21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

ニューヨークタイムス フランス原子力政策を再チェック

最近は、海外メディアが福島原発をどう報道するかということよりは、今回の事故を踏まえて、各国が自国の原子力政策をどうしていくのかという情報の方に関心が向く。

海外メディアの日本の報道は、当局のソフトな検閲をうけにくいというメリットもあるが、基本は、取材力に限界があると思われるし、各国大使館の在留自国民へのアドバイスも、当然、超保守的になりがちなので、そんなに簡単には東京を逃げ出せない普通の市民にとっては、さほど意味がないような気もしてきたからだ。

結局、どうあれ、ぼくたちは、自分たちの政府に依拠せざるを得ない。逆説的ではあるが、今こそ、政治に対する個々の国民の影響力を行使すべきときが生まれたようだ。政治が下手を打つと、自分たちの生命や財産が損なわれるという切実さが、日本国民の中にはじめて生まれたからだ。

外国の原子力政策ということで言うと、米国は、原子力依存度はさほど高くなく、スリーマイル島の事故以後新しい原発は作られていない。今の米国にとっては原子力新興国での原発需要をいかにとらえるかという輸出産業としての意味が大きいようだ。

ドイツは、独特の原発アレルギーがあって、主要な州選挙で、与党が敗れ、反原発緑の党が勝利した。

エネルギーの8割を原子力に依存する、原子力大国フランスの動きを、ニューヨークタイムスが報じている。

France Gives Its Nuclear Power Industry a 2nd Look(フランスが原子力産業を再チェック)

(By KATRIN BENNHOLD and DAVID JOLLY)

http://www.nytimes.com/2011/04/01/world/europe/01france.html?_r=1&ref=katrinbennhold&pagewanted=print

福島原発事故の結果、世界中で反原発運動が高まりを見せた。中国政府は新しい原子炉の建設を延期し、ドイツでは、与党が重要な州選挙で敗北した。

電力のほぼ80%を原子力から得ている、フランスでは、目立った反応はこれまでのところない。

(日本の原子力依存率は24%、米国は19%)

フランスの原子力の安全性に関する監督官庁の長は今週、「フランスで原発事故が絶対に起こらないなどと保証はできない。」と、ある意味当然の発言を行った。

自国の原子力産業に誇りを持ってきたこの国にとっても、今回の事故は衝撃だったわけである。

フランスにおいても静かに原子力リスクの再評価が始まっている。
フランス大統領のニコラス・サルコジは訪日の際に、グループ20の全メンバーに対して原子力安全性基準の見直しを要請した。

サルコジ大統領は3月11日の震災以後で最初に訪日した。彼は、これは日本だけの問題ではないと述べた。

さらにサルコジ氏はグローバルな原子力規制機関であるIAEAに対して6月ではなく5月にミーティングを早めて日本の危機のもたらす意味を論ずべきだと述べた。

同日パリでは、フランスの原子力安全監督機関の長であるAndre-Claude Lacosteが議会メンバーに対して、フランスも、日本の経験から必要なことを学び、必要とされる安全性手続きの改善を行わねばならないと発言した。

緊急性が高いにもかかわらず、これまでもっとも無視されてきたのが、原子力の安全性に与える自然災害の潜在的脅威の再評価である。

今回日本で発生した複数の自然災害が同時に発生するという事態は、これまでしっかりと考察してきたとは言えないテーマだと、彼は認め、地殻変動活動がフランス国内の、特に沿岸沿いで発生するリスクの再検討を約束した。
地質学者の推定によれば、過去1000年、フランスにおいては、注目に値する地震は約1700回発生した。フランス国内の原子炉は、こういった過去の最悪の地震の5倍の衝撃に耐えられるように作られている。しかし近年、洪水や悪天候が深刻になってきたことを考えると、過去によって将来発生する事態を予測するのは困難になってきている。

「気候変化が状況を変えつつある。これまで沿岸地域で1000年に一度の割合で生じていた極端な出来事が最近では100年ごとに起こるようになっている。」

Fillon首相はフランスの国内にある58の原子力発電所すべての安全性監査を命じた。専門家たちはさらに操業後30年以上の多くの原発を運営させるかどうかの決定を検討することになっている。さらに、内務省と連携してアクシデントマネジメントと避難手続きの改善を、北仏のダンケルクのような人口密集地にある原発に対して行う。

最後にLacoste氏は、福島原発の事故を踏まえ、冷却メカニズムをより詳細に検証すると言った。

過去数年小さな事故は多数起こっているにもかかわらず(中には深刻なものになるのをかろうじてまぬがれたケースもある)にもかかわらずフランスの反原発運動はドイツのような状況にはならなかった。

歴史的な事情もある。ただフランスの規制当局が、厳しい安全性対策について発言を始めたならば、世界も耳を傾けざるをえないだろう。

この一つの現れとしては、フランスが地震直後に自国民に対して、東京を離れることをアドバイスしたときに、他の国もその動きに注目し、結局、フランスに従った。このアドバイスはArevaの日本子会社の原子力の専門家が、東京の放射能汚染の可能性につき警告したことに基づいていた。

(今週、この勧告は若干緩和され、フランスの外務大臣は緊急の理由がないかぎり東京へ向かうことをやめるようにアドバイスしている。)

今後、現在の危機がどのような傷跡を残そうとも、フランスが、原子力に対して完全に背を向けることは考えにくい。原子力は元大統領シャルル・ドゴールの遺産であり、過去何十年も政治的主流派の政治家たちによって広く認容されてきたことなのだ。

フランスの原子力産業はかなり先進的であり、この国の輸出の主要な部分を占めている。株式を一部国が保有している3社のフランス企業、Areva、GDFスエズEDFは、原子力産業におけるもっとも重要なグローバルプレイヤーである。EDFは19の場所で、58基の原子炉を運営しており、グローバルにも最大の原発ポートフォリオである。同社は原発を設計、保守、運営、閉鎖している。

2008年に、フランスは439テラワットアワーの原子力発電を行っており、これはグローバルな生産量の16%を占めている。(以上)