21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

惑星の時間(A day in this planet)右の窓と左の窓

 

 海外で唯一宣伝された日本のフラワーパークに、外国人観光客(当然のことながら、中国語圏の大量な観光客)が殺到というニュースを聴いた。

 

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気が向いたので、連休の後半のある晴れた朝、上野発の臨時列車に乗って、話題のWisteria(ふじ)を見に行くことにした。

 

早朝、ターミナルの風情がいまだにぷんぷん漂う東北本線のプラットフォームで駅弁片手に旧式の電車に乗り込んだ。

 

何の変哲もない車両を、カメラで撮る若者を窓の外に眺めながら、買いこんだ深川めしを早速平らげた。缶ビールは、フラワーパークでの昼飯時にとっておくことにした。

 

2時間弱の小旅行だ。都心を過ぎるまで、ヘッドフォンに閉じこもって、聴きさしのポッドキャストを聴いた。

 

文化系トークラジオ Life: 2015/02/22「No Music, No Life?~音楽はいまどう聴かれているのか」 アーカイブ

 

中堅、若手の社会学者や評論家たちが、いまどきの音楽の「聴かれ方」について活発な意見の応酬をしている。ローティーンのリスナーからの、ヒット曲に惹かれて、初めてアルバムを買ったが、全曲を聴くことができずに、そのままになっているという投稿に30代から40代の参加者全員が絶句した。技術が、人間の習慣をいかに気ままに変えていくかということだ。聴いたことのない曲を聴くことができない世代の登場。コンセプトアルバムどころの話じゃない。

 

浦和、大宮を越えたあたりから車窓の風景が変化した。田畑や低い山、そして断続的に現れる集合住宅。とはいえ、都心とは随分風景が変わってくる。

 

進行方向の右側に石切なのか、土砂採掘のためなのか、山容が鋭角的に変わった山が見えた。携帯電話で現在地を確認すると、思川(おもいがわ)という予想に反した情緒ある地名が現れた。渡良瀬川の支流。

 

まわりの風景を眺めるようになってから、気になることがあった。

 

進行方向の右と左で、窓の透明性が違うのだ。初めは、最近めっきり調子の悪くなってきた自分の目のせいかと、片目を閉じたり、方向を変えたりして、確かめてみた。しかしどうも、自分の目のせいではない。

 

あきらかに、右の窓は、左の窓に比べて、車窓の風景が透明なのだ。

 

列車の通路を、揺れにうまく身体の動きを合わせながら、大柄な車掌がやってきた。

 

思わず、彼に話しかけたい衝動にとらわれた。

 

どうして右の窓がきれいで、左の窓が汚いんですか。

 

「ああ、気づかれましたか。すみませんねえ。右の窓と左の窓で、掃除人が違いましてねえ。右の窓担当をしているのが、田舎出身で、頑固なまでの職人気質で、窓をぴかぴかに磨き上げなければ気が済まないヤツなんですよ。どちらかといえば、周囲のことはほとんど気にかけないというタイプ。お客さんの職場にもいませんか。まじめで、文句のつけどころはないんだけど、まわりが少々迷惑するというタイプ。まじめでいいヤツなんですよ。

 

え、左の窓の担当が、いい加減かって。そんなことはないんですよ。最近、効率化、効率化で、一人一人の担当者の負担が大きくなっていましてね。特に、行楽シーズンは本数も多いので、作業をする人間を責められないところがあるんですよ。

 

そんな時でも、決して、自分の仕事の質を落とさない人間がいると、自分たちで自分の首を絞めるっていうか。こんなこと言っちゃいけないんですけど、お客さんだって、右の窓がこんなにピカピカしていなければ、左の窓が汚いなんて思わなかったんじゃないですか。まあ私がこんなことを言っちゃいけないんですが。」

 

と、大柄な車掌は僕の妄想の中で、率直に答えると、ニコッと笑って、通路の後ろの方に向かって歩き始めた。

右側の窓の掃除人に感激すべきなのか、左側の窓の掃除人に同情すべきなのか。

 

こんな妄想で行きの電車は楽しく過ごすことができた。

 

フラワーパークの藤棚が見事だったことと、殺到した観光客の数が、その町の容量をはるかに超えていたことは、いつか気が向いたら話すことにしよう。