21世紀ラジオ (Radio@21)

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2012年、注目のテクノロジは、モバイル決済、ロケーション関連技術、拡張現実(エコノミスト)


年末のエコノミストの2012年予想のテクノロジー編が面白かった。

来年の戦いは、モバイル決済、ロケーション関連技術、拡張現実(AR)とか。

しかし、確かにソーシャルネットワークとロケーション技術と拡張現実技術が組み合わされると、まるで伊藤 計劃の「虐殺器官」の中
のような光景が現実になるということだ。

「人気の多い通りに出ると、視界が唐突に騒がしくなった。存在しない看板で副現実(オルタナ)が溢れかえったのだ。
 
観光都市であるプラハは、とにかくオルタナが充実している。店という店に、街路という街路に、これでもかというくらいの情報が貼りつけられている。それら溢れかえった文字情報が、百塔の街であるプラハの景観に香港のネオン群か、リドリー・スコットが想像したロサンゼルスのような混沌を付け加えてしまっていた。存在しないネオンによる、現実の風景への膨大な注釈の山。店の種別、営業時間、ミシュランの評価。代替現実は観光客向けの広告が幾重にも折り重なるカスバと化していた。

 計画を立てなければならない。

 ぼくはタッチボードを探した。オルタナを充実させているプラハの歩道は、そこらじゅうボードだらけだ。キーボードのイラストが書かれた合成樹脂の板が、いたるところで観光客に顔を向けている。ぼくはボードの前に立って、それを三秒間見つめると、コンタクトが絵をインタフェースとして認識した。キーボードを叩くようにイラストに描かれたキーに触れていく、キーを「押した」手ごたえのような贅沢を求めない限り、本物のキーボードは必要ない。赤い線で抽象化されたキーが描かれていた板でじゅうぶんだ。

 視線検出で文字を見つめるだけで入力可能なデバイスも一時期もてはやされたが、一文字一文字視線を移動させるより、指でキーを押したほうが断然スピードが速かったために、視線入力はあっという間に廃れてしまった。

 プラハの観光情報をカットアウトするフィルタを起動させて、USAにアクセスする。」(伊藤 計劃虐殺器官」)

未来の想像力は細部に宿る。そして来年はそういう小さな市場で次の大きなものが懐胎されていくことになるようなのだ。

実に面白い。


http://www.economist.com/node/21537920/


処女地

2012年もテクノロジーの未踏の地域をめぐる戦いが続く。

デジタルの世界においても、グーグルが検索分野、フェイスブックソーシャルネットワーキング、アマゾンが小売をそれぞれ支配している。

これらの領域もいまだに戦闘が終わったわけではない。

マイクロソフトのBingがグーグルに戦いを挑んでおり、グーグルがフェイスブックSNSで追いかけている等々。

しかしとはいえ、それなりに成熟に向かいつつある大きな領域である。

2012年に戦闘が起こるのはより小さな、あまり知られていないテクノロジー領域だ。

モバイル決済、ロケーション、 拡張現実(Augumented reality)。

今は、テクノロジーの周縁領域だが10年前のソーシャルネットワーキングがどうだったかを考えれば
何が起こるかはわからない。この領域を誰が狙っているのか。

先ずモバイル決済。

技術進歩というものが本当に奇妙なのは携帯電話を使ってタクシー料金を支払うには、ニューヨークよりナイロビの方が便利
なことに現れている。

ケニヤはモバイル決済の分野では世界でもっとも進んでいるのだ。モバイル決済は特に発展途上国で通常の銀行や決済手法の代替としてきわめて人気が高いのである。

先進国においては、この戦いは財布やクレジットカードを携帯電話に代替するために、銀行と携帯オペレーターの間で顧客の争奪戦や、
数百万の小売事業者が利用するPOS機器のアップグレードのお金を誰が払うかという問題になっているのだ。

この市場で、一晩でモバイル決済インフラを作り上げられるものがいるとすればそれはアップルだ。


この分野で2012年に停滞を打ち破る可能性のある2つの会社に注目すべきだ。

一社目はスクエア。これはツイッターの共同創業者であるJack Dorseyが
起業したスタートアップ企業だ。彼の会社はアップルのiPhoneや、アンドロイドベースの
スマートフォンプラグインすることでこれらの携帯端末をクレジットカード決済を行う携帯用レジに
変えてしまう小さな正方形のデバイスを作っている。サンフランシスコのファーマーズマーケットに行くと、
実際に使われる様子を 見ることができる。

もう一社は、新しい社長のティム・クック傘下のアップルである。この会社は何度も、完成前のアイディア
(デジタルミュージックプレイヤー、スマートフォンタブレットコンピュータ)を市場に示して使い方を
強制してきた会社である。2012年にはアップルはiPhoneの新しいバージョンに無線チップを埋め込むこ
とによってモバイル決済を試みる可能性がある。

アップルは iPhoneを使って、支払や受取をできるようにしてiTuneサービスを既に使っている2億人以上のクレジットカード
をシステムに組み込んでしまうことができるのだ。

自力でモバイル決済インフラを作り上げて、その後、多くの新規参入者を呼び込み、一夜にしてまったく新しい市場を作り上げられるものがいるとすれば、それはアップルなのである。

(古いiPhoneやアンドロイド端末と互換性を提供するためには、おそらくアップルがスクエアを買うのが一番論理的である。)

この領域ではペイパル(イーベイの100%子会社)も活発だ。

この会社はデスクトップでのインターネット決済を支配している。
グーグルも2011年にモバイル財布サービスを導入した。

次にロケーションベースサービスだ。ここもまだ立ち上がっていない領域である。モバイル事業者は、個別ロケーションごとの広告をプッシュしたりクーポンの配布などを長年行ってきた。

ここでもフォースクエアやGowallaのような新興企業がスマートフォンのユーザーに自分の現在地の情報を共有することのインセンティブを与えようとしている。当然こういった情報を商用化したいのだ。

しかしロケーション情報はソーシャルネットワーク上で写真、現在の状況アップデート、推薦などを共有するときにもっとも有用になる。ロケーション関連の新興企業が大手ソーシャルネットワーク企業(フェイスブックツイッター、グーグル+)と競争したり、連携したりする中で多くの試みがなされるのだろう。かくしてロケーション情報がソーシャルネットワークのサービスに統合されていくことになる。

同様な状況はAR(拡張現実)の領域でも生じる。現実世界をリアルタイムで見るときに、その中に、インターネットからの情報を重ねるSF的なトリックである。現時点では複数スマートフォンアプリ(Layar, Wikitude、Google Goggles)で飲み会で自慢したり、ゲームで遊ぶことができる程度だ。

しかしロケーション情報とソーシャルネットワーク情報が繋ぎ合わされると、ARは、リアルタイムの現実情報を示すまともな手段になるはずだ。

すなわちお祭りの群集の中で自分の友人をハイライトしたり、自分の眼鏡に、コンファレンスで話しかけてきた人の名前や、ソーシャルネットワークでの直近の投稿が写ったりするようなことが考えられる。

この分野は新興企業とソーシャルネットワーク検索エンジン、ハードメーカーがともに注視している新しい処女地だ。現時点では、アップルは先端技術を、エレガントで使いやすい形態にパッケージすることにかけては圧倒的な力を持っている。アップルはそのうち拡張現実ゴーグルを発売するかもしれない。iGlassesかな。(以上)