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政治における言葉の大切さ

言葉というものは重要である。

ヘラルドトリビューンにDavid BrooksがHistory For dollarsというコラムを書いている。はじめ、ドルの歴史と読み違えて、ドル不足問題やドル危機についてのコラムかと勘違いした。

そうじゃなくて、最近の米国の大学生が就職難のため、一般教養的な学位、英語、歴史などを選択しなくなってきているという風潮についてのコラムだった。

図書館より実験室という風な風潮らしい。しかし、人間社会の営みはすべて言葉をめぐって行われていく。その言葉の使い方というものは、人文科学という分野からしか得られない。それは仕事についた後の人生においても決定的な役割を果たすという内容だった。

すなわち、歴史が仕事の役に立たないなどと思ってはいけないという意味で、お金のための歴史という意味だったのだ。

実際、長く仕事をしてくると、言葉の使い方というもの一つで、仕事や企業経営が大きく変化してくることが実感としてわかる。

言葉は大切だ。そんな目で、新聞を読んでいたら、ハンガリーでは、ギリシアほどじゃない経済状況にもかかわらず、海外の市場を意識せず、国内に向けたリップサービスの意識の強い為政者の言葉遣いが、市場を動揺させたという。ドイツのメルケル首相の国内選挙を意識した、強硬論が、ユーロ不安を高めたのも記憶に新しい。

ちょっと面白かったのは、米国の89歳の名物女性ジャーナリストが、パレスチナ問題の失言で引退という記事だった。

女性ジャーナリストのパイオニアで、ケネディ政権時代から、その歯に衣着せぬ舌鋒の鋭さで有名だったらしい。

ケネディを「ペンとメモ帳を持ってなければ、いい子(nice girl)なのに」と苦笑させ、国務長官のコリン・パウウェルをして、「彼女を派遣してしまえる戦争はどこかで起きてないか」と冗談まじりに慨嘆させたほどだ。

そのHelen Thomasがその言葉で最後には、自分のキャリアの幕引きをすることになってしまった。

パレスチナ問題について、彼女がいった言葉。

“Get the hell out of Palestine” and go home to “Poland, Germany and America and everywhere else.”

現在のイスラエルの強硬姿勢がグローバルに厳しい非難を浴びているとはいっても、半ば公的ともいえるジャーナリストの発言としてはまずかった。イスラエルロビーなどを中心とする猛烈な反発を呼び、結果、彼女は引退に追い込まれることになった。

Brooksさんが言うように、歴史を踏まえた言葉遣いは役に立つどころか、死命まで制する可能性がある。

日本では、言葉の軽さと、その一貫性と現実感のなさを批判され続けた鳩山首相が去り、菅政権が始まった。

これまでのところ、市場を意識した、わかりやすい言葉遣いが評価されている。しかし、政治というのは完全実行が困難(不可能?)な多くの政策の束を実現するために、言葉をつかって多くの人を動かしていくことである。

誰がやっても楽な仕事ではない。