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21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

Taleb ブラックスワンについて語る

ブラックスワンという金融分野のベストセラーを書いたNassim Nicholas Talebがトレーダーであるということは重要である。

クオンツモデルというものの、良さも悪さも知り抜いているからだ。

バブルが破裂するまでは、クオンツモデルの欠陥などというものが喧伝されることはない。

そもそも、良く考えないからこそ、バブルは生まれるわけだ。

ただ、日常的に利益と損失を繰り返す、トレーダーというものは、少し冷静になれば、市場における価格形成というものが決して堅固なロジックに支えられていないということは身にしみてわかっているものだ。

ただ、馬鹿で物事を考えない方が儲かるというj時代はあるもので、保守的で堅実さがマイナス評価に繋がるというプレッシャーの中で、わかってはいるのだが一人一人、英語でいうbandwagonに乗っていくことになる。バブルの破裂する前に、自分だけは絶対にこのゲームから降りるのだといいながら、結局、多くの参加者が降りるチャンスを逃して傷つくことになる。

こういうトレーディングというものの心理を見据えたのがこのブラックスワンという本らしい。

真剣に金融関連のベストセラーを読む習慣をなくしてから10年近くたつもので、このブラックスワンも読んでいない。

たまたま、喫茶店で開いたPCで見つけたマッキンゼーの著者に対するインタビュー記事を読んだだけである。

ただ、この「ありそうもない事態について真剣に検討する」というインタビューはとても面白かった。

https://www.mckinseyquarterly.com/Taking_improbable_events_seriously_An_interview_with_the_author_of_The_Black_Swan_2267

マッキンゼーのインタビューに、Talebは自分が伝えたかったのは、「稀にしか起こらないが、起こった時の衝撃が巨大な事態については考えておくべきである」ということだと答えている。

実際、業としてのトレーディングで重要なのは、ある年、巨大な利益を上げることではなく、相場の上げ下げの中で、適切に生き残ることなのである。

ブラックスワンというのは、自分がこれまでに見た白鳥が皆白いからといって、この世に、黒い白鳥がいないと考えるべきではないということだという。

Talebがブラックスワンと呼ぶのは以下の3つの性質を有する事象だ。

第一に、この事象の発生確率は、過去の記録に基づくとかなり低い。
第二に、発生確率は低いが、ひとたび生じた場合には巨大な衝撃を与える。
第三に、この事実が生じるまでは誰も見ようとしないが、いったん起こると皆が気にするようになる。

Talebは、ブラックスワンという考え方を、ネガティブな事象にだけ限って使っているわけではない。

そしてインタビューの中で、ポジティブなブラックスワンとして、「新技術の発明、新発見、知り合いに偶然あうこと、ベストセラーを書くこと、あるいは癌、はげ、口臭に関する特効薬の発見などと笑わせている。

今回のグローバルな金融危機との関係で、ブラックスワンという考え方を敷衍して欲しいという質問に対して、Talebは次のように語る。

金融業界のトレーダー、リスクマネジャーたちが、現実世界を近似させるために構築したモデルが決して、想定した役割を果たし得ていないことを指摘している。

つまり、今回の金融危機は、小さな価格変動が巨大な衝撃を生み出すような、多くの隠れたリスクを、金融機関が取っていることから生じたのだという。

こういったクオンツモデル依存型の金融理論や、リスクマネジメントの持つ社会に対する危険性をTalebは強調している。

とりわけ、一時は、金融業界の一般理論となった感のあるポートフォリオ理論に対して、彼の舌鋒は鋭い。こんな抽象論は即刻使用禁止にするべきだという。そんなものに依存するのではなく、人々は、もっと会計、コンピュータサイエンス事業の歴史、金融の歴史を学ぶべきだと主張する。

同様に実務における統計の利用も禁止すべきだと続ける。統計は、本当に理解していないと、危険な諸刃の刃になるという考え方だ。

統計がどうして駄目かということに答えて、次のように答えている。

統計分野は、大数の法則に基づいている。標本数を増加させるならば、個別の観察値自体が問題にはならないという考えだ。時にはうまく行く場合もある。

しかしこの法則は、実世界にはあてはまることのないような分布に基づいているというしかない。全ての統計はゲームから生まれた。しかし実世界はゲームとは似ていない。

現実の世界にはサイコロはない。

実世界のサイコロは出る目が、1から6に限られているわけではなく、1から5、そして次は1兆というような歪な構造を持つのだ。

現実にはこういったことが生じるものだとTalebは言う。

1920年代には、ドイツマルクが1ドル=3マルクから、一瞬に、1ドル=3兆マルクになったことがある。

ポートフォリオ理論がうまくいかないのはこういった理由からだ。現実のリスクの近似として統計の分散というコンセプトを使うのは馬鹿げているどころか有害だという主張だ。

じゃあ、リスクというものに対してどういう姿勢を取るべきなのかという質問に対して、
二つのスタンスを薦めている。

第一に、うまくいかなかったときのコストが大きくなく、思い通りに言ったときには多額の利益が出る場合には、リスクあるいはポジティブのブラックスワンを最大限取ること。

第二に、ネガティブのブラックスワンに対するエクスポージャーを最小にすることである。

Talebは、投資銀行、商業銀行がやってきたスタンスとこれは正反対だという。

ダウンサイドリスクに対しては、超保守的で、コストがほとんどない投資チャンスに対しては超攻撃的であるべきだ。ところが、ほとんどの人々は本能的にこの逆をやってしまうのだという。

こういった健全な考え方が通らないのは、証券市場、金融市場がこういった種類の保険を多くかけている企業にペナルティを課すからだ。理由は、こういった企業が、本来取るべきヘッジを行わない無謀な企業に遅れを取ることが生じる時期があるからだ。

彼のいる投資業界も例外ではない。

しかし、大暴落を生き残ったのは、こうした保険をかけていた人々だけなのである。

一時的に競争相手に遅れを取ったとしても、ダウンサイドリスクに対して多くの保険をかけることを恐れてはならないのだという、Talebの見識は、投資業界以外でも耳を傾けるに
値する。

経営コンサルタントマッキンゼーらしく、話題をシナリオプランニングに向ける。
Talebはこの考え方に批判的だ。

批判の理由は、この手法を使うと、人々が自由に考えなくなるからだという。曰く、自分で想像できる4〜6のシナリオに絞り込んで、自分の想像できなシナリオを無視してしまうのである。

シナリオや予測に注目するのではなく、証券であれ、事業であれ、自分のポートフォリオは何に対して、どの程度脆弱かを注視すべきだと主張する。

ブラックスワンというのは、脆弱性に基づいて、人々の水先案内をする考え方とインタビューの最後に彼は結論付けている。

ある時期、スポットライトを浴びることを目的にするのであれば、愚かであるのも一種の戦略となりうるかも知れない。しかし、生き残るということをプロの目標だと考えるのならば、自分の弱さを直視し、置いていかれることを恐れない頑固さや、強さが必要だという、Talebの投資論は、ある意味人生論のようにもきこえる。