニターを続けていることを強調しておきたい。(以上)