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EMI分割(技術が変えた産業構造)

狂気の改良者(Tweaker)のスティーブ・ジョブスが音楽産業に与えた破壊的な影響は有名だ。いまだにその倍音(Overtone)は続いているというウォールストリートの記事が出た。

In EMI Split, Digital Overtones

ETHAN SMITH記者


先週、EMIはシティグループによって総額41億ドルで売却された。

EMIのレコード部門はユニバーサルに19億ドル、音楽出版部門は、ソニー率いる6社連合に22億ドルで売却される。

ソニーは近年攻勢を強めている版権ビジネスの拡大の一環としてこの案件にかかわっている。今回の買収結果、EMIの130万曲の版権を得ることで、
業界トップに躍り出るらしい。ソニーのこの動きは5,6年前からで、マイケル・ジャクソンとの合弁事業から始まったという。

今回の買収価格を見ても、業界内でもレコード事業よりは、版権事業の方が高く評価されているということが反映している。

音楽出版業界は昔から利幅の薄いビジネスだった。

一枚レコードが売れたり、ラジオで一曲かかるごとに数セントが版権保有者に入るというモデルだ。量的拡大が不可欠なので買収、統合が活発に行われてきた経緯がある。


この力学はデジタル時代にはさらに増幅された。先ずはアップルのiTuneの登場。

この仕組を使って消費者はアルバムではなく個別の曲を買うことができるようになった。その後Spotify ABのようなストリーミングサービスや毎回1セント以下でロイヤルティを支払うビジネスが現れた。

今回の買収で同部門ソニーが100%支配するわけではないが、投下した資本と得られる事業上のメリットを考えると、ソニーにとっては悪くない取引になるのかもしれない。

取引のもう一方であるユニバーサルのレコード部門買収だが、既に、ユニバーサルのシェアが世界最大というところからすると、業界力学的には若干違った動きといえるようだ。

EMIは、過去の版権カタログは厚いがが、現在のアーティスト層は薄い。ただEMIはビートルズや、Radioheadなどのicon的権利を持っているため、マーケッティングコストも新作を生み出すよりははるかに低いので、売上が低下しつづけるレコード事業における投資としては、妥当なのだろう。

ユニバーサルの米国のシェアは30%超、国際市場ではそれ以上。

EMIのシェアは9%なので、この買収によりユニバーサルの市場シェアはほぼ40%となり、第二位のソニーミュージック(29%シェア)を大きく引き離すことになる。

ただこの買収に関しては、シェアが即収益につながるわけではないという見方も強い。レコード業界においては、製品価格の下落が続いており、マーケットシェアの拡大が価格決定力を意味しないからだ。小売店レベルでの販売力もウェブにおける販売力もEMIは弱いのだという。

結局、CD販売はウォルマートやターゲットなどのメガチェーンの商品棚に依存せざるを得ず、彼らの販売価格のディスカウント攻勢にもろに影響を受けることになる。

デジタルの世界では、レコード会社はさらに不利だと記者は言う。

ダウンロード市場での90%という圧倒的シェアを使って、アップルが大きな影響力をレコード会社に及ぼしているからだ。(以上)

これからのTweak(微調整)は、ユーザーとサービス提供者のより密なコラボレーションによって行われていくのだろう。しかしジョブスという強烈な個性と強烈な決定力を持つトップを失い、カスタマーの影響力が増加する中で、アップルのユーザーインタフェースがどのように進化していくのか、すなわち、引き続き強烈な個性を発揮するのか、そのユニークさが薄まっていくのかは見ものである。