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ツイッター革命、夢と現実

ツイッターツイッターと眺めていたら、ビジネスウィークに、これまでとはちょっと毛色の違う記事が載っていた。Joel Schectmanというビジネスウィークの記者が、ツイッター革命の幻想と現実というような分析だ。

http://www.businessweek.com/print/technology/content/jun2009/tc20090617_803990.htm

地球上のすべてのメディアが、イランの「ツイッター革命」に注目している。街頭で抗議行動を行う、数十万人の人々が、このマイクロブログサービスを使って、一致団結しているというイメージだ。

イランのデモ行動においてツイッターの役割が大きいという観点から、米国国務省は、ツイッター社に対して、6月15日に予定されていたメンテナンスによるサービス停止を延期することを要請した。こういったグローバルなできごとが起きている間、サービスを継続すべきであるという観点から、同社は、翌日のイランの深夜にあたる時間まで、メンテナンスを延期することになった。

イランの専門家や、ソーシャルネットワーキングの活動家たちは、今回のイランの抗議運動で、ソーシャルメディアツールは使われているが、その中の特定の技術が、デモのリーダーたちの大衆動員に決定的な役割を果たしてはいないという。実際の動員にはありふれた手段が使われている。SMSのテキストメッセージと口コミである。Sysomosというトロントの調査会社はイラン在住と特定化できるツイッターユーザーの数は8600人に過ぎないと発表している。

ツイッター革命という考えは疑わしい。」とソーシャルメディアに関する調査会社の20:20 Webtechの共同創業者のGaurav Mishraはいう。「イランでこのツールを実際に使っている人の数は少ないので、これほどの大規模な抗議行動を組織化することなどできないはずだ。」

政府がツイッターサービスの利用を妨害するようになってからは、国内ユーザー数はさらに減少している。インターネットに詳しい人々ならば、特定のIPアドレスに対する政府の妨害行為を回避するためにTorやProxy.orgなどのプロクシーアドレスを使うこともできるだろう。でも普通のイラン人にとって、これはかなり高いハードルだ。電話をしたり、実際に自宅に訪問したりする方がいまだに即効性があり、簡単なのだ。ツイッターはペルシア語に対応していないのだから、現実的な有効性は限られており、地方なるとそれはなおさらである。

インドの選挙でソーシャルメディアを活用したことのあるMishraによれば、このツールは、海外メディアからの注目をひきだすには有効であることを指摘する。実際、イランの選挙においても、ツイッターが国外のテクノロジーに詳しいユーザーの間に、この問題の存在を認識させたという点は注目すべきである。

「政治的リーダーたちは、このツールを使えば、一種の相乗効果を生み出すことができる。政治運動そのものについての話題だけではなく、そこでソーシャルネットワーキングツールが用いられているという事実もまた話題を呼ぶ点なのである。まさに一石二鳥なのだ。海外メディアは、ソーシャルネットワーキング的世界が大好きだ。ただインドやイランでは、その有効性はいまだに限定的と言わざるを得ない。」

ツイッターの役割がこれほど注目されるもう一つの背景は、海外メディアのイラン国内での取材力が乏しいということがある。6月12日に、投票終了後2時間で、アフマディネジャド大統領の当選(63%)が告げられたとき、対立候補のフサインムサビを支持する反対派はテヘランの街頭での抗議行動をはじめ、その後、取締り側との対立で流血がはじまり、6人が死亡し、多数が負傷したことが報じられた。

既存の海外メディアの取材力の欠如が、ソーシャルメディアへの過度な関心を引き起こしているとハーバード大学のEthan Zuchermanは言う。

Zuckermanは今年の4月に起こったモルドバの抗議行動を分析した。この運動も「ツイッター革命」と呼ばれたが、この時期に書きこまれた大多数のツイート(ツイッターサイトへの記載) は国外から発信されたものだった。その多くは、海外に住むモルドバ人や、この運動に共感する人々からものだったのだ。

モルドバの抗議行動の際にツイッターに参加していた700名中、当時モルドバ国内にいたのは200名以下である。ソーシャルメディアは、起こっていることを海外に知らせるためには役に立つが、ソーシャルメディアがイランの大規模デモを動員できるなどと考えるのは間違いなのだ。」(Zuckerman)

ソーシャルネットワークを研究しているMike Edwardsの研究によると、イランの抗議行動に関する79,000件のツイートのうち3分の1が他のツイートを再添付したものにすぎないことがわかった。豚インフルエンザのような普通の話題でも通常は、この再添付型とオリジナル記載の比率は20対1である。Edwardsによると、オリジナルが多い場合でも比率はせいぜい5対1だ。

こう考えるとイランで抗議行動に参加した人々が実際に発信した情報量は、国外の人間によって再度回覧された量よりもはるかに小さいことを示唆しうるようにも思われる。

「街頭で抗議の声を上げる人々がツイッターを使っているというといかにもロマンチックだが、実際にはそんなことにはなっていない。情報の中心は街頭で声をあげる人々なく、国外にいる人々なのだ。」

ツイッターフェイスブックが海外の関心を引くという可能性を認めつつも、こういったツールが運動の勢いの実態を拡大解釈させてしまう危険性があることを指摘するものもいる。

テキサス州オースティンに本拠を置く戦略的諜報、調査会社であるStratforのReva Bhallaは以下のように言う。

「海外のメディアだけを見ると、アフマディネジャドは、とても不人気で、ムサビが世論の大きな支持を受けているという印象を持つかもしれないが、それを示すデータはない。大衆のアフマディネジャドに対する支持は現実に存在している。ただ、彼の支持者はスマートフォンは持っていない。このように、一方的な見方を増幅してしまうリスクが存在している。」

その有効性はともかく、イランウォッチャーたちは、これが一つの進歩であるということについては異議はないようだ。

「イラン、シリア、エジプトのような政府は、国民の手に入る情報を制限しようと必死である。ただ政府がどれほど懸命に妨害しようとしても、その努力には常に穴が生まれる。今回のできごとは、閉鎖社会に対してテクノロジーがどのような影響を与えることができるかについてのケーススタディである。」とBallahaは言う。

ムサビが自分の選挙運動にソーシャルネットワーキングツールを使い始めたのは専門家によれば、アフマディネジャドだけが利用できる国営テレビや新聞などに対抗する代替手段が必要だったからなのだ。ただイランのような国では、海外メディアに対するアピールという点では有効なソーシャルメディアも、まだ、国内の政治的運動を動かしていくまでの力にはなり得ていないのが現実である。(以上)

米国的視点から、必要以上にムサビが国民の支持を得ているという前提のもとで、物事が語られがちなことに対しては、距離を置いた視点で、書かれているという意味で、面白いコラムだった。