中島大輔「野球消滅」
僕たちは、野球で育った世代である。
今でこそ、巨人の選手の名前など全くわからなくなったが、小学生の頃は、二軍の選手に至るまで全選手のプロフィールを暗記していた。
高校野球などで熱戦が繰り広げられると、試合終了を待ちかねて、近所のグランドに野球仲間が三々五々集まりだして、ダブルヘッダー、トリプルヘッダーなどざらだった。
大人になると、日本のプロ野球の狭さが身につまされ、うんざりして、野球観戦をやめた。
しかし、野茂、イチロー、松井などのMLB挑戦が、物珍しさもあってか、一時的に、野球への関心を復活させた。
しかし次の世代になると、その物珍しさも消え、田中、大谷、ダルビッシュの活躍も、持続的に野球を見るという習慣を取り戻すまでには至らなかった。
侍ジャパンというプロアマあげての試みも、全く面白いと思えない。そもそもオリンピック嫌いだから仕方がない。
やはりそこには、野球という世界というものへの広がりにかけるスポーツの持つ偏狭さが息苦しい感じがするのだ。
これに対して、Jリーグのひいきのチームを足場にした、サッカーに対する関心は日々増していくばかりだ。足許から、グローバルなサッカービジネスを理解したいという気持ちが強くなっている。
自分のこうした興味の変化に比して、どうにも違和感がぬぐえないものがある。
そんな中、「野球消滅」という本を読んだ。
この未曽有の好調の背後に忍び寄る少子化のリスク、多くの組織が乱立し、統一行動のとれない日本的体質などを客観的に分析している。
2018年 プロ野球の観客動員数は2555万719人だったという。
これに対して
J1の2018年の観客動員数は1154万人。ワールドカップの影響もあってか、日本代表戦は3324万人。
年俸で比較すると、
J1 2661万円
J2 440万円
Bリーグ 1310万円
チームの財務状況としては、
2016年 広島東洋カープ
売上 182億円
入場料収入 58億3000万円
グッズ収入 53億円
テレビ収入 15億円程度
DAZN後のJリーグの経営状況はまたどこかで調べてみたいとは思うけれども、足元の経営としてはうらやましい程順調と言える。
しかし深刻なのは、小中学生の野球人口が2007年から2016年にかけて26.2%減少したことだ。
新しい観客が増えているのではなく、既存の野球ファンをきめ細かくフォローすることで、リピーターを維持しているのが、現在のプロ野球の活況だという。すなわち逆風の人口トレンドの中での必死の営業努力が実を結んでいるのである。
こう考えれば、Jリーグのチームにはまだまだ努力する余地が大きいのだろう。
しかも、プロ野球は明らかに大都市中心の展開である。Jリーグの持つ地方重視とは決定的に違った方向性だ。
さらに子供の絶対数の減少、習い事化するスポーツの中で、野球は親にとって手間と時間がかかることから、敬遠される存在になってしまっているという。
そのあたりの事情をこの本はこうまとめている。
日本で長らく 野球は「する」 スポーツであり、 同時に「見る」スポーツだった。 子どもたちは 公園や空き地で野球遊びをして、家に帰ったらテレビでナイター中継を見る。 だからこそ野球はナンバーワンスポーツとなり、プロ 野球は人気を博した。 しかし、時代の変化とともに公園で野球 をすると苦情が来るようになって禁止され、空き地は姿を消した。 公園で目につくのは頭を付き合わせるようにしてゲームの画面をのぞき込む子どもたちの姿で、スポーツに熱中する子どもはめっきりと減っていった。 加えて大阪や福岡、 広島、 北海道など限られた地域を除くと、地上波でナイターが放送されるのは 日本シリーズくらいで、 シーズン中はほぼなくなった。 2005年には巨人 戦の129試合で全国ネット中継が行われていたが、翌年から減少していき、 2010年に32 試合、 2015年には7試合まで激減。 野球は「する」と「見る」の両面で、日本のなかで存在感が薄くなった。
サッカーに比べれば、野球はルールを覚えるのが難しい。僕らの世代が野球に抵抗感がないのは、やはり、地上波で毎日プロ野球をやっていて、草野球が最大の娯楽だった時代を経験しているからなのだ。やってみたことがあるからこそ、ルールがピンとくるのだ。
サッカーは学校の体育の時間の遊びぐらいの経験しかない僕は、いまだにオフサイドというのが感覚的にわからない時がある。
ラグビーに至っては、奇々怪々である。
子供が遊びの中でスポーツを体得していくという流れがなくなった時、プロスポーツというのはどのように存続していくのか。
Jリーグというものがどのように発展していくのかということを考える上でもとても示唆に富んだ本である。