Podcast:StartUp第三回 パートナーが決まった!
創業者が数名いるときのエクイティ持ち分の決め方というのはある意味難しい。
特に、アーリーステージでも、外部投資家が一定の企業価値をつける度合いが強いアメリカではそれが問題になる。
ベンチャー企業の失敗の原因の第一が、創業者間の対立であるというのも、当然といえば当然だ。
投資家のプレゼンの中で、単独での起業を疑問視する意見が出たり、自分でも精神的、作業的負担にいっぱいいっぱいになっていることから、アレックスは、今回、真剣に起業パートナー探しを始める。絶好のパートナー候補が見つかるのだが、のっけからエクイティ持ち分の分配の件で、少々もめることになる。
Planet Moneyなどの経済系の人気ラジオ番組のプロデューサーのアレックス・ブランバーグも、流石に、起業の実務となるとわからないことだらけだ。
エピソード3は、大切な相棒探しの巻だ。
#3 How to Divide an Imaginary Pie
想像上のパイの分け方
Sep 17, 2014
家族一緒に動物園に行こうとしたのに、使っているノートパソコンが突然壊れて、ハード、ソフトの買い替えや、実装で大切な休日がすべて台無しになり、しかも、起業直前で、ただでさえ貴重な貯金から数千ドルという思わぬ出費が嵩み、落胆の激しい、アレックスのどんよりした声。
のっけから暗い始まりだ。
準備万端だったはずのビジネスプランだが、まわりには、もっとうまくやれる、無数の優秀な人間がいるんじゃないかと不安が高まるばかりだ。
30代の家族持ちが定職を捨てて、何をやっているんだろうと愚痴るアレックスに、それはこっちのセリフでしょと口に決して出すこともなく、冷静に話相手になるナザニン。
(本当に良くできたカミさんで、ヒップホップドラマ、エンパイアのクッキー・ライオン的隠れたスターだ。)
無数のライバルがいるとは思えないわ、こんなちっぽけ(Dinky)なプロジェクトに命がけになるのはあなたぐらいよと絶妙の返しで、どんよりした旦那を笑わせる。
お見事!
結局、二人の結論は、アレックス一人では起業は難しいということだった。ビジネスパートナーを探すべきということで意見は一致した。
パートナーの必要性を彼に言ったのは、妻だけじゃない。
マイケル・ローゼンブルムという投資家にプレゼンをした時のこと、スライドも凄いし、事業機会は十分にあると思う。
でも、自分は、できれば単独の創業者より、複数の創業者に投資したい。
「スタートアップはチーム競技」というのが彼の投資哲学だ。
皆がパートナーを探せという。自分も一人じゃ心もとない。
しかし具体的にはどうやって探せばいいのか。
パートナーのビジネススキルを評価した経験などない。
そこでとにかく、まわりに聴きまわることにした。
まるで30代になって、身を固めようとデート相手を探しているようなものだと苦笑いするアレックス。
いろいろな人と会ったり、サイトを使ったりした後に、とうとうアレックスは共通の友人の紹介でマット(Matt Leiber)に会った。
マットは、元パブリックラジオのプロデューサーで、MBAを持っていて、今ボストンコンサルティングのコンサルタントだ。
彼は初めから、このビジネス機会に大乗り気で数週間後に、早速、7ページの事業計画を送ってきた。
すっかりマットが気にいった、アレックスは、ビジネスパートナーになってくれないかとおずおずと提案する。
マットも起業に関心があるはずとは思うものの、アレックスも、彼の立場になってみれば、今のコンサルタントという安定した職を捨てることのリスクは身に染みてわかる。
アレックスの提案に対して、そろそろ、そういう話し合いが必要だと思っていたとマット。
ただこれからは、自分のエクイティ持分の話を抜きで、話や作業は続けられないと。
弁護士も入れてすぐに話をすすめようと合意。
しかし、本音を言えば、今、無価値のものの何%を分けるのかということに皆が目くじらを立てて大騒ぎする理由が今一つピンと来ないのがアレックスだった。
この会話から数日後、妻とレストランでマットとの話し合いについて相談するアレックス。
マットにエクイティの何%を渡すべきかと相談した。
一瞬、言葉に詰まりながらも、10%ぐらいじゃないのとナザニン。
妻以外にも同じ質問した。5,10,15%あたりが妥当という意見が多かった。
しかし、無価値なものの何%なんてどうでもいいと呟くアレックスに、それは絶対にダメといつもとは違って強い口調のナザニン。
あなたが一所懸命ハードワークをすればするほど、渡したエクイティの重さが増してくるはずだ。エクイティを渡す相手と、その比率の妥当性というのは軽々しく考えるべきではない。
それはそうなんだが、まだしっくりこないアレックスである。自分の意見というよりは、投資家や妻にどう言われるかが気になってしまうというのが本音のようである。
後日、再び、マットとのミーティング。
マットからは、45%程度の比率を考えているとの発言。絶句するアレックス。
いろいろな人と話したが、おおむね、10から12%が限度という意見が多かった。僕は、それでは不十分だと言ったんだけどと少々要領を得ないアレックス。
マットは、10%というのが一つの考え方だということはわかるが君はどう考えるのかとマットはいきなり切り込んでくる。君にとっては大事なのは自分の会社の90%以上を保有することなのか、それとも何か別のことなのか。
アレックスは内心ではどう答えていいかがわからなかった。むしろ周りの人間(クリス・サッカなど)が自分の決定に対してどう反応するのかが気になった。
アレックスは、絞り出すように、自分は自分がこの会社の成功の鍵だと思っているし、それがCap Table(資本構成)に反映をさせたいと。
マットは、それは、自分が会社の成功の鍵ではないと聞こえるのだがと反論する。
10%のエクイティというのは、君が上司になるだけの話だ。このレベルのエクイティ持ち分では、君が求めるものを与えることは不可能だと思うし、そんなことで、この起業が成功するとは思えない。
マットの言い分は良くわかった。失うものに対して、得るものが少ないということだろう。
二度目のミーティングも終わった。
初めからの約束で、二人とも家に帰ってからの妻との会話を録音している。
このあたりポッドキャストについてのポッドキャスト作りというアレックス・ブルンバーグのジャーナリスト魂というか、苦しい場面でも、客観的な眼が動いているところがとても面白い。
録音された会話は、最終的に話し合いの決着がついて数か月後になってからお互い聴いたという。このあたりの微妙な規律の中に、プロのジャーナリスト精神のようなものを感じてしまう。
マットと妻の会話。
アレックスは自分のことをパートナーだとは思っていない。こんな数字はまるでコンサルタント的な評価しかしていないことの現れだとマットは落胆の色を隠さない。
マットのかみさんもなかなか冷静。
アレックスが、あなたは重要なパートナーなので、50-50で行こうというと期待していたのと鋭く切り込む。
いやあ、そこまでは考えていなかったが、10%というのは、流石に、自分の可能性やコミットメントを過小評価されたと思ったんだと。
じゃあ妥協の余地はないの。
向こうが10%といってこっちが50%ぐらいといったからなかを取って30%というのも一つの考えだが、そんな駆け引きは本望じゃないとちょっと意固地になるマット。しかしこんなことで、可能性の大きなプロジェクトを無駄にするなんてと未練たらたらでもある。
(男っていうのはそういう面倒くさいところがあるのは、世の東西を問わないらしい。)
一方のアレックスとナザニン。
(結婚式でのアレックスとナザニン。当然右の二人)
ナザニン あなたにはパートナーがいるのは事実よ。でも30%以上渡すのはどうなのかしら。
こういった応酬があったのちに、二人は再びレストランでミーティングをした。この会話は録音してはいない。このあたりの微妙な加減がとても興味深い。
アレックスも、いろんな人に意見を聞いてみたが、そのうち、創業者のエクイティ配分に正解などないことがわかってきた。ニューヨークの大物VCのFred Wilsonなどは、創業者間のエクイティ配分は50対50でいいんだと言っている。
結局、自分たちが自分たちの状況を前提に決めればいいことなのだと覚悟が決まって、アレックスの気持ちもかなり晴れてきている。
結局、マットに40%を渡すということで合意し、簡単な書面にもサインした。
この後、マットが傷ついたことに気づかなかったことを謝罪するアレックス。
でも合意ができてから、ハッピーだというマットに安堵するアレックス。
ようやく無価値なものをどう分けるかの合意はできた。
これで念願のパートナーができた。
あとは、二人でどうやって価値を生み出していくかだ。
(以上)