21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

新ダーウィン主義生物学者は、できそこないの経済学者(リン・マーギュリス)

Edge.orgというウェブサイトにはまっている。

今は、一番新しい特集のLyn Marguilisという最近なくなった女流の進化生物学者とのインタビューや、
彼女に対する論敵たちからのTributeなどを読んでいる。


ジョン・ブロックマンは彼女のことをこんな風にまとめている。

『生物学者リン・マーギュリスが11月22日に亡くなった。彼女の業績には圧倒され
る。その理由は、彼女が進化の研究のスパンを過去40億年までに広げた点にある。

彼女の主要な研究は細胞の進化だ。

彼女は真核細胞が45億年前に、異なる種類のバクテリアのインタラクションから
生じたという共生的起源説を主張した。発表当初は、完全な無視か、よくても冷
笑されることになったが、今では、細胞進化における共生は偉大な科学的ブレー
クスルーの一つと見なされるようになっている。

マーギュリスはさらにガイア仮説の推進派である。この考え方は1970年代に、フ
リーランスのイギリス人atomospheric chemist(空電化学者)であるJames E.
Lovelockによって提唱された。

ガイア仮説は、地球の大気圏や表層の堆積物は自己規制的な生理学的システムを
形成していると主張する。すなわち地球の表面は生きている。この仮説の強い
バージョンは、生物学の権威たちからはあまねく批判されている。

地球は自動制御型の生命体であると主張する。

マーギュリスは弱いバージョンのガイア仮説を支持している。

すなわち地球を統合された自動制御型エコシステムである。』


ダニエル・デネットや故ジョージ・C・ウィリアムス、W. Daniel Hillis, Lee
Smolin, マーヴィン・ミンスキー、リチャード・ドーキンス、故Francisco
Varelaなどのマーギリスの業績へのコメントも載っていて、かなり面白い読み物
だった。

マーギュリスがブロックマンに語った様々なエピソードが贅沢なほどに面白い。


ダーウィン主義的というか数理統計的なアプローチをこの強烈なおばさんが容
赦無くこき下ろす様子がいい。


この分野の大家Lewontinが講演したときに、彼が、新ダーウィン主義(ダーウィンメンデルを統合
して統計学的なアプローチを強化した最近の生物学の一種のパラダイムになっているもの)に基づく
自分の分析が、実験に基づくものではないことを認める発言をした。


Lewontinは米国の進化生物学者で、集団遺伝学と進化理論の数学的基礎を構築したこの分野の大物である。


その時にマーギュリスは、根本的な前提に関して深刻な欠陥があると思っているのに、なぜそんなナンセンスを教え続けようとするのかと大家を詰問する。

二つの理由があると彼は答えた。

答えはP.E.

いったいそれはなにか。

「P.E. は人口爆発、断続的均衡、物理教育ですか。」と彼女が聞くと、


彼は「Physics Envy 物理に対する嫉妬だ。」と答えたという。


社会科学でも、経済学などはまさにこのPEの最たるものだが、生物学なども先進科学の物理学を意識せざるを得なかったのだろう。

彼の二番目の理由はこれよりももっととんでもなかったとおばさんは続けている。


ダーウィン主義的に研究を発表しないと、彼はこの種の研究をサポートするた
めに設立された補助金を得られないのだと。

なんとまあ率直なことか。

このおばさんは、あまりに数理化していく進化生物学の動きに対して批判的だっ
た。生命の言語は数学ではなく、化学で語られていると彼女は言う。最近の新ダーウィン主義者は、
化学や生物学の素養がなく、数学や統計学を使ったできそこないの経済学者のような
ものだと手厳しい。


さらに、彼女はドーキンスなど中心プレイヤーたちが、動物に偏して進化を考えるのにも厳しい。馬鹿にしている
というのが正しい。

曰く動物のことにばかりかまけているということは、18世紀のシカゴ
の誕生あたりのことを詳細に研究したものを、世界史と呼ぶようなものだ。

なかなかざっと読み飛ばせない。そこで書かれていることの背景について、立ち止まって、いろいろな本を読みたくなるからだ。
じっくりと読んで、その背景を、時間をかけて勉強するというのは、かなり楽しい体験である。

そういう喜びを与えてくれるという意味で、Edge.orgは本当に面白いサイトだ。