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21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

スティーブ・バノンは長期戦を戦う (Ryan Lizza;STEVE BANNON’S NATIONALIST TEAM PREPARES FOR THE LONG GAME)

2017年4月15日(土)23℃ 晴れのち曇り 108.627¥/$

 

マスコミというのは、良い意味でも、悪い意味でも、振り子のようなところがある。一方に強く振れると、必ず、逆方向への力が働くということだ。そもそも世間が一方に振れた時に、それとは違ったことを言うことが知性の証であるというような気分は、丸山真男ならずとも、知識人というものの肉体の持つ条件反射的特性かもしれない。

 

選挙運動期間、大統領就任後も、マスコミは、トランプ政権と犬猿の仲だった。とりわけ、自らの世界観、哲学によって、能弁にトランプ革命のイデオローグとしての役割を果たしたバノンとマスコミの関係は最悪だった。

 

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ところが、ホワイトハウスからのバノン追放間近というような観測が流れる中で、大手マスコミのバノン氏に対する報道の仕方にちょっとした変化が表れてきている。

 

単純に宿敵が去ることを喜ぶというような語り口ではない。

 

バノン氏の世界観に対する、「敬意」とも見まごうほどの、冷静な分析がそこここに現れてきている。

 

 

trailblazing.hatenablog.com

 

しかしそもそも、一流マスコミのジャーナリストたちは、どこかで、ハーバード大学卒、ゴールドマンザックス出身のインテリであるバノン氏に対する捩じれた「仲間意識」のようなものが当初の批判の中にも見え隠れしていた。

 

度し難いトランプに比べれば、少なくともバノンは知識人であるというような、鼻持ちならないことこの上ない雰囲気が隠せなかった。

 

さらには、一定の時間の経過が、個別のレトリックの過激さに慣れ、その実質を冷静に考えるという余裕がジャーナリスト側にも生まれてきているともいえるだろう。

 

ニューヨーカーのRyan Lizzaの「スティーブ・バノンのナショナリストチームは長期戦の構え」STEVE BANNON’S NATIONALIST TEAM PREPARES FOR THE LONG GAME

は、こういった空気の中で、トランプ/バノン路線に亀裂などと単純に考えるのは本当に時期尚早と主張している。

 

トランプの発言をじっくりと読み込んでいくと、そこに流れる彼の、ナショナリスト外交政策が終始一貫保たれていることがわかる。それは、過去の共和党民主党政権が受け継いできた、民主主義に代表される西側価値を広めることが、米国の外交政策の指名であるという考え方の拒絶であり、価値外交ではなく、利害をしっかりと踏まえたリアリズム外交に徹するというスタンスは不変であり、それは引き続き、スティーブ・バノンの外交哲学と亀裂がないという内容。

 

今後の米国の外交を読む上では、きわめて洞察力に富む(insightful)コラムだった。

 

 

www.newyorker.com

 

 (以下要約)

バノンとミラー、二人のスティーブを中心とする、トランプ主義の少数の反乱分子たちが、共和党主流派の伝統勢力に戦いを挑んでいる。

 

彼らは、自分たちの主張する貿易保護主義、入国制限政策、非介入主義こそが未来の共和党のあるべき姿だという強く信じているのだと、このコラムは始まる。

 

二人のスティーブたちは、共和党の伝統勢力のことを、グローバリストと揶揄する。しかしこのグローバリストたちは、政治的には明らかに衰退してはいるのだが、ワシントンでの彼らの勢いはまだ支配的なのだ。

 

トランプが、ナショナリストたちの支持を背景に選挙に勝利したからといって、ナショナリスト共和党を一気に制覇できるわけではない。トランプの共和党掌握という戦いは今、始まったばかりなのである。

 

ホワイトハウスの内部を見渡しても、国家経済委員会(National Economic Council)のゲリー・コーン委員長は、ほとんどの重要論点で二人のスティーブと対立している。

 

ナショナリストたちの戦いは、ホワイトハウスの中だけにとどまるものではない。

 

議会には、トランプのイデオロギーに共感し、政治連携を望む勢力など存在しない。いまだにネオコンが議会をコントロールしているように、議会というのは時代の趨勢からは、相当、遅れているとみるのが正しい。

 

トランプ寄りの、バラ色の見方をするならば、トランプ主義(Trumpism)は上昇気流に乗っている。しかし共和党エスタブリッシュメントを制覇するには、さらに、いくつかの選挙を経る必要がある。そもそも議会での中心勢力になるには、20年以上国政に深くかかわる必要があるのだと、匿名ベースで、ホワイトハウスのシニアアドバイザーが語ってくれた。

 

彼曰く、トランプ主義者たちは、中間選挙にかけて、共和党現職議員たちに対する右側からの攻勢を始めるだろうと述べる。

 

その過程で、共和党の候補者たちも、その圧力もあって、ナショナリスト的見解を示すようになるだろう。実際、トランプの選挙での成功のかなりの部分が、予備選挙で彼が見せた、保守的外交政策の正統性に対する強い疑義にあると言ってもいいからである。

 

過去数週間で、グローバリストが随分勢力を盛り返し、トランプに対して大きな影響力を及ぼしているようにみえる。たしかに、選挙時の公約とは違い、トランプ派、中国を通貨操作国と決めつけることもなく、NAFTAをバラバラにするというよりは、個別条項にほどほどの微修正をすることでお茶を濁している。今週は、前に、時代遅れと貶したNATOを容認した。

 

シリア空軍基地のミサイル攻撃も、彼の選挙時のレトリックに反している。

 

「私のシリアとアサドに対するスタンスは、大きく変わった」と攻撃後にトランプも認めている。

 

とはいっても、今後、シリアにおける米国の役割が劇的にエスカレートするのでなければ、トランプのナショナリスト的外交姿勢に変わりはないと言ってもいいだろう。

 

このあたりを、世間は誤解している。

 

件のシニアアドバイザーは、この部分では、むしろ、トランプは終始一貫、スタンスを変えていないと主張する。

 

これは卓見である。

 

トランプの外交ナショナリズムと近年の共和党の見解を決定的に分ける一点がある。

 

価値(values)だ。

 

トランプが、人権、民主主義構築、あるいは西洋的価値を、何か、米国が世界中に広げる指名を持つ、なにものかであるかのような、発言をしたことは、ほぼないといっていい。

 

彼は、アメリカの外交政策を利害(interest)の観点からしか語っていない。

 

多くの人権派弁護士やリベラルな国際派からも擁護されたシリア攻撃の後でさえも、トランプは道徳的言葉遣いを避けている。

 

この攻撃は、安定性を促進するための抑止行為(deterrent)だと表現した。

 

トランプとそのアドバイザーたちは、ここ数週間における、エジプト、ロシア、中国などからの独裁者たちとの会見においても、価値に基づく外交政策を放棄するという公約を果たしている。

 

会見の中で、民主主義、人権とは何かなどという講釈を垂れることは一切なかったのである。

 

トランプは常に、西洋的価値、特に民主主義の普遍性という考え方に対して懐疑的だった。2004年のエスクワイアとのインタビューの中で、トランプは次のように言っている。

 

イラクに素晴らしい民主主義が誕生するなどと本当に信じているものなどいるだろうか。国民が選挙に行って、大人しく投票し、当選した者が、幸せに、あの国を率いていく?冗談じゃない(C’mon)米国が撤退した2分後には、革命が起こり、最低で、もっともタフで、頭がずば抜けてよく、最悪の人間が権力を握ることになるんだ。」

 

彼のこういう見解は昨年、トランプが行った二つの主要な外交に関するスピーチの中にも表れている。

 

4月に中東の混迷について語った際の、こんな発言。

 

「西洋的民主主義の経験もなく、なりたいという利害も持っていない国々に、西洋的民主主義を作り上げることができるという、危険な考え方から、そもそもすべての問題が始まっている。」

 

彼はさらに、自分は、民主主義ではなく、「安定性(stability)」にフォーカスするのであり、米国は「誰も共有してもおらず、欲しいとも思っていない普遍的な価値を広めようとすることを辞めなければならない」と付け加えている。

 

8月のテロリズムについてのスピーチでは、

 

オバマ大統領とヒラリー・クリントンは、そもそもリビアでの民主主義建設、シリアの即座の体制変更、エジプトのムバラク政権の打倒など試みるべきではなかったのだ」

 

と言った。

 

トランプドクトリンのようなものが、徐々に明らかになっているとするならば、それはこれと同じ種類のリアリズムである。

 

シリア空爆の前に、さきほどのホワイトハウスのシニアアドバイザーは、こう語った。

 

「トランプは、イラク、シリア、リビア、エジプトに関する彼の対批判の中で、常に、これらの介入が、米国の国家安全保障における利害に適っていないと述べている。

 

バノンが断固拒絶しているのは米国の腕力に頼る外交政策の拒絶ではなく、民主主義の拡大のための道具として米国の外交政策を用いるという考え方そのものなのだ」

 

 

その意味では、トランプが、海外におけるアメリカ的価値の促進などということを言い出した時にはじめてナショナリスト的な運動が本当に敗北したということを知ることになるのだ。(以上)

 

trailblazing.hatenablog.com