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21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

podcastの時間:Startup第1回(Alex Blumberg)

きわめて親しい人間にだけ、最近、アメリカのポッドキャストが凄い。嵌ってるんだと、こっそり告白してみることがある。

 

それはいいね!とすぐに反応してくれる人は皆無だ。またニッチなところに行くねという顔をされる。ただ長年の友人たちなので、昔からお前は、狭いところ狭いところへ行くよねという愛情深い顔をしてくれてはいる。

 

しかし、オーディオメディアという意味では、確かに、アメリカでもニッチな世界だし、日本人が一生懸命英語のポッドキャストを聴いているというのは、ニッチのひねりが効きすぎかもしれない。

 

テレビでいえば、NHKのプロフェッショナル、TBSの情熱大陸やその他のドキュメンタリー作品のようなレベルの作品がポッドキャストという新しいオーディオメディアの中で生まれてきている。ラジオの黄金時代へのノスタルジーや、オーディオを基軸として大きく旋回しはじめた新しいメディアへの期待感が、今はまだ小さな領域のなかにあふれている。

 

じゃあその中で、どれをすすめるか。話題のSerial, それを生み出したThis American Life、Radiolab, Planet moneyなどいずれ劣らぬクオリティの高さだ。

 

その中で一つ選ぶ。僕は躊躇なくGimlet MediaのAlex BlumbergのStartupをあげる。This American LifeやPlanet Moneyで傑作を連発してきた名プロデューサーのBlumbergがポッドキャストというものの大きな未来の可能性にかけて、安定したパブリックラジオの世界を飛び出して、ベンチャーキャピタルの出資による起業を始める自分の生活をそのままに番組にしたのである。

 

 

 

https://nyoobserver.files.wordpress.com/2015/02/ea_gimlet_alex-blumberg-32.jpg?w=600&h=900

 

 

番組作りについては経験豊富なAlexだが、起業となると、話が違う。資金調達の時に服装から、社名を決めることまで、テレビのプロデューサーの妻と相談しながら右往左往する姿がリアルに描かれているのだから面白くないはずがない。

 

日本語のポッドキャストと違って、URLを貼りつけて、面白いから聴いてと言えないところが難しい。

 

これからは、Serialの大ブームの影(表?)の立役者となったインターネット掲示板Redditの板(Subreddit)がこの番組についても生まれて、テキスト情報も生成されてくるようになるだろうし、そうなると、非英語圏でも、その面白さが伝わる可能性は高まるだろう。

 

この面白さをすぐにも伝えたいと思うと、実況中継というか、視聴後の感想、読後感のようなものを書くのも意味があるような気がした。

 

そこでしばらくは、Startupの「実況中継」をやってみようと思った。

 

 

第1回は、How not to pitch a Billionaire

億万長者の投資家へのプレゼンテーションでやってはいけないこと。

 

 

ポッドキャスト制作会社を起業することを決意したAlexが最初の難関である資金調達に格闘するのがユーモアたっぷりに描かれる。パブリックラジオの制作のキャリアの前には、教職、ソーシャルワーカーと、非営利の世界にどっぷり浸かっていたAlex。営利の世界は、どこまで行っても未知のエリアだ。

 

投資家訪問の時の服装選びの妻との件が楽しい。オレンジ色のスニーカーを履いていこうとした彼に

 

「何用に買った靴なの?」

「テニスシューズ・・・」

「別の靴にするしかないわね」

「・・・・」

 

Alexが人伝てで最初にあったのが個人投資家のChris Saccaだった。事前に、AlexはChrisのことは何も知らなかったが彼は、シリコンバレーベンチャー投資の世界では有数の大物投資家だった。設立まもないTwitter, Uber、Instagram, Kickstarterなどへのエンジェル投資で得た巨額な投資益は既に伝説の域に達していた。

 

https://pbs.twimg.com/profile_images/1771648774/Sacca_profile.jpg

 

Alexは本拠地のニューヨークから、Chrisの住むロサンゼルスへと向かった。

 

会話は始まった。最初は、ツイッターに最初に投資した金額が2万5000ドルであることや、ベンチャー投資での彼の哲学などを和気藹々と語ってくれた。

ところが、本題となって、雰囲気は一変する。2分間あげるから、自分のやりたいことを話してと言われて始めたプレゼンでAlexは大失敗してしまう。プレゼンの一々にダメ出しをされて、立ち往生してしまうAlex. それを見かねたChrisが、自分だったらこうやるねとやったプレゼンの場面が今回のクライマックスだ。といういか、シリーズの中でも一番のハイライトのような気もする。

 

「ご存知とは思いますが、私は、This American Lifeを代表とするコンテンツプロデュースの分野での豊富な実績があります。今、こういった高いクオリティのコンテンツに対する渇望が、リスナーの間にも、広告主の間にも溢れています。今、世の中に流通しているゴミコンテンツではなく、良いコンテンツが欲しくて仕方がないのです。

 

技術環境も追い風です。自動車内にポッドキャスト視聴環境が統合されるようになり、iOSの新しいバージョンでは、ポッドキャストがメニューボタンの中に組み込まれるようになってきています。

 

しかし、この高いクオリティのコンテンツを私のように量産できる人材はいません。広告主からの需要が大きい領域がどこかも既に経験上わかっています。

 

その意味で、私にはアンフェアなほどの優位性があるのです。

 

This American Lifeでの制作においても、Kickstarterなどを活用して、Tシャツ提供などで、60万ドルという資金調達を達成してきた実績がこの優位性の背景にあります。この経験は、自分たちの会社の経営においても活用できます。

 

調達額は150万ドル。資金使途は、3,4名のスタッフの採用と、今後12か月で3つの番組の制作に使います。これによって30万から40万人のリスナーを獲得することが簡単にできます。

 

現状のCPMを前提にすれば、広告収入で損益分岐まで持っていけますが、それにとどまらず、製品販売やシリーズ化などによって追加的収入が見込めます。この流れで12から15のポッドキャストのネットワーク化ができることになります。

 

リスナーが求める、私たちにしかできないコンテンツ制作。参加しませんか。(Are you IN?)」

 

自分がやるべきセールスピッチを立て板に水でChrisが語り終えたとき、スゲエーと感動し、これだけ見事にまとめてくれたんだから、投資は決まりだと思った瞬間、Alexは再び驚かされることになる。

 

Chrisが、次にネガティブなサイドからの視点を披露するのだ。

 

「メディアというのはハードなビジネスだ。特に、個人消費者のアテンションを獲得する競争が激化し、長尺(long-form)のコンテンツは、短い尺(short-form)に押されるようになってきているという状況下では、君たちは、川の流れに逆らって泳ぐようなものだ。またポッドキャストの配信がグーグルやアップルという巨人にコントロールされているということも懸念点である。さらに現在パブリックラジオサービスやクラウドファンディングのような世界で調達が可能なものに、営利性が加わることで、従来の寄付というものが得られにくくなるということに注意すべきだろう。今のところは、君たちのアンフェアなほどの優位性は否定しないが、多くのニュースメディアや新しいプレイヤー(カーンアカデミー)が新規参入する中で、それが続くとは限らない。いずれにせよオーディオというのはニッチすぎて、自分たちの投資スタンスにフィットするかどうかがわからない。」

 

数分の間に、天国と地獄を味わったAlexは、混乱の極地に達する。

 

強いプレゼンテーションを作れるかどうかということよりも、Chris Saccaのようなベンチャー投資家がスタートアップに求めるものが自分の考えていたものとかけ離れていることに愕然としたのである。

 

Chrisが求めるのは、黒字で安定した事業ではない。次のTwitterになるか、あるいは最低3年から5年後にTwitterに投資額の10倍から100倍ぐらいで買われるような会社なのである。投資家には出口が必要だということを痛感することになった。

 

自分をそんな価格で買収する人など、想像もできないAlexだった。

 

茫然とするAlexに、Chrisはこんな提案をする。

 

 

ニューヨークへ戻って、自分のセールスピッチに磨きをかけて、もう一度、ロサンゼルスに来たらどうかと、次は、自分のパートナーで、コンテンツの世界でも経験豊富なMatt Mazzeoと話しなさい。彼との話がうまく進むようだったら投資を検討すると。

 

不安一杯でニューヨークへ戻るAlex。第1話の終わりである。

 

次回は、ポッドキャスト、未来?過去?。