映画:神保町!神保町!「森崎書店の日々」
映画評論というスタイルにさほど興味はない。結局、その映画と自分の間を結ぶ線が一本でもひけるならば、それで、何かを書いておく意味はあるというぐらいの考えだ。実際、週末、わりかし、新聞の映画評も、比較的信頼している批評家が褒めていたので、久しぶりに映画館に見に行ったアクション大作には、一本も、補助線すら引けなかった。そうなると、自ずと失語症的にならざるを得ない。何も言うことはないと。
神保町という街が好きなので、公開された当初から、気にはなっていた映画を、ぴったりと空いた時間に合わせてみた。
「森崎書店の日々」
社内恋愛でこっぴどい背信にあり、傷ついて、会社まで辞めてしまった、どことなく、ひ弱な女の子(菊池亜希子)が、叔父さん(内藤剛志)のやっている古本屋の居候になって、神保町という一種、時間が停まったような場所で再生していく話だ。
予想どおり、静かな映画だったし、見慣れた街の風景が画面を流れる穏やかな映画だった。
穏やかな映画が観たいと思ったときに、ぴったりの映画を観た。
それだけの話かというと、ぐっとくる場面があった。
神保町の行きつけのカフェでバイトをしている国文学専攻の大学生(田中麗奈)と友人になる。
叔父さんの助けもあって、過去の不幸な恋愛も振り切って、居心地の良いこの街を去ることを決めた菊池亜希子に、田中麗奈が語るこんな言葉が沁みた。
「価値のあるものを買うのではなく、自分で価値を作れるものは強い。」
自分もそういう風になりたい。この街に来てそんなことを思うようになったとう言葉が、神保町という街への最高のオマージュになっている、そんな、沁みる映画だった。