21世紀ラジオ (Radio@21)

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歴史を変えるスイング(トランプのアメリカ)

2017年2月10日(金)9℃ くもり時々晴

 

113.667¥/$


 ゴルフというものは案外、国際政治でも重要な役割を果たすようだ。その意味で、ゴルフ嫌いの私は、国際政治で活躍することはできない(笑)

 

 

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孫崎享氏の「戦後史の正体」の中の1957年の岸訪米の件がとても面白い。昨日、安倍首相が羽田を飛び立つ前に、記者たちに話した、岸信介とアイクのゴルフのエピソードが描かれている。



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岸信介の回想」(文芸春秋)からの引用だ。

 

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「緊張して挨拶するとアイクが、午後用事がなければゴルフをやろうじゃないかと言いだした。ダレスさんはゴルフをやらないんだよ。 それからワシントンのヴァーニングトリーという女人禁制のゴルフ場にいったのです。プレーのあと、ロッカーで着替えをすることになって、レディを入れないから、みな真っ裸だ。真っ裸になってふたりで差し向いでシャワーを浴びながら、話をしたけれど、これぞ男と男のつきあいだよ。」

 

当時、米国の対日関係はダレスが牛耳っていたという。そのダレスが、アイゼンハワー大統領には絶対服従だったという。

 

孫崎氏曰く、

 

「ダレスはわずか二年前に重光外相をきびしくやっつけた人物です。けれども岸がアイゼンハワーとゴルフをしてふたりだけの時間をもったおかげで、ダレスはふたりの関係がどれくらい親密なものかわからなくなり、岸に対してきびしく切りこめなくなったのです。現実の外交では、こういう非常に人間くさいファクターが、交渉の行方を大きく左右することがあるのです。」

 

安倍首相とトランプ大統領の週末のゴルフの重要性を1957年の岸信介アイゼンハワーとのゴルフの重要性を比べるのはそんなに簡単ではない。

 

しかし、一つだけ言えるのは、三代目の政治家である彼の孫のゴルフの一挙手一投足は、一代目よりはるかに、全世界の数多くの眼にさらわれるということだ。

 

ギャラリー中でも真剣さの度合いでも一、二位を争うのが、為替市場だ。

 

今回の首脳会談を前にして、今週、円ドルは一時111円台をつけたが、週末にかけて再度、ドル高に戻ってきている。

 

ちなみに、今この時点(金曜日午前10時)で、113.667 ¥/$である。

 

ゴルフのスコアで、為替が読めるのだったら世話がない。しかし、今回の会談直後から二人の首脳は、その言葉だけではなく、身体の運び、スイングの調子、顔つきまで含めて、多数の眼から凝視され続けられることになる。

 

つまるところ、為替市場が知りたいのは、円高になるのかドル高になるのかだけである。

 

それが為替トレーダーの懐に直接に影響し、同じく輸出企業の決算を左右し、それを予想して値付けされる株価を大きく変動させることになる。

 

フィナンシャルタイムスにそんな円ドルと今回の首脳会談についての記事があった。

 

Yen may be too hot to handle as Abe meets Trump

Planned golf game between leaders this weekend belies tension over the yen-dollar rate

https://www.ft.com/content/91c1d5ea-eebf-11e6-930f-061b01e23655

 

同盟諸国の首脳を即興で驚かせるトランプ氏の能力は日々実証されている。豪州の首相は電話を途中で切られ、日本の通貨当局は、「身の覚えのない」為替操作の疑いを詰られるなど散々だ。

 

東京市場のトレーダーたちは、こういったトランプ発言を、通貨操作国のレッテル貼りの兆しと解釈する。よしんば、レッテル貼りはしないまでも、安倍首相が、通貨介入をしない、日銀のイールドカーブコントロールを制約させるなどの条件をのまされる可能性を懸念する。

 

(直接の通貨介入と、日銀が、デフレ対策のために行っている金融緩和政策はある意味、同じコインの裏表のようなところがある。その意味で、身に覚えがないと、完全に白を切り切れないのが、つらいところで、そのあたりの国際金融と国内経済の交差する連立方程式経済理論を、一次方程式的天才ポピュリストに説得することを考えただけでぞっとしてしまう。)

 

さらに間の悪いことに、米国の貿易赤字に占める、日本の比率は全体の9.4%とドイツを抜いて、中国に次ぐ第2位になった。

 

(この貿易赤字の6割以上が自動車関連だとか。)

 

アナリストの中には、通貨問題はあまりに劇薬なので、今回の会談で深く語られることはなく、場と担当者を変えた応酬になるだろうという読みをするものが多い。しかし短期的には、二人のちょっとしたボディランゲージすら、相場を動かす可能性があるという。

 

とりわけ同盟強化を示すサインの影響。シンプルに同盟強化、米国の対日関係の維持の兆候が明らかであれば、円売りが促進されるだろうと。

 

しかし、逆に、今回、通貨問題が深く話し合われた場合には問題が多い。安倍氏がアメリカのアジアでのもっとも信頼できる友人のイメージを保つために、大幅な譲歩をした場合である。米国のインフラ投資をお土産として持参というような内部情報に基づく、観測記事も見受けられる。

 

円にとってのリスクは、トランプ氏が為替介入を制限しようとした時である。対外的な通貨政策のモデルとして日本を利用しようと考えた場合には、誰も得をしない状況が生まれ、週末のゴルフの雰囲気も台無しになる。

 

その場合は安倍氏の抱える政治的リスクも増大する。

 

譲歩が米国の歓心を買うための主権の放棄とみなされた場合には、保守派支持層の怒りを買うことになる。これによって安倍氏の支持基盤が不安定化し、大幅な円高、株安につながり、それを相殺するための緊縮財政となると、アベノミクスや強いリーダーシップの故に、票を投じていた支持層の心が離れる可能性もある。

 

しかし譲歩を避け、対立姿勢を取った場合には、日米同盟は、米軍撤退というトランプ氏の口先脅迫に繋がるような悪いエスカレーションをする可能性がある。こうなるとアジア地域の地政学的リスクにハイライトがあたり、安全通貨としての円の急騰を招きかねない。

 

こういったことを考えれば考えるほど、一周回って、両者にとって、ここで目立った対立は得策ではないとの判断から、通貨にとっての深い会話はなされないという読みに収斂してきているようだ。

 

私は、ゴルファーではないので、このあたりの言葉遣いには自信はないのだが、FTの短い記事は、最後に、ゴルフ用語で、今の安倍氏の状況を描写して終わりとしている。それが適切なのかどうかは、私にはわからない。

 

Whatever the outcome, Mr Trump will still call the shots. In golfing parlance, Mr Abe is coming to the end of his first round several shots off the pace and needing to get his swing back into shape.

 

結果が何であれ、トランプ氏が舞台を仕切るだろう。ゴルフ用語でいえば、安倍氏は最初のラウンドの最終ホールで、何ショットか出遅れていて、自分のスイングを立て直す必要があるのだ。(以上)