21世紀ラジオ (Radio@21)

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ニコニコ動画を黒字にしない理由

グーグルに依存しない、日本的サイトの2チャンネルの管理人として、有名な西村博之さんの2冊目の本を読んだ。

「僕が2ちゃんねるを捨てた理由、ネットビジネス現実論」
ひろゆき西村博之)(扶桑社新書)

2チャンネルというと、炎上とか祭りだとか、ネットの闇のように語られるので怖いと思っていた。たしかに、あの独特の絵がコピペされて、作り上げられる、暗い情熱は、苦手だ。

しかし、前に読んだ、濱野智史さんの「アーキテクチャーの生態系」という本の中で、ログが1000を超すと自動的にスレッドが終了するというアーキテクチャーは、西村さんの、常連を作らないという一種の哲学に基づいて組み込まれているという件を読んで、ちょっと感心した。サイトを悪くするのは常連だという見識が、仲間内的なインターネット環境を体験したときの自分の感覚に共鳴したからである。

実際、彼が、携帯が可能にする1対1コミュニケーションが、未成年者を犯罪のターゲットにし、それを制限するための、携帯を使ったサービスプロバイダなどの寄付によって運営されているEMAなどの監督機関の問題点を冷静につめていくスタイルは、電波少年のT部長の対談の中で、自分でも認めるようにlogicalだ。

そして日本のSNSが、日本語圏という狭い市場の中で運営している限り、逃れることのできない宿命的な成長の限界を考えれば、株式市場へのIPOなど目指すべきではないという論法も鋭い。そして、2006年9月に東証マザーズに上場し、2008年9月時点の登録数が2000万IDから頭打ちになったmixiが市場からのさらなる成長を要求するプレッシャーの高まりにまけて、正しくない方向に向かっていると指摘している。

具体的には、2008年12月から、mixiで、今まで18歳以上だった利用制限廃止されたことや、2009年の下半期をめどに、SNS特有の招待制を廃止し誰でも利用できる登録制に移行するという方向転換のことである。

あからさまに言えば、市場のプレッシャーに対して、未成年者市場をさしだしたという図式である。

成長の制約がある日本のウェブサービスの上場に対して懐疑的な西村さんは、彼が現在中心になっている運営しているニコニコ動画に関しても、そのスタンスは論理明快である。

「現在のニコニコ動画の売上は2億円ちょっとだと思われるのですが、当然赤字なので支出は2億円以上ということになります。そしてその7割以上がサーバー費用や回線契約などのネットワーク費用で、人件費はそこまでかかっていません。なので、現段階でサーバーを少なくして回線契約数を減らせば黒字にすることができ、2から3年は生き残るための運営をすることは可能なのです。しかし、現段階でそういったことをしてしまうと、無料を含めニコニコ動画に登録している1000万人のユーザーすべてが楽しめるサイトでなくなってしまう可能性があるのです。

急いで黒字化を目指すと、設備を約20万人の有料会員だけが満足できる状態にする措置が必要となります。その有料会員20万人を相手にするだけであれば、運用コストは単純計算で50分の1程度、そして新しい企画もやらずに利益の範囲のなかだけでサイトを運営して細々と続けていけば黒字の完成です。

とはいえ、短期的な黒字を目指してしまうと、ニコニコ動画が10年後も存在しているサービスになれるかは微妙なところです。約20万人の有料会員は、現状だけに満足してお金を払っているわけではありません。すると、成長が止まった瞬間から徐々に有料会員が減少し、それに伴い規模も縮小して、最後には尻すぼみに消滅してしまう可能性が高い。これが、短期的な黒字を目指すと2〜3年しか運営が続かないと考える理由です。

ニコニコ動画は、短期的な黒字を目指すのではなく明後日の方向に向かって動くことを考えています。つまり、先の先を見越した投資をしているので、現段階ではどうしても赤字になってしまうのです。そういう意味では、ニコニコ堂がは赤字だからといって、別に困っていなかったりするわけです。」

こういった動画ウェブサイトの悩みの種である、利益とコストのバランスの悪さについても冷静に説明は続く。

「ユーザーからしてみればネットは定額で使えて当たり前という感覚です。でも実際には、ホスティングセンターとプロバイダー間のデータ転送コストは従量制で、サイトの運営事業者はプロバイダに線を繋いでもらうかわりに、お金を支払う仕組みなのです。つまり、ユーザーがサイトにアクセスすればするほど、事業者は費用がかさんでしまうわけですね。それが、データ量の大きい動画サイトであればなおさらのこと、そう考えれば、Gyaoやヤフー動画が儲からないのはもちろん、YouTubeでうん10億円の赤字が出てしまっているのも当然と言えます。

となれば、動画サイトというものは、利用されるたびに赤字が増えていって未来がないのではないか?と感じてしまう人もいるでしょう。そこでニコニコ動画は、ある程度の会員数が集まった時点で設備投資をやめ、現在ある設備のなかで運営していこうと考えているわけです。僕の読みでは、ニコニコ動画の会員数は1000万ユーザーで止まるだろうと睨んでいるのですが、運営をしているニワンゴの親会社のドワンゴでは、2000万とか4000万ユーザーの獲得を目指している人たちがいるわけです。もし、それが実現すると今の規模の約4倍の設備投資が必要になってきます。僕は、そこまで会員数は増えないと考えているのですが、実際に会員数が4000万ユーザーになる可能性はあるわけです。もしそれが実現すると、広告費などがテレビ局を同じ額になる可能性があり、今の売上とは桁違いの売上になるでしょう。そうなれば、サーバー費用やネットワーク費用などの固定費は余裕でペイできる状態になるのです。」

ただそういう強気のシナリオを彼は採ってはいるわけではない。

日本を代表する2チャンネルを作り、さらに市場が注目するニコニコ動画を主導している西村さんのロジカルで、まともな発言がとても面白かった。