次世代の凄い技術は、はじめはオモチャ
クリス・ディクソン(Chris Dixon)のブログのThe next big thing will start out looking like a toy.(次世代のスゴイ技術は、皆当初、オモチャに見える)というコラムが面白かった。
次世代の凄い技術は、当初はオモチャのようにみえる。
これは、クレイ・クリステンセンの破壊的技術disruptive technology理論の主たる洞察の一つである。
これは技術というものがユーザーのニーズよりも速いスピードで成長するという経験則に基づいている。
破壊的技術は、発表された直後にはユーザーのニーズにほとんど対応できないので、オモチャ扱いされる。最初の電話は、音声を1、2マイルしか運べなかった。当時のトップ通信企業だったウェスタンユニオンは、このサービスが事業そして、彼らの主要顧客であった鉄道会社の役に立ちそうに思えなかったので、電話事業の買収を見送った。
彼らが予測できなかったのは、その後、どれだけ急激に電話技術とインフラが進歩するかだった。(技術の採用経路というのは、いわゆる補完的ネットワーク効果のため通常非線形になる。)これと同じことが、メインフレーム企業のPC(マイクロコンピュータ)への対応に現れている。さらに現代のテレコム企業がスカイプをどう見たかも同じだ。
だからといって、はじめオモチャのようだったものがすべて次世代の凄い技術に化けるわけではない。
オモチャから大化けするものと、オモチャのままのものを見分けるには、製品をプロセスとして見る眼が必要である。
明らかに製品はデザイナーがさまざまな機能を付け加え続ける限り、改善する。でもこの影響力はそれほど強くはない。
外部の力の方がより強力だ。具体的にはマイクロチップがどんどん安くなっていくこと、帯域がユビキタス化すること、携帯端末がどんどん賢くなること等々。
製品が破壊的パワーを持つためには、これらの変化がユーザーの効用の成長にうまく乗っていくように設計される必要がある。
ソーシャルソフトウェアは面白い例外だ。
この分野では改善の最大の力となっているのがユーザーの活動なのである。
Clay Shirkyが近著で述べているように、ウィキペディアは文字通りプロセスなのだ。日々玉石混交の投稿が行われ、日々、それをスピーディかつ良質に改善する努力が行われている。
2001年にさかのぼって、ウィキペディアを固定的な製品として考えるならば、まさにオモチャにしか見えないだろう。
ウィキペディアがこれほど見事に機能したのは、常に少しの改善が大量に行われることを可能にするような繊細な設計がなされているからである。
百科事典的情報に対するユーザーのニーズは比較的堅実であり、ウィキペディアが着実に改善する限り、最終的にはユーザーのニーズに適合し、それを追い越す時が来るのである。
製品が価値のあるものになるためには、破壊的である必要はない。
最初から役に立ち、その後も長い間、その有用性がなくならない製品も多い。こういった技術のことをクリステンセンはSustaining technology(j持久的技術)と呼んでいる。スタートアップ企業が有用な持久的技術を構築すれば、既存企業によってすぐに買収されるか、コピーされることになる。タイミングと実行力が適切であれば、こういった持久的技術の上で事業に成功することが可能である。
しかし持久的技術を持つ新興企業が、2020年のトップ企業のリストの中にいる可能性は低い。未来のトップ企業は、多くの人々によってオモチャだと無視された企業なのである。(以上)
事後にユーザーの活発な行動を誘発するような繊細な設計、なるほど。