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オランダのポピュリズム            「普通にふるまえ、さもなくば出て行け」    act normal or leave (トランプのアメリカ)

2017年2月16日(木)15℃ 晴

 

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オランダという小国は、これから欧州で起こることを予想する上で特権的な重要性を持っている。その寛容性を世界に誇示してやまないオランダの政治状況が急激に変化してきている。今後の世界のポピュリズムの潮流を読む上でも、目が離せない場所の一つなのだろう。

 

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その寛容と欺瞞の複雑な歴史が、EUの統合の解体と移民問題の中で、新たな錯綜を深める予兆がある。

 

エコノミストが、直近の世論調査に見られる、オランダの政局の現状を取り上げている。(以下要約)

 

www.economist.com

 

オランダ国民に対して、「この国は、何かが間違っている」という書き出しのオープンレターが送られた。そして、この国の自由を得るためにやってきて、得た途端にその自由を濫用して惨澹たる状況を引き起こしている者たちに、「普通にふるまえ、さもなくば、去れ」(act normal or leave)と警告している。

 

ある意味では、オランダでは普通の言葉遣いともいえるが、受け取る側は、当然ながら、暗く排外的な意味を受けとるはずだ。

 

驚くべきは、反イスラムの旗手である自由党(PVV)の党首のGeert Wildersが差出人ではなく、世界でもっとも寛容な国として自らを誇示するオランダのMark Rutte首相からのレターだということだ。このレター自体、3月15日のオランダ下院選挙に向けてのオランダ政局の変化を明らかに物語っている。今回の選挙は、英EU離脱、トランプ政権の時代の欧州ポピュリズムの動向を占うものとなり、今年後半の仏、独の選挙を占う上でも注目されている。

 

Wilders氏がトップとなれば、世間は、それを国民の総意を判断することになり、フランスのマリーヌ・ルペンや、ドイツのFrauke Petrを力づけることになる。

 

オランダはある意味、欧州北部の代表としてみなされてきている。

 

多くの政治動向が最初に現れるのがこの国だった。左翼学生の抗議行動が最初に起こったのは1966年、労働党の首相が選出されたのは、1994年。党首のWim Kokは、ブレアやシュレーダーに先立って、中道左派第三の道を唱道した。反ムスリムポピュリズムも欧州のどの国よりも早い時期に生じた。2002年には、イギリス、ドイツに先駆けて、中道右派政権が成立した。

これまでならば、政権トップは右派と左派の最大政党同士で争われた。ところが今、中道右派自由民主党ナショナリスト政党の自由党(PVV)がトップの座と、同じ層の有権者を争っているのである。Rutte氏の手紙は、この勤労層の白人選挙層に向けたものであり、移民の引き起こす道徳的パニックというテーマは、ウィルダース氏のスピーチの丸写しの感が大だ。

 

2012年の選挙後、自由民主党は緊縮財政を選択し、ひどい不況を引き起こした。与党の自由民主党中道左派労働党の連合によって、いくつかの重要な改革は実行され、経済は上向きに向かっている。とはいえ、ムードはよいとは言えない。

 

オランダ国民は恵まれた医療保護と年金を享受している。世論調査によれば、国民福祉と移民問題の解決を国民は望んでいる。ウィルダース氏は、この両方をコミットするつもりである。

自由党は、労働党や、その他の政治的アウトサイダーの票も呑み込む勢いである。しかし数十の政党が乱立する状況の中では、中規模の政党が重要な役割を果たすのである。

今回の世論調査によれば、ウィルダース氏は、若干リードしている。ただ自由党は、世論調査に比べると、実際の選挙結果が悪いという実績がある。よしんば彼の党が最大になったとしても、彼がこの国を率いる可能性はない。ほぼすべての政党が自由党との連立を拒否するからだ。政治アナリストは、ウィルダース自身も首相になりたいとは思っていない。それによって、自分のアウトサイダーとしてのブランドが薄れることをおそれる からだという。2010年から2012年にRutte氏の少数与党を支持したこともある。しかし、その緊縮財政の悪評に晒される前に、支持を取りやめた経緯がある。

  

とは言え、選挙の勝者を政権から排除するのが民主主義にとって良い兆候であるわけがない。ウィルダース氏も当然、エリート層は大衆の意志を無視すると非難する支援材料になる。ウィルダース氏の他の政党に与える効果も甚大である。欧州統合や、難民に関して、前向きな発言をするものが皆無になっているのだ。あらゆる政党が、国のアイデンティティだとか進歩的愛国主義だとかいう、文字通りの空語を弄するようになっている。

 

オランダの統合問題は当然悪化する。オランダの研究所による最新の調査によれば、オランダ市民の10人に4人を占める、トルコ系、モロッコ系、スリナム系、アンティレス系は、この国で暮らすことの不安を吐露している。Rutte氏のレターによって、こういった少数派を投票から遠ざけたり、新しいDENK(Think)党のように、幻滅したムスリムや少数派をターゲットにした政党に向かわせることになるだろうと、政治学者のFloris Vermeulenは言う。

これだけ政党が乱立していれば、当然ながら有権者の7割はどこに投票するかを決めかねている。だとすれば、そもそも選挙結果を予測するのも愚かなことだ。選挙結果よりは、この国の方向性を予測する方が簡単だ。Rutte氏の手紙は、ゲイの権利やミニスカートを着る自由などのオランダの価値を称えてはいるものの、明示的にムスリムを批判しているわけではない。しかし、女性と握手するのを拒否する人、普通のオランダ市民を差別主義者と非難する人への批判が書き込まれているのだから、「普通に振る舞え」と言われているのが誰なのかは明らかなのだ。(以上)

 

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