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Adblocker;今そこにある危機

Netflixというストリーミング放送の登場が、日本のテレビ業界に深刻な影響を与えるといわれている。視聴率という客観的とは言えない尺度で組み立てられてきた広告市場、放送市場が震撼している。

ケン・オーレッタの中で、誕生したばかりのグーグルを放送業界のドンが訪れた時の逸話がある。すべて客観的なデータで分析しようとする彼らに、「なぜこんなうまく行っている仕組みを壊す必要があるんだ」と彼は叫んだ。

最近のIT化、インターネット化の流れが、視聴者とコンテンツ提供者の距離を短くしたため、そこに曖昧な利益が存在する余地がなくなってきているのだ。それを本来あるべき合理的方向性とみて、崩壊後にどのような利権を作り出そうかという人々と、それによって失われる合理的とは言い切れない「良さ」を破壊することを非難する人々がいる。当然、後者の方が圧倒的に分が悪い。なぜなら、「合理的」ではないからだ。

しかし、この合理的というのは、とどまることを知らないという特徴を持っている。

フィナンシャルタイムスのインターネット広告をめぐる新しい攻防に関する記事を読んでいたら、そんなことをしみじみ思わされた。

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/c84a647e-d3af-11e4-99bd-00144feab7de.html?siteedition=intl#axzz3VjaJJ43Z
今や1200億ドルといわれるオンライン広告市場に激震が走っている。

常に新しい攻撃者が現れるのがインターネット市場の性である。

今回の新しい攻撃者の名前はAdblockersだ。具体的には、Adblock EdgeとかAdblock Fairとか言われるソフトウェアだ。ユーザーがこのソフトを自分の端末に実装すると、自分が見ているウェブページに広告が現れるのを阻止することができるのである。昨年だけでその実装率が70%増加しているという。

これに対抗せざるを得なくなったのがグーグルやドイツのRTLなどのメディアグループ。

いつもは攻撃する側の常連であるグーグルが今回は防戦に立っている。
ユーザーがウェブ広告を見なくなったらば、その根幹のビジネスやその生態系が破壊されてしまうからだ。

しかしなじみ深い地上波テレビも、視聴者が見たい番組を無料で見られるのは、そこに車や飲料のコマーシャルが放送され、広告主がそれに巨大なお金を払うからである。

技術進歩とそれに伴う視聴者の行動変化によって、今、広告によって支えられる地上波放送のビジネスモデルが揺らいでいる。

しかし、コンテンツを見ることの代償として広告を認容するタイプの視聴者がどんどん減っているのだ。たしかに、地上波テレビは、シニアの時間つぶしになりつつあるようだ。若い人々、Z世代の人々は、テレビなど見ず、YouTubeでその一部を流し見することで満足するのかもしれない。

広告モデルというのは、当然、地上波テレビのビジネスモデルであるばかりではなく、グーグルやフェイスブックにとってももっとも重要な収入源だ。

とどまることを知らない消費者行動の「合理的変化」が今度は、そのきっかけを作ったインターネットメディア企業に刃を向け始めているというのだから。

ゲームウェブサイトの視聴者の40%がこのAdblockerを実装しているという事実。多くのコンテンツが広告に依存しているという嘆願メッセージをコミュニティメンバーに送っては見たが、その反応は良くないという。無理強いすると単にその場からいなくなるだけ。

ある意味では、ビジネスモデルの存続の危機。

グーグルなどのWeb Publisherも座して死を待つわけにはいかない。Adblockerを回避するソフトウェアなどをこっそりとスタートアップ企業に依頼しているらしい。Adblocker
を作りながら、Adblocker回避の手法も提供するような双方代理のみかじめ料(a protection racket)をとる業者も登場している。

いずれにせよ、この戦争はまだ始まったばかりと、この記事は終わる。

合理性というのは、とどまることを知らないし、その攻撃の対象を選ばない。また常に合理的であるということは疲れることでもある。合理性というのは一種の宗教、というか狂気に近いようにも思えるのは気のせいか。