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トランプファンはクルーグマンなんか読まないが

2017年1月28日(土)13℃ 晴  

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トランプのアメリカ 4

大統領選挙前の、既存メディア(ニューヨークタイムス等)に対しては、僕も不信感があった。とにかくヒラリーを大統領にしてしまおうとする、一種の広い意味での現状維持を望むエスタブリッシュメントの一角である悪臭がプンプンとしたからである。

https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcT2_1qLfg9-5MHUsgVmvBZDcDnqBVMGUJktr4jTlBuNZoGuWubS

だからツイッターで単独で立ち向かうトランプに対して一定の評価をしたくなる気持ちもあった。

 

しかし、今こそ、偽ニュースではなく、立場を明らかにして責任をもって発言するメディア(既存であれ新規であれ)の重要性は大きい。

 

ここからは、普通に問題としてのトランプにどう対処するかという発想に切り替えるときが来たような気がする。昔、John W Holmesというカナダの外交官の書いたLife with Uncleという隣国アメリカとの気苦労についての外交史に関するエッセイを読んだことがある。Life with Uncle Donaldは笑いごとではないのだ。

 

とりわけ、経済学的な論理を無視した嘘については公明正大に批判すべき時だ。少なくとも政治家ではなく、国民個人レベルでは、自ら現実を正確に理解する責任がある。

 

クルーグマンの「トランプ政権によってラストベルトはもっと錆びついてしまうだろう」というコラムがエコノミストとして、トランプの矛盾する政策が、レーガン時代よりさらに製造業を衰退させるであろうと批判している。

 

Making the Rust Belt Rustier

https://www.nytimes.com/2017/01/27/opinion/making-the-rust-belt-rustier.html?ref=todayspaper&_r=1

 

ほとんどの公約に違反しそうな勢いのトランプの癖に、アメリカが80年間コミットして作り上げてきた世界貿易の拡大を逆戻りさせることには奇妙に真剣だと。

 

メキシコへのすべての輸入に20%の関税をかけるなどという発言がホワイトハウスから出たが、なぜトランプはこんなことをしたいのか。

 

アーミテージが、日経のインタビューで、あいつは不動産屋でビジネスマンではない。あらゆる取引をゼロサムにしてしまうと批判していたが、確かに、メキシコの大統領に妥協の余地を与えないやり口は、とりあえず、不動産を売却するか購入するかができればあとは野となれ山となれというメンタリティなのかもしれない。

 

懲罰的関税をかければ、国内の荒れ果てた墓標のような工場を復活させることができるというのが彼のメッセージだ。

 

クルーグマンは、まともな経済学者に聞けば、みな、それは無理だと教えてくれるだろうという。部分的、一時的に製造業の雇用を改善する可能性はないとは言えないが、全体を見れば、それは一つの場所から別の場所への雇用のシフトにすぎないし、それだってうまく行く可能性は低い。

 

トランプは、その言葉と裏腹に、結局は、アメリカの製造業の墓堀人になる。

 

これは経済の論理と、レーガン時代の歴史を淡々と眺めれば自明だと。レーガン時代は今回のリハーサルに過ぎなかったくらいのものだと彼は言う。

 

クルーグマンの舌鋒は鋭く、共和党が作り上げたレーガン伝説ではなく、その現実を暴露する。

 

共和党は80年代初めの不況の責任をすべて当時の大統領ジミー・カーターに擦り付けて、その後の回復のすべてを聖ロナルドの手柄とした。しかしこの景気サイクルはレーガンの政策などとは一切無関係だった。

 

レーガンがしたのは、軍事支出の拡大と減税で財政赤字を膨張させたことだ。これによって金利が上昇し、それにひきつけられるように海外資本が大量に流入した。そしてドル高が生じた。この結果、米国製造業の競争力が失われた。貿易赤字が急拡大し、全雇用に占める製造業の比率の長期的低下を加速させた。

 

さらに、レーガン時代の製造業の没落は、大幅な保護主義にもかかわらず生じたとクルーグマンは指摘する。特に米国に対する日本車の輸出に対する数量割当は米国の消費者に今日の価格で換算して300億ドル以上のコストを負担させたことになると。

 

同じことを繰り返すのだろうか。トランプ体制は明らかに、富裕層に対する主として現在を通じて財政赤字を膨張させる。これによって支出は拡大しない。なぜなら富裕層はこの棚ぼたのほとんどを貯蓄して、貧困層や中間層は厳しい社会保障給付の削減に直面するからだ。

 

金利は既に借入急増を予測して上昇しはじめている。それにつれてドル高にもなっている。まさにトランプ氏は、レーガンが製造業を見事に縮小させた定石を忠実に実践しようとしている。

 

レーガンに比べてもトランプは筋悪である。レーガンは既存の貿易協定をあからさまに違反しようとまではしなかった。トランプが考えているのは、これに比べればかなり極端な保護主義だ。

 

彼の政策が実行されれば、特定の製造業は助かるかもしれないが、それによってドル高が生じて、他の関係者すべてを傷つけることになるだろう。

 

さらに言えば、過去30年間で、世界経済は複雑化し、Made In America, Made In Chinaとシンプルに区別することなど不可能なのである。製造業は本質的にグローバル化している。自動車、飛行機を見ればわかるように、複数の国で製造された部品を集めることが今や製造業なのである。

 

既存の貿易協定を無視すれば、こういった米国のグローバル企業は、大混乱に陥るだろう。特定の工場とコミュニティはメリットを享受するかもしれないが、他の関係者は、市場、重要部品を失うことによって計り知れない打撃を被るだろう。

 

2000年代に特定のコミュニティの崩壊を促進したチャイナショックという言葉が使われたが、トランプショックも少なくともそれと同じ程度の打撃を米国に与えるだろう。

 

そして残念ながら、最大に傷つくのは、愚かにも、トランプが自分たちの味方だ信じて、票を投じた白人の労働者階層なのであると辛口にクルーグマンは締めくくる。

 

ポピュリズムの歴史を眺めてみれば、常に、一番脆弱な人々が、自分たちを最大に傷つける人間を歓呼の声で迎えるらしい。そして一番傷つけられる人々が、潜在的には彼らを守ることになる声に対して最大の敵となる。

人間の社会というのは本当に厄介なものだ。