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シェリフの帰還(Gideon Rachman;How the Washington blob swallowed Donald Trump)

2017年4月11日(火)10℃ 雨時々くもり 110.708 ¥/$

 

ドナルド・トランプが、とうとう従来路線を踏襲しはじめたのではという「期待感」が世の中で高まっている。

 

従来路線を支配してきた外交・安全保障分野の既存勢力エスタブリッシュメントには手放しで、これを喜ぶ動きまである。確かに、安倍首相がいち早く、シリア攻撃の支持のコメントを出すのを見ていても、ようやく、皆が慣れ親しんだアメリカが帰ってきたというような安堵感が現れているような気がする。

 

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FTのGideon Rachmanが、こういったワシントンの既存勢力の安堵感に内在するリスクについてのコラムを寄稿している。

 

内容は、それほど、目新しいというわけでもなかったが、オバマ大統領が、ワシントンの外交・安全保障分野の既存勢力、外交マフィアたちを、Blobと呼んだという件が初耳で面白かった。

 

BlobというのはDictionary.comの定義の中の、

 

“an object, especially a large one, having no distinct shape or definition“

(明確な形状や定義のない、特に大きな対象物)

 

という感じだろうか。

www.dictionary.com

 

党派性を横断して、存在する、「世界の警察官としてのアメリカがその世界におけるプレゼンスと世界秩序の維持には不可欠だ」という信念を共有する外交マフィアにとって、今回のシリアの空軍基地への攻撃は、福音のように響いたという内容のコラムだ。

 

How the Washington blob swallowed Donald Trump(ワシントンの外交既存勢力がトランプをいかに呑み込んだのか)

https://www.ft.com/content/633daa7a-1dc5-11e7-b7d3-163f5a7f229c

(以下要約)


米国が中東でミサイル攻撃をしたなどということは、普通は喜ぶべき話じゃない。しかし今回のシリアに対する巡航ミサイルによる攻撃を聞いて、ワシントンの外交エスタブリッシュメントは、安堵と喜びを隠していない。

 

リベラルな新聞のコラムニスト、タカ派の上院議員、同盟諸国の大使が一致してこの動きを歓迎した。

 

この反応は、アサド政権による市民や子供に対する化学兵器の使用に対する広範な反感を反映しているというのは事実である。

 

しかし、ワシントン挙げての、歓迎モードの決定的な理由は、この動きが、世界の警察官としての米国の復活に繋がるという期待感だ。

 

オバマ政権で、Blob(不定形の塊というような意味か)という蔑称で呼ばれたワシントンの外交や安全保障分野でのエスタブリッシュメントに属する人々は皆、米国が軍事力の使用を厭わないという姿勢が、アメリカのグローバルなポジションと世界秩序の安定にとって決定的な役割を果たすと強く信じている。

 

2013年にシリアで化学兵器が使用された時に、オバマがアメリカの最前線(Red Line)の支援に武力使用を行わなかったことによって、このBlobの中に広範な不安が生み出された。

 

さらにトランプの選挙運動時の孤立主義的レトリックは、米国の影響力の完全な放棄を意味すると考えた人々の絶望や恐怖に近いものを産み出すことになった。

 

こういった状況を踏まえて、今回の突然軍事介入は、これまでの流れに対する一大転機として賞賛されることになった。

 

一方で、トランプのナショナリズムを最も熱狂的に擁護してきた人々には驚きが走った。In Trump We Trustの著者であるアン・コルター(Ann Coulter)はその困惑を以下のようにツイートした。「なぜまたムスリムの災厄に関わるのか」

 

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トランプ外交や安全保障政策が、結局、反トランプ陣営が恐れ、彼のナショナリズムの支援者たちが望むものに比べればはるかに従来路線を踏襲したものになっていきつつあるという世間に広がりつつある感覚を今回のシリア攻撃が見事に凝縮してみせた。

 

トランプ政権の従来路線への収斂はここ数週間どんどん高まっている。彼はもっとも過激な外交上の公約が実行できなかった。イランとの核取引の破棄はなされていないし、イスラエルの米国大使館のエルサレム移転も果たされていない。トランプのEUに対する明白な敵意は、警戒しながらという前提のもとではあるが、支援へと変わった。プーチンとの男同士の首脳会談も開催されていない。

 

シリア攻撃の数日前には、大統領首席戦略官で、ホワイトハウスにおけるアメリカ第一主義(“America first” nationalism)の主唱者である、スティーブ・バノンが国家安全保障会議NSC)から排除された。

 

マイケル・フリン将軍は、バノン氏の過激な本能の多くを共有していたが、既に2月にNSCの長の座を追われている。マックマスター(HR McMaster)中将(Lieutenant General)が彼のあとを継いだ。彼はBlobから尊敬を得ている人物である。

 

NSCにおける低位のポジションへの新しい任命もよく見ると、興味深いメッセージを送っている。

 

NSCのロシア及び欧州の担当のFinona Hillは、プーチン氏に対する批判で有名であり、中道のシンクタンクであるブルッキングス研究所から引き抜かれている。

 

シリア攻撃は、米中会談中に行われた。トランプ時代の最初の米中首脳会談の結果もまた選挙運動時のレトリックに比較すれば、かなり従来路線に落ち着いた。

 

大統領選挙中、トランプは、中国がアメリカをレイプしていると批判し、中国製品に懲罰的課税をかけると威嚇していた。さらに彼は、中国のリーダーたちを御馳走でもてなす気はなく、マクドナルドに連れて行くつもりだと豪語していた。

 

実際には、トランプ氏はマーラーゴで、習近平氏を、ドーバーソールのシャンパンソース炒めでもてなした。会見後に、いつもの口調で、素晴らしい関係が構築できたと語った。

 

関税や公海上の対立についての対話は、通常の退屈なBlob流の共同対話や共同研究へのコミットメントに道を譲った。

 

中国側は、当然、この動きを好感した。しかしおそらくは少し困惑しているはずだ。ワシントンのエスタブリッシュメントの中には、シリア攻撃と米中会談の一致が北朝鮮、ロシア、中国などに対して、米国は再び軍事力の行使を辞さない元首を得たのだというメッセージを送る意味で有用であったことを期待している。

 

しかし外交の伝統主義者たちは、トランプの明らかな転換をシンプルに喜こんでばかりでもいられないはずだ。

 

シリア攻撃は、ターニングポイントとは言っても、間違った方向でのものなのだ。

 

3つのリスクが存在する。

 

第一に、トランプのアサド体制への掌返しは彼の変わりやすさの証明だ。過去1年間のシリアにたいする自分のレトリックを24時間で捨て去るのならば、次の政治的ショックに反応して、またスタンスが簡単に変わらぬ保証はない。

 

第二に、支持率に汲々としている、この大統領が、軍事攻撃が支持率に繋がると考えて、この種の行動好むようになるリスクがある。

 

しかし北朝鮮であれ、どこであれ、今後の武力行使は、シリアの空軍基地への数発の巡航ミサイルを撃ち込むよりは、はるかにリスクが高いものになる。

 

最後に、中東状況のエスカレーションの明らかな危機がある。トランプ氏がミサイル攻撃の後のステップについて考えているようには見えない。

 

これに対して、既に行った、シリアにおける軍事行動のリスクと矛盾は明らかだ。

 

今回の動きに対するロシア軍事的対応から、ISISのジハーディストの勢いが増すことまで様々である。

 

Blobの諸君は、すぐに、シャンペンを冷蔵庫にしまって、状況を注視しつづけるべきなのだ。(以上)


 

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