読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

トランプの解き放った闇 (トランプのアメリカ)

2017年2月23日(木)20度 曇

 

113.236 ¥/$

 

100年後からタイムスリップした歴史家ならば、今のアメリカの政治状況についての、今の時点の世間のコンセンサスをどうやって特定化しようとするのだろうか。

 

彼は専門家だから100年間の余計な二次資料、三次資料で頭の中を一杯にしているかもしれない。彼は、未来に何が起こるかを知っているから、それを前提にして、過去を組み立て直そうとするのだろう。まあ、とりあえず、当時の世論あたりから調べてみるとするか。

 

しかし世論と一言でいうけれど、何が、世論なのかはよくわからない。世論調査という、それなりの対象分散はしているといっても、限定的な標本数に基づいて、特定の論点についての、世の中の考え方を知ろうとする方法の限界は、昨今の、大外れの事例を見ずとも、明らかだ。

 

しかし、世論調査の結果をもって、当時(現在)の大勢とみなすというのも、一つの考え方である。しかし世論調査というもの自体の持っている方法論的限界もあるが、世論というものの不明瞭性、質問の設定に依存する性質、そしてその絶え間ない流動性を前提にすると、世論調査をもって決定される大勢の意見というものも頼りないことこの上ない。歴史学者が本気で、当時(現在)の思潮をつかもうとすると、その手がかりだけでも心もとなくなる。

 

次に頼れるのは、「有力紙」と呼ばれる新聞、雑誌を読み漁ることかもしれない。100年後には、ほぼすべてがデジタル化していて、「トランプ大統領、政権就任、1か月」と目の前のデバイスに呼びかけると(あるいは頭の中で思い浮かべると?)、関連資料が、それなりの編集を経たうえで現れるのかもしれない。

 

新聞の論説は、そのスタンスがはっきりとしているので、比較的追いかけやすいものかもしれない。いずれにせよ、その時点でも歴史家の倫理というものが存在しているとして、彼は、デジタル化した今日の論説記事に読みふけるのだろう。

 

f:id:trailblazing:20170223141812p:plain

 

余談は置くとして、今日の新聞の論説。

ウォールストリートジャーナルのHolman W. Jenkins JR名義の、リベラルがトランプ現象をロシアによる介入といった流れで評価することへの批判のコラムが、今時の、世論の雰囲気の中間点あたりを表しているような気がした。

www.wsj.com

 

 

ロシアではなく、国民からのメッセージであるという点から目を背けるべきでないという内容だ。

 

ドナルド・トランプほど、急激に学習している大統領もいないだろう。選挙戦の後半になるまで、自分自身信じられなかった大統領の椅子で、その仕事に邁進している。一定の評価はすべきだともう。少なくとも、まだ元気(Upbeat)であり、挑戦を続けながら、一つの現実的な不安も減らしつつある。この時点で、トランプ政権を失敗の名のもとに片づけるのはいかにも時期尚早だ。

 

さらに馬鹿げているのは、今彼が直面している問題をニクソンウォーターゲートと比較することである。彼ほど、ニクソンに似ていない大統領もいない。ニクソンは支配層の中に深く根付いた、その人脈の中の一部だったからである。彼は下院議員、上院議員、副大統領の職責を経ていた。彼のウォーターゲートの罪は、再選での大勝利を目指す途中で生じた。トランプ大統領が失敗するとすれば、ニクソンのようなことにはならないだろう。ニクソンは、多くの組織を支配し、自分の意志によってそれを捻じ曲げることへの過信によるものだった。トランプの場合は、これと正反対である。

 

トランプ氏は、自分のためにしか発言をしないという意味で、誰にも似ていない。彼の命令や提案に反応する、多数のトランプ利益集団や親衛隊や活動家など存在しない。彼は政策、政府、政治について深い知識は持ち合わせていない。彼には、関係機関との長期に及ぶ絆もない。』

 

「心ある人々」から、散々に非難されるトランプのツイートだが、さほど、世の中に決定的な影響を与えているわけでもないと彼は指摘する。ノードストロムの株価も上昇しているし、IRSがトランプのツイートの後に、アマゾンの調査を強化したという話もきかない。良いぐらいに話半分に受け止めてくれているようなのだと。

 

トランプ個人のショーとトランプ政権のショーは驚くべきことだが、全く違った出し物なのだ。そしてトランプ政権のショーは、Jared Kushnerが差配することになるだろうと予想している。

 

経験豊富な軍人たちをスタッフに加えることで、トランプ政権が徐々に微調整に入っているようだ。その反面で、選挙運動の中核を占めていた、スティーブ・バノンなどの仲間たちの影が薄くなっていくのかもしれない。

 

トランプは、邪道を駆使して、政権を奪取した。政権を維持するために、その逸脱を打ち消していったとしても不思議はない。

 

ただ一つだけ気を付けなければならないことがある。トランプがその魔術によって解き放ったルサンチマン(弱者の恨み)というものは怪物だということである。トランプの役目は、壺から怪物を解き放ったところで終わった。そして彼が、怪物を再び壺の中に閉じ込める方の魔術を持ち合わせているようには見えないのだ。

f:id:trailblazing:20170223140852p:plain

 

https://www.nytimes.com/2017/02/21/us/missouri-jewish-cemetery-chesed-shel-emeth.html?ref=todayspaper&_r=0

 

とても気になる記事がニューヨークタイムスにあった。ミズリー州のユニバーシティシティのユダヤ教徒の墓地が荒らされたというニュースだった。その真犯人も、背後関係もいまだ明らかになっていない。しかし反ユダヤ主義の気配は、記事の大きさよりもはるかに剣呑とした気配を漂わせている。

 

ポピュリズムというものが、「下」のルサンチマンを燃料とする運動だとすれば、自分たちの場所を奪う移民たちへの憎悪と、自分たちの運命を恣意的に左右する「上」に対する憎悪の質は大きく違う。下からのルサンチマンという観念の中で、金、抑圧と同義語であるユダヤ性というものの持つ揮発性は極めて高いのかもしれない。それが反イスラムというものや反メキシコ的心性と質的に違っているところなのだろう。それらとは違って、ユダヤ性に対するルサンチマンには、奪われた名誉心と、捩じれた嫉妬というものが含まれているようなのだ。

 

西欧文明というものの持つ、深い闇が顔を覗かしている。