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21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

不屈のアメリカ;ガイトナー未来を語る

最近の日銀批判の本を読んでいると、日本の為政者たちが、世界の経済学の達成したものすら理解していないという形の批判が多い。疑問は二つ。先ず、経済政策についての経済学の有効性というのは、ある程度までは、衆目の認める水準にあるのか。この質問に対する答えがイエスの場合は、だとすれば、なぜ、そういった経済学の公共財のような知識が日本では経済政策に反映されないのか。

はじめの疑問に答えてくれる経済学者は残念ながら多くはない。エール大学の浜田先生や早稲田大学の若田部さん、学習院の岩田先生たちは、最初の質問に対しては当然ながらイエスで、日銀の無策ぶりと、それが日本のデフレを悪化させていると舌鋒厳しい。

最近読んだ本の中で野口悠紀雄さんは、流動性の罠の下で、金融緩和は効かないのだから、デフレの責任を日銀にだけ問う論拠は脆弱であるというような主張や、デフレというのは物価一般の継続的低下であって、今回起こっているのは、そういう意味でのデフレではなく、むしろ製造業の国際競争力の低下であり(若干輸入デフレ的)、実効ベースでは既に、日本は円安であり、円安で、死に体の輸出産業を補助してどうするのだという論調だった。これをどう位置づけていいのかはもう一度ゆっくりと整理してみようと思ったが、日銀を直接的に守る論陣ではないが、日銀を攻めても仕方がないという意味では、間接的には守っているようにも思えた。

いずれにせよ、経済論戦というのは、わかりにくい。

経済論戦が経済学の正当な理論に基づいているかどうかは別として、アメリカの政府の発言は、少なくとも、日本の政府の発言よりは、わかりやすく、力強い。

経済の対象が、心理を持つ人間だということを、明確に意識しているという意味では、米国の政府は、達者だと思った。透明で率直で、しかも不屈の精神を簡潔な言葉で表明する。

ガイトナー財務長官が、苦難を乗り越えて明るい未来を切り開くぞというコラムをニューヨークタイムスに寄稿している。

アメリカをなめた人間は痛い目に会うだろう。我々は必ずカムバックすると断言する若い財務長官の言葉、それが現実に裏切られる可能性を秘めていたとしても、そう言い切る勇気と意志。

ほんのちょっとだけだが、うらやましくなった。

Welcome to the Recoveryというコラム。

http://www.nytimes.com/2010/08/03/opinion/03geithner.html?_r=1&ref=global&pagewanted=print

今回のGreat Recession(注;今回の金融危機後の不況を大不況と呼ぶようだ)によって引き起こされた経済の荒廃は当事者にとってはいまだにかなりリアルな痛みを伴っている。数百万人のアメリカ人が、職や会社や自宅を失ったのだから当然だ。今回の経済危機の傷はいまだ生々しく、新しい経済報告が発表されるごとに、新しい不安の波が社会を襲う。

アメリカ社会の中に存在する不確実性(uncertainty)はあたりまえだが、現実の経済データを仔細に検討する、我が国の経済は成長経路に戻ってきていることがわかる。

2007年末に始まった今回の不況は、桁外れに厳しいものだった。しかしこの最も難しい状況で、政府が採用した景気刺激策は、経済の急落を阻止し、深刻な経済崩壊を防ぎ、景気回復への道筋をつけることに役立った。

最初からオバマ大統領は、これだけの危機からの回復が即座にはやってこないことや、景気回復も、一本道ではないことを明言していた。今年の春に、欧州の財政危機が生じ、市場や企業から自信が失われた。この影響は米国にも及び、設備投資や成長率を悪化させた。

経済全体が完全に機能回復するまでにはまだしばらく時間がかかるとは思うが、先週の経済成長についてのデータを見ると、民間セクターのかなりの部分が、ひきつづき強くなっていることが明らかだ。民間需要の主要な要因である、投資と消費が昨年、前四半期に比べて強まり、改善している。不確実性(uncertainty)が引き続き、投資心理を抑制している中でも、企業設備投資は年率約17% で堅調に改善している。

これに加えて個人消費と固定投資は成長率に約3.25%寄与している。輸入も増加しており、これはGDPの増加率を減少させてはいるが、これも、米国需要が健全であり成長していることを反映している。

エコノミストのケン・ロゴフとカーメン・ラインハートが書いているように、金融危機後の景気回復というものは、通常厳しくなるものだ。これが現実だ。景気が修復されていくプロセスにおいては、現実の経済成長は皆が望むよりは低くならざるを得ないということを意味している。しかしこういった課題山積ではあるが、なかには良いニュースもある。

・ ハイテク分野の多くにおいて、米国企業は極めて競争力があり、世界をリードしているので、その分野での輸出は急拡大している。
・ 民間企業の雇用にも回復の兆しがある。期待するほどの速度ではないが、過去2度の回復期よりは、はるかに早い段階でこの兆しが現れている。具体的には、製造業において、過去6ヶ月間で、13万6000人の雇用が生み出されている。
・ 企業のバランスシートの修復も進んでおり、再び再投資や成長戦略に踏み出すことができるような強さを回復しはじめている。アメリカの家計の貯蓄率は高まり、債務の返済もすすみ、借入に対する姿勢もより責任のあるものになってきている。これはいずれにせよ必要とされる変化だ。もはや借りて消費するというスタイルが維持不可能になったのだ。
自動車産業も回復してきている。ビッグ3、クライスラー、フォード、GMはかなり筋肉質になり、年間売上が低迷する中でも収益を生み出している。
・ 資本増強のために、資産査定や帳簿の公開を強制された米国主要銀行の体質は強化され、競争力を増している。米国企業が成長への舵取りをはじめるなかで、こういった成長に対するファイナンスを提供する上で、米銀の立位置は望ましいものになっている。
・ 銀行向けに行われた政府出資分に対して、200億ドル以上の納税者に対する利益が生み出されている。そしてTARPプログラムも予定より早い段階で終了し、昨年予測したよりも2500億ドル少ないコストで肩がついた。

しかしながら、こういった経済の一部で見られる景気回復の兆しが、失業状態にある国民や、建設のように、今回の危機でもっとも打撃を受けた業界にとっては、何の慰めにもならないことは重々承知している。とはいえ、こういった経済指標の回復は、18ヶ月前に我々が直面していた怖ろしい未来図からは着々と遠ざかっていることだけは示している。

新しい統計数字が示しているのは、今回の不況が、以前予想したよりははるかに深いということである。経済活動の急落は、オバマ大統領が就任する1年前に既に始まっていた。そして2008年末にこの動きが加速し、この年、結局GDPは年率約7% 下落したのである。

需要の枯渇と、調達市場の崩壊によってパニックに陥り、不況の長期化を恐れるようになった民間セクターは、野蛮としか言いようのないやり方で、賃金と投資を削減するようになった。この結果、失業率はどんどん悪化した。昨年の初め頃までに、毎月75万人の雇用が失われることになった。経済の崩壊に伴って、政府の税収が減少し、昨年1月までに政府の年間赤字は1兆3000億ドルにまで上昇した。

オバマ大統領が実行した経済救済策が景気回復の鍵となった。過去2年間の政府による景気刺激策、資産査定、銀行の資本増強、米国自動車産業の再編、Fedの金融緩和策などが有効に機能した結果、景気の急落は止まり景気回復がスタートするまでになった。

クリントン大統領とマケイン上院議員のそれぞれアドバイザーだったアラン・ブラインダーとマーク・ザンディが先週発表したレポートによると、2007年秋からのFedホワイトハウス、議会が行った活動の総合的影響によって、行わなかった場合に比べると、850万の職が守られGDPは6.5%増大したという。この調査によれば、政府活動は強力に効果を発揮し、銀行救済によって納税者にとっての利益も生み出すことになった。

国民が被った金融的な心理的外傷や全米規模での打撃を癒すためにはまだまだ先は長いし、景気の動向も毎月しっかりとモニターしなければならない。6ヶ月以上失業状態にある労働者の比率は記録をとり始めた1948年以降で最悪の水準にある。我々はこうした失業者が21世紀経済に再参入するために必要なスキルを持ち合わせていることができるようにしなければならない。また中小企業は今も厳しい環境の中で苦闘している。さらに州政府やその他地方政府の傷も深い。

そのため、回復しはじめた経済をさらに増強するために緊急に取らねばならない対策がある。議会は中小企業の救済や、学校における教師の数を維持するための州支援、公共インフラに対する投資の増加、クリーンエネルギーの促進、輸出の増加に着手しなければならない。賢明で、ターゲットを絞った未来のための投資を行う一方で、向こう数年間で赤字を削減し、アメリカが再び、身の丈に応じた生活をできるようにしなければならない。

これを解決するのはかなり難しい。しかし今日、我々は、オバマ大統領が就任したときよりもこういった難問に立ち向かう上での力を増しているといえる。

金融システムを修復し、医療コストの拡大にはどめをかけ、教育の改善をするために、アグレッシブに動くことで、我々は、アメリカ経済の成長のための基盤を強化しようとしてきた。

先週大統領が言ったとおりなのだ。なんびとたりとも、米国の労働者、企業、そしてその創意工夫の能力にとっての悪いシナリオに賭けるべきではない。

確かに今、我々は手ひどい傷を負っている。だが、必ず、我々は立ち直るのだ。(以上)