読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

欧州銀行のストレステスト(エコノミスト)

欧州危機の本質は、ユーロ圏の中で活発に金融活動を行っている、欧州の銀行の不良資産問題である。その意味では、バブル崩壊後の日本の不良資産問題に雰囲気が似てきている。銀行同士がそれぞれのポートフォリオのなかみに対して信頼ができなくなってくるため、インターバンク市場が枯渇してしまい、実体経済にも甚大な影響を与えるという流れである。

ここしばらく市場は、各国政府によって行われる個別銀行のポートフォリオに対する資産査定(ストレステスト)の行方を注視していた。米国は、サブプライム危機、リーマン危機の中で、徹底したストレステストを行った。これと同様な徹底性が欧州各国の政府に可
能かという、かなり批判的な見方が市場では強かった。

エコノミストのコラムも、この批判的な視点を崩していない。

確かに不良資産問題がいったん生じた場合、それを断固として取り除くのは心理的に簡単ではない。日本の不良資産問題も、情報を小出しにする中で、なかなか疑念が消えなかったことを覚えている。しかし当事者として、最悪のシナリオを透明に一挙に開示するというのはそんなに簡単なことではない。

今回で言えば、ギリシアやその他の国債がデフォルトするところまで、規制当局も怖くて想定できないのはわからないでもない。ただスペインのように、個別銀行の資産内容を開示することは、自らが想定しなくても、外部の投資家の想定を可能にするという意味で、ドイツのような未開示よりもましだというのがエコノミストの論調だ。

断固とした対応のできる政府とそうでない政府の違いはどこにあるのだろうか。そのあたりがとても気になる点だ。

http://www.economist.com/blogs/newsbook/2010/07/europes_bank_stress_tests_0/print

そもそもこの発表前から、市場は、欧州規制当局の資産査定は、破綻が起こらないようなストレスフリーな査定のはずだという見方をしていた。

ストレステストというのは、今後想定される悪いシナリオのもとで、個別の銀行のバランスシートにどのような影響が生じるか、資本不足等がどのように生じるかを分析するのである。その意味では、シナリオ設定が重要だ。

今回の資産査定における最悪シナリオは、銀行資産(国債含む)に対してほどほどの損失が生じるマイルドな不況が想定されているが、ソブリンデフォルトまでは想定していない。

最悪シナリオでも資本不足になるのが、91銀行中7行だけという今回の結果が、懐疑派の想定を裏打ちしているようだ。資本不足になった銀行の名前にもあまり驚きはなかった。Hypo Real Estate of Germany,  ATE Bank of Greeceにスペインの貯蓄金融機関5行が加わっただけである。(Diada, Espiga,  Banca Civica,  Unnim,  CajaSur)

破綻銀行がこれだけ少ないのには二つの理由があると思われる。

第一の理由は、巨額の資本調達が既に行われていること。クレジスイスのアナリストの推定によると、欧州の銀行は既に過去18ヶ月間に2億8300万ドル以上の資本調達を行っている。実際に救済が行われた場合と、内部留保の場合が両方が含まれている。

第二には、銀行がかなりの収益力を享受しつづけることが予想されるからである。スペイン中銀(Bank of Spain)は、ストレステストの中で想定されている銀行の損失のほぼ半分は、2011年末までの2年間の利益でカバーできると推定している。多くの外部アナリストは、経済はより脆弱だと推定しており、多くの銀行がなんとかハードルを達成したという事実自体が、望ましくない結果を回避するためにテストが微調整されているという憶測に拍車をかけたようだ。

査定で用いられた前提の正確さや、査定を通過しない銀行の数が少なすぎるなどということが取りざたされること事態、大事な点を見過ごしているといわざるを得ない。

大事な点とは、そもそもなぜ資産査定が行われたかである。

微妙な金融システムに対する信認というものを回復するために、今回の資産査定が行われるのである。こうやって信認が回復されることなしには、世界の金融システムはうまく機能しないのだ。

しかし、こういう本質論からすると、今回のストレステストの結果は、無条件に成功だとは言い切れない。当落線上ぎりぎりだった銀行が、合格したからといって、市場の信頼を回復できる可能性は低いのだ。

ドイツのような国では、投資家が自分で計算ができるような必要情報の開示もなされていない。この意味では、今回のストレステストは折角のチャンスを失したのである。

今回の資産査定では、銀行間調達市場が直面している、銀行間の相互不信を取り除くまでには至らなかったからである。

なかなか信頼が回復しないのは、情報の非対称性のせいだ。個別の金融機関の外部の人間には、なかなか、内部の状況がわからないのである。

銀行に資金を貸そうとする外部の人々にとっては、頼ることができるのは、信用格付と規制当局からの承認だけだ。ところがこの二つの機関が、利害相反にさらされていることは周知の事実だ。格付機関の手数料を支払っているのは、当の銀行であり、銀行規制当局も自分の傘下の金融機関が一つでも破綻することなど認めたくないのだ。

普通の場合、上記の二つのお墨付きがあれば、資金は順調に流れるものなのだ。しかし、銀行の相互不信が高まる中で、格付機関や規制当局すら信用できなくなりつつあるといえる。ストレステストは、信頼できる第三者を導入することで、こういったシステムに対する信頼を回復しようとする試みなのである。

銀行の債権者は、次第に、核兵器の交渉者というか、ティーンエージャーの子供を持つ親のようなものの言い方をしはじめている。信頼せよ、しかし実証せよ。

この点において、スペイン中銀は他の中央銀行よりはうまくやっている。

スペインは、破綻機関の半分以上を抱えているが、こういった金融機関が保有する欧州国債の保有状況についてのすべての情報を開示した。これによって残りの銀行の健全性に対して、債権者に安心感を与えることになるだろう。

これに対してドイツの規制当局は、この情報開示は個別銀行まかせにした。Landesbank Baden-Wurttembergは財務諸表を外部の精査できるように開示した。しかしながら、ほとんどのドイツの銀行はこういった開示は行っていない。これではドイツの銀行システムについての疑惑はなくならないだろう。

情報は今後も、いろいろと発表されてくるのかも知れないが、問題を一気に解消するというよりは、システムのストレスを少しずつ和らげるような働きしかしないと思われる。外国為替市場の当初の反応を見ていても、このあたりが予想できる。

パニックではないが、神経質な状況は続くことになる。(以上)