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ユーロ危機の全容

BISが発表したレポートが、ユーロ危機のミクロ分析を可能にしつつあるというニューヨークタイムスのJack Ewingによる記事。

債務の重荷がドイツとフランスにのしかかる
http://www.nytimes.com/2010/06/14/business/global/14eurobank.html?ref=global-home&pagewanted=print

仏独の銀行は、経済状況がもっとも悪化している欧州諸国に対して、合わせて1兆ドル近くの融資を行っているという報告がなされ、個別銀行の開示の徹底に対する圧力が高まってくると思われる。

世界の中央銀行の清算機関であるBISの報告によれば、フランスの銀行はスペイン、ギリシア、ポルトガルアイルランドに対して2009年末時点で4930億ドルの融資を行っている。これに対して、ドイツの銀行の融資残高は4650億ドルの融資残高である。

このレポートはスペインやその他の問題のある周辺諸国に対するリスクがどこにあるかということに若干光を当てることになったが、国債価格の下落や、企業向け個人向け不良資産の増大がどの個別銀行に対してもっとも打撃を与えるのかという問題についてはまだ答えはない。BISは、その守秘義務に基づいて、個別金融機関の特定は行なっていない。

銀行による自発的な開示もばらつきがある。ミュンヘン近郊の不動産融資、公共機関融資を行うHypo Real Estate Holdingは、4カ国にイタリアを加えたグループへの国債残高は800億ユーロ(970億ドル)以上であることを開示。

ドイツ銀行は、ギリシア国債を5億ユーロ保有し、スペインやポルトガルソブリン債は保有していないと開示した。

しかし、ドイツやスペインの国内金融を支配する数百の小規模不動産金融機関、国有銀行、貯蓄銀行からの開示はほとんどない。

ユーロ危機についての調査を行っているRBSエコノミストJacques Caillouxは、個別行の資産状況についての開示が行われることが望ましいと述べた。

結局、スペイン、アイルランドポルトガル、ギリシアはユーロ圏16カ国の銀行に対して1兆6000億ドル近くの負債を持っている。形態としては、4カ国の国債、企業向け信用、個人向け信用の形を取っている。フランスとドイツの銀行からの信用が全体の61%を占めている。

どの個別銀行がギリシアやその他の国々に対するリスクを持つかが明らかにならないため、金融機関同士の不信が高まり、銀行間の貸出市場が枯渇し、EUのリーダーたちは金融市場の崩壊を避けるために極めて例外的な政策を取らざるを得なくなった。

ECBはEUの規制当局に対して、個別銀行のリスクについてのデータの開示圧力を強めている。これによって健全な銀行と問題銀行をはっきりと区別することが目的である。

「市場のセンチメントを好転させるために必要なことは何でもやるように奨励している。市場のセンチメントが今の足下の問題なのである。」

と先週の記者会見で、ECBのJean-Claude Trichetは言う。

RBSエコノミストのCailloux氏は、いわゆる資産査定(ストレステスト)、すなわち銀行が市場のショックにどれだけ耐えられるかを示す結果が発表され、そのテストの前提が現実的であり、脆弱な銀行を支援する仕組みが存在すれば、これはかなり有用な意味を持つと述べる。

欧州の債務危機でもっとも悪影響を受けるのはどの銀行かがわからないため、5月のはじめに短期金融市場がほぼ停止状態に陥った。これに加えて、もっとも弱い国の国債価格の暴落したため、EUとIMFはユーロ圏の政府に対する1兆ドル近くの債務保証を即座に行うことを余儀なくされた。

ECBは、ほぼ市場取引が停止していた、欧州諸国の国債を市場で買い付けるという前例のないところにまで踏み込んだ。

「盲目のものが盲目のものにお金を貸したいとは思わないという現実がどんどん明らかになっていったのである。」と先週の調査レポートの中で、Ed Yardeniは書いている。

BISが国ごとのリスクエクスポージャーについての詳細を発表したことの意味が大きい。BISという組織に対して、情報が誇張されているという批判は困難だからである。

フランスとドイツの銀行が保有しているローンはほとんどが企業、個人及びその他銀行向けである。

スペインは最大の債務国。しかし、ただこの国の場合は、その内訳を見るとほとんどが国債で、フランスの銀行が1060億ドル、ドイツの銀行が680億ドル保有している。

この数字を見ると、フランス政府が、ギリシアやその他の問題が起こっている諸国に対する支援を行うのにとりわけ積極的だった理由がわかるような気がする。

スペイン、ギリシア、ポルトガルアイルランドの民間セクターの債務も懸念されるようになってきている。政府の緊縮政策やこれらの国々での景気後退が、その国の企業や個人の返済能力に重くのしかかり、デフォルトの急騰に繋がる可能性があるからだ。

いわゆる周辺諸国のリスクは、決してフランスやドイツに限定される話ではない。英国の銀行はアイルランドに対して2300億ドルの貸付を行っており、スペインは、自ら債務問題を抱える以外に、ポルトガルの居住者に対して1100億ドルの貸付を行っているのである。

BISによると米国金融機関のスペイン、ギリシア、ポルトガルアイルランドに対する貸付の総額は2000億ドル以下だという。(以上)

前にヘラルドが各国のPIIGS諸国への貸出の金額の推定値を報じていた。

日本のPIIGS向け融資残高
ポルトガル 43億ドル(仏449億ドル、独474億ドル、米47億ドル)
アイルランド217億ドル(仏521億ドル、独1838億ドル、米571億ドル)
ギリシア 67億ドル(仏788億ドル、独450億ドル、米166億ドル)
スペイン  284億ドル(仏2112億ドル、独2380億ドル、米580億ドル)
イタリア  544億ドル(仏5078億ドル、独1897億ドル、米532億ドル)
PIIGS合計  1155億ドル(仏8948億ドル、独7038億ドル、米1896億ドル)

こういう数字が開示される中で、徐々に、構造が見えてくる。

日本が長い冬に入ったのは、このあとに、信頼できる個別銀行開示を市場に提示できなかったことにある。その教訓に学ぶだけの主体性をユーロ全体が持ちうるのかが、今後問われることになるのだろう。