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ホワイトハウスの破壊分子(エコノミスト)

 2017年2月3日(金)12度 晴

 

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驚くのは、まだトランプ大統領が就任してから2週間しか経っていないということだ。

 

その2週間目の英エコノミストのカバーストーリーが「ホワイトハウスの破壊分子」An insurgent in the White Houseというのだから物騒この上ない。

しかも内容と言ったら、この世の終わりといっていい深刻さだ。

 

資本主義、自由経済の牙城であるエコノミストならではの悲観だとしても、英国EU離脱、トランプ政権発足というのは、自由経済を揺るがす破壊活動なのだろう。

 

www.economist.com

(全訳でも直訳でもなく、超意訳なので、是非原文をお確かめください。)

 

ワシントンは、革命の様相を呈している。

就任式のトーンそのままに、彼は一刻も止まることなく、既存体制を破壊し続けている。TPP脱退、NAFTA再交渉、メキシコ国境の壁、移民制度の大幅見直し。

 

しかもEUを離脱した英国や、ロシアには友好的で、EUに対しては冷淡で、拷問を擁護し、マスコミを罵倒しつづける。

 

先週の中東7か国の市民の入国一時禁止は、トランプの無謀さと混乱が露呈した一週間だった。秘密裡に起草され、拙速で執行され、当初の目的も達成しそうもない大統領令が全世界を大混乱に陥れた。

 

こういった混乱をトランプ陣営は失敗とはみなしていない。むしろ選挙運動の時には人気取りの空言にしか聞こえなかった公約を矢継ぎ早に実行することで、まさにワシントンを混乱におとしいれることこそがトランプ陣営のそもそもの計画なのだというような言いぶりだ。

 

議論の相手側は、間違っているだけでなく、悪意に満ちているという前提のもとで行われる、あからさまな対立こそがむしろトランプ陣営の政治的資産となっている。相手方を罵倒すればするほど、彼の支持者は、トランプが本気でワシントンの政治サークルから不誠実で強欲なエリートたちを追い出そうとしているのだという確信を深めるのだ。

 

戦闘部隊のスティーブン・バノンとスティーブン・ミラーはこのロジックをさらに活用している。反トランプのデモ運動が大きくなればなるほど、それがトランプが正しいことを行っている証拠だと言い募る。

 

移民一時禁止の政策が秘密裡に起草され、混乱を巻き起こしていることも、これまで国民を欺いてきた利己的な政治専門家たちを意思決定過程から排除するための便法であったとして正当化される。

 

彼らの世界観は、過去のアメリカの外交政策の根幹を規定してきた多国間関係や国際機関を否定する。彼ら曰く、それは、小国が不当に利益を得て、アメリカだけがその負担を負わされる仕組みだ。有利な二国間交渉の積み上げによってこそアメリカの国益は改善するのだと。

 

バノン一派によれば、多国間主義は、劣化した、リベラル的国際主義にすぎない。彼らが今戦っているイデオロギー闘争は、普遍的人権をめぐるものではなく、他文明特にイスラムの襲来からユダヤ・キリスト教文化を防衛することなのだ。彼らのプリズムを通すと、国連も、EUも邪魔者で、当面は、プーチンの方がむしろ盟友足りうるとういことになる。

 

どこまでトランプがこういったイデオロギーを本気で信じているかは定かではない。そのうちこういったゲリラ戦闘に疲れ、株式市場の暴落によって彼の心が揺らぎ、諸悪の根源としてバノン氏を追放することになるのかもしれない。あるいは本当の危機が起こって、参謀長や国防長官、国務長官など、少なくとも破壊分子ではないプロの手に自らの判断をゆだねる時が来るのかもしれない。ただすぐにこんなことが起こるとは期待すべきではない。そのまえに彼が引き起こしうる災厄を過小評価しては絶対にならないのだ。

 

アメリカ国民はまだましだ。こういったトランプの引き起こす害悪から彼らを守る政治制度や法律が一定程度存在しているからだ。しかし米国以外の世界でトランプをチェックできるものは存在しない。このことは深刻な問題である。

 

グローバルな政治経済体制は、中核にアメリカを置き、複数のシステムの網の目が共存するという一つの仕組みとして存在してきた。アメリカの支援と参加なしには、WTOはその名前通りの役割を果たせず、国連も開店休業になるだろう。多くの国際条約、協定が破綻するのは自明である。

 

グローバルな政治経済体制の均衡状態は部分部分が相互依存をしているので、いったんそれが破壊されれば、なかなか修復は困難である。その意味で、この破壊の影響は長く続くことになるのだ。その不在の間に、力によって物事を解決しようする誘惑が生まれてくるのを止めることはできないだろう。

 

じゃあどうすればいいのか。まずは、損害を小さくすることだ。トランプ氏抜きということはありえない。中庸の共和党員とアメリカの同盟諸国がトランプに対して、バノン氏とその同志たちがなぜ間違っているのかを説明する必要がある。アメリカの自己利益という観点からみても、彼らの二国間主義見当違いであり、少なくとも二国間関係の網の目の複雑性と矛盾から生じる経済的損害はタフな交渉から積み上げられるいかなる利益をもはるかに凌駕するはずだ。

 

さらに彼を取り巻くグローバルな同盟関係こそがアメリカの最大の強さの源だということに納得してもらわなくてはならない。これが経済力、軍事力に匹敵する重要な役割を果たしているのだ。中国、ロシア、イランなどの地域大国を上回る政治的ポジションをアメリカに与えているのはまさにこのユニークなネットワークなのだ。

 

トランプ氏がアメリカ第一主義を貫くには、同盟国を侮辱するのではなく、この絆を深めることが必要条件なのである。

 

真剣な説得が無視されたらどうすればいいのだろう。

 

アメリカの同盟諸国はトランプ氏の後の世界のために多国間関係を運営するための国際機関を維持する努力すなわち出し惜しみをせず、資金力を強化し、内紛を内部だけにとどめることでアメリカのリーダーシップ抜きでの世界を構想する必要がある。後継として中国に依拠する誘惑にかられるのは仕方がないが、仮にそれが望ましいとしても、いまだ中国には任が重いと言わざるをえない。

 

欧州はNATOへの資金の出し惜しみをやめ、EUの中の国務省的存在の削減をやめなければならない。地域大国のブラジルは、南米のリーダー足る自覚が必要になり、中東においては、仲の悪いアラブ諸国がイランとの平和共存のために一体となった行動をする術を身に着ける必要がある

 

このような二国間主義の網と促成の地域主義は、トランプ氏が米国大統領として引き継いだ世界よりも、アメリカにとってはるかに劣悪な環境だと言わざるを得ない。

 

こういった状況を理解して、あたりかまわず手榴弾を投げまくるのを止めるのに遅すぎるということはない。トランプの回心を世界も望んでやまないのだ。しかし同時にその希望的観測にかけることはできない。最悪の事態にも備える必要が我々にはあるのだ。(以上)