フランス有権者はピンを見つけただろうか; フランス大統領選
外国人の知り合いが多いとは言えない。
だから、一般論という形で表明されることが多い、特定の外国人に対する個人的意見などというものは、おおむね、数少ない自分の知り合いとの限られた経験に左右されることになる。
少々手が込んでる場合でも、その国の人が書いた、自国についてのエッセイが関の山で、大半は、テレビ、新聞での、外国人論あたりで片づけてしまうのがほとんどだ。
フランス人となると、直接の知り合いなどいないし、過去にさかのぼってみても、語学学校で会った、嫌みな、ベルギー人のフランス語教師との体験ぐらいしかない。
今回のフランスの大統領選は、既存政党抜きでの決選投票になるという意味では、第五共和制下で、空前絶後の事態だそうだ。
四人の候補が接戦を繰り広げ、結果、次の本選は、若手で、親EUで、グローバリストのマクロン氏と、親譲りの極右で反EU、ナショナリストのルペン女史の一騎打ちになった。
敗退した候補は、いち早く、マクロン支持を鮮明にしたらしく、決選投票でのマクロン有利が伝えられた。このニュースを受けて、世界の株式市場は急上昇した。
失業問題、難民問題、テロ問題の何一つ、解決の方向性が見えたわけでもないのだが、とりあえず、安堵感が漂っている。
フランスということでいえば、個人的に一番なじみがあるのは、哲学者のアランだ。
人生のいろいろな状況でこの人の言葉に、救われた。一種の人生のマニュアルであって、仕事を始めた頃には、カーネギーの道は開けると一緒に、自分のアタッシュケースの中にいつも入っていた。
その後、軽い鬱病に悩まされた時には、この本は、森田療法に関する本の横に置かれることになった。
不安心理などというものは、おおむね、身体の不調が原因だというような、乾燥した身振りで、鬱のかさぶたを、笑いながらはがしていくような爽快感が、私にはちょうど合っていたようなのだ。
不眠症で決定的な役割を果たした、森田療法の、眠れなければ、眠らなければいい。ずっと起きていれば、そのうち、フラフラになって嫌でも寝られるというような身もふたもない語り口にも似ている。その意味では、悩みの原因は、自分の思いそれ自体にあるという、最近のビパッサナやマインドフル瞑想などにも通底しているようだ。
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幸福論の冒頭に、若きアレクサンダー大王が、贈答品の名馬が暴れるわけを探し出して見事に馴致するというエピソードがある。
不安や不機嫌から立ち直るには、自分が気づいていない、身体に刺激を与えるピンを探すことだという教訓である。
人がいらだったり不機嫌だったりするのは、よく長時間立たされていたせいによることがある。そんな不機嫌にはつきあわないで、椅子を出してやりたまえ。ものごとはどういう態度でやるかがすべてだ、と言った外交官タレランは、自分の思いもかけなかったほど深い意味を言っている。他人に不快な思いを与えまいとして、彼はピンをさがし、ついに見つけたのである。現代の外交官たちはみんな、彼らのおむつの中に刺しそこねたピンを持っているそこからヨーロッパの紛争が出て来る。(神谷幹夫訳)
欧州政治におけるポピュリズムへの不安から、オランダの総選挙は、等身大以上の関心を集めた。EUの維持という観点からは、本来、オランダどころの影響ではないフランスだが、不安をさらにエスカレートさせることだけはなかった。
欧州諸国の国民が、自分たちを悩ます本当のピンを見つけることができたのならば、これに越したことはない。
金融市場を馬のように暴れさせているのが、EU破綻というピンということだけはわかっているのだが、残念ながら、人々の現実の人生にとって、一番大事なのはそれじゃない。
フランス国民が、この哲学者のように冷静で、安定していて、自分の下着の中の、本当のピンをさっさと見つけることができることができるような国民性を世界に誇ってくれることを心から期待してやまない。