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Moneyballは知識労働者が優勢になるという時代を先見的に描いた

フィナンシャルタイムスにマネーボール誕生をめぐる、マイケル・ルイスと、ビリー・ビーンのかかわりについて取り上げた面白いコラムが載っている。
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/3f5cc88c-0b21-11e1-ae56-00144feabdc0.html#axzz1dd9vdPSO

マネーボールは、確かに抜群に面白い本だった。特に、マイケル・ルイスという作家は、元ソロモンの債券部門の出身で、有名なLiar's pokerの著者だったこともあって、出版されてすぐ興奮して読んだのを思い出す。

彼の視点は、きわめて金融的で、オークランドアスレチックスのGMビリー・ビーンの手法の中に、ベンチャーキャピタルやアービトレージ取引のロジックを見出すあたりはエキサイティングだった。

それが今度、ブラッド・ピットで映画化されたこともあって、再びハイライトを浴びている。少々番宣的ではあるのだろうが。

このコラムの中のこんなパッセージが当時との時間の流れを思い出させてくれる。

イノベーションは辛い。ビーンが選手を見つけるのに統計数字を活用し始めてから、アスレチックスのスカウトたちは人生をかけて追求してきた目標を失った。映画の中で、スカウトの一人がピットに対して抗議した。『あんたは俺たちスカウトが150年もやってきたことを捨て去ろうとしているんだ。』これはまったく正しい。同じような運命が過去何年もの間、あまりよい教育を受けてこなかったアメリカ人の男に降りかかっている。しかもマネーボールが最初に世に現れた2003年よりも、そのトレンドは明らかになっている。」

これはウォールストリートで、ブラックショールズという学者が作り出したオプション評価式によって、登場したデリバティブ取引を駆使するインテリたちが、非インテリ的証券マンを駆逐していったのと同じだ。昔ながらの職人たちは、どんどん片隅に追いやられ、しまいには、雇われもしなくなってしまった。

ボストン・レッドソックスマネーボール流でワールドシリーズを制したあたりから、MLBGMという職種に大きな変化が訪れた。今では30人のGMのうち過去にプロでプレイした経験のあるものは3人しかいないという。しかも、この3人ともに成功はしていない。レッドソックスは当のビーンを大金で誘ったが、断られ、その仲間のTheo Epsteinを雇い入れて、成功を収めた。

先駆者のビーンは、成功できなかった野球選手だった。そのビーンが、元野球選手たちの職を奪ったというのはなんともいえない皮肉だ。

先駆者のアスレチックスも以前の輝きはない。金持ち球団のヤンキースが20名以上の統計専門家を雇っているような時代になった。一つの手法がポピュラーになれば、もともとの有効性はなくなっていくというのは理の当然だ。

マネーボールのロジックはいまや、野球以外のスポーツに広がっているという。たしかにサイモン・クーパーのサッカー経済学の中にもそういった動きが書かれていた。

最近、ビーンがはまっているのはサッカーだというところで、この面白いコラムは終わっていた。