21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

船橋洋一vs Tony Judt「グローバライゼーションは国家の衰退ではなく復活に」

ヘラルドトリビューンの英文朝日の方の土曜版に連載されている船橋洋一さんによるインタビューをいつも楽しみにしている。Brave, grave new worldだ。

今回は、“Postwar; A History of Europe Since 1945”の著者であるニューヨーク大学で歴史を教える英国人歴史家のTony Judtさんが登場。

「グローバライゼーションは国家の衰退ではなく、復活につながる」
朝日新聞には日本語で載っているのだろうか。最近、日経とヘラルドトリビューン、英文朝日を熟読し、ウェブで、WSJ、FT、英インデペンデントを確認するだけでも精一杯なので、残念ながら朝日新聞にまでは手が回っていない。

ユーロ危機を読み解く上で、不可欠な欧州の戦後の基礎知識のようなものがまとまっている素晴らしいインタビューだった。なるほどと、赤線を引いてしまった要点だけかいつまんで列挙しておく。

・ロシア問題。ドイツ人はロシアを単なる経済的問題と片付けるが、東欧諸国(ポーランドルーマニアハンガリーなど)にとってはいまだに、ロシアは政治的脅威である。この点でも、ユーロはまとまらない。

・トルコ問題はもっと複雑。トルコはイスラム圏で唯一の世俗国家で、民主主義国家。しかしトルコのユーロ加盟に対して、欧州諸国はすげなかった。これはイスラムはお断りというメッセージに見える。トルコは既に背を向けはじめている。最近のブラジルなどと連携したイラン問題への関与などはそれを反映。欧州の理念に、精神的にも経済的にも大きく投資してきたトルコ知識人層にとっては大打撃である。

・ドイツは、そもそも、ナチズムという自らの過去から決別するために、欧州に統合されることが不可欠だった。しかし時間の経過が、そういった歴史意識を風化させつつある。ドイツのイニシアチブが薄れる中で、欧州統合というものへの欲求が希薄化している。

・単一通貨ユーロが誕生したのは、東西ドイツの統一に懸念を持ったフランスが、大国ドイツを欧州に縛りつけるための条件としてだった。しかし、これに対しては、ドイツが、ギリシアやポルトガルのような弱小経済と一緒になることを懸念した。

・このため、ドイツが通貨連合への加盟の条件にしたのが、ユーロをドイツマルクをモデルにするということだった。金融政策等への政治不介入の原則等である。

・統合という点から見るといま一歩の欧州だが、国家の集合体として、国際政治に与えうる影響力は大きい。欧州の中東に対する影響力は、米国に比べて大きい。

・一例としてのイスラエルイスラエルパレスチナの対話で、欧州は大きな役割を果たした。理由は、長期的にイスラエルがもっとも求めているのは、欧州の一員となることだからである。

・政治問題で、ドイツは、自らの過去を理由に、発言を自制してきた。この状況が変化してきたのは1990年代。ドイツ国民は自信を回復し、独自性を主張するようになってきている。現在、ドイツについて不安を感じているのは、昔と違ってフランスではない。ポーランドリトアニアハンガリーチェコスロバキアスロベニアルーマニアである。彼らはドイツとロシアが取引を行った1930年代の亡霊に悩まされているのだ。

・アメリカと欧州の関係は変化してきている。米国は世界で最も危険な場所の近くでの同盟を強化しようとする。ソ連との国境地帯がもっとも危険な場所だった頃には、欧州との同盟が重要だった。今、その危険地帯は、イラン、パキスタン、インドに移っている。ここには欧州の影響力は存在しない。必然的に、米国にとっての欧州の必要性は薄れている。

・現在のアメリカの外交関係者の東アジアに対する姿勢は、1920年代の欧州に対する姿勢に酷似している。不安定、依拠できない、危険なライバルとしてみなしている。欧州と違って、アジアの諸国は強くなってきている。アメリカの姿勢は、各国をばらばらにしておくことだ。

・中国にも一言。中国の成功モデルに永続性はない。このモデルは、low rights system(権利が守られないシステム)ということである。こういったモデルが一定期間成功するというのは歴史的にも実証されている。70年代、80年代のチリ。今日の東欧なのである。しかしこれは永続性はない。今後50年間で中国は国内外で大きな問題に直面するだろう。権威主義と資本主義を共存させることに成功した実例は歴史にいまだ存在しない。(以上)