惑星の時間:明治神宮という窪み
東京の中には、ぽっかりと空いた大きな窪みのような場所がある。
世界中を旅したわけではないが、それが、世界でも有数の巨大都市東京の不思議な魅力の源泉になっている。
樹木の中に、包まれて、コクーンの中にいるような気持になることができる。
雑踏の中で、毎日、毎日、見知らぬ人々とすれ違うことはあっても、その人いきれの中で、何かに繋がっているということを感じることはない。むしろ、どれだけ切り離されているかということを感じてしまうことが多い。
ところが、こういった緑の大きな窪みの中にいると、むしろ、固い自分の殻のようなものがとけて、もっと何か大きなものの中に溶け込んでいくような気持になることができる。
その中でも、僕にとって特別な場所が、明治神宮の森だ。
70万平方メートルという巨大な神宮の境内のほとんどを森が埋め尽くしている。
しかも、ほとんどの場所が、一部の人間を除いて、立ち入り禁止だ。
世界でも有数の人工の自然林、サンクチュアリなのだ。
明治天皇の崩御後、東京に神宮建設したいという都民の思いから、広大な平地に神宮が建設されたのが、1915年。多数のボランティアの力によって、神宮の建設と植林が始まった。
植林の当初から、多数の専門家を集め、100年後に広葉樹中心の原生の森になるという植栽計画のもと、植林後は、人間の手を一切加えないという思想のもとに作られた。
ある意味、驚くべきことだ。アーキテクチャを設定して、あとは手を加えないという形での、人工性。
それが、東京という硬質で、容赦ない大都会の中に、神秘的な緑の窪みを生み出し続けているのである。
それが、そこに住むものに与える意味ははかりしれない。
この森の中には、何か月に一度は、必ず、座りたいベンチがあり、必ず、歩きたい道がある。僕はそのたびに、東京という街に住むことの愉悦を感じている。
BGMはバンゲリスが聴きたい気分だ。