21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

ヨーロッパの夢の終り?

ユーロの動揺は収まらない。日本では、ユーロへの輸出依存度の高い企業の株が売られている。

ソニーは対ユーロで1円の円高が、70億円の減益要因になるという。今期の想定レートが125円なので、現状の115円などという水準が続くとすれば、数百億円規模の減益に繋がる可能性があるからだ。

景気回復の柱に輸出の倍増をかかげる米国オバマ政権にとっても影響は大きい。現状の米国の対EU向け輸出比率は14%であり、ユーロ安によるユーロ諸国の輸出競争力の高まりは、このシナリオに暗雲を投げかける。

中国に至っては、対EU向け輸出比率は20%。ドルに連動した人民元が、対ユーロで強まれば強まるほど、影響は大きくなる。

既にユーロの動揺は、世界に大きな影響を与えている。

しかしユーロの破綻は、こういった数字だけには還元できない一つの理念の崩壊も意味する可能性があるという、フィナンシャルタイムスのGideon Rachmanのコラム。

The death of the European dream
http://www.ft.com/cms/s/0/f7997862-61e2-11df-998c-00144feab49a.html
ユーロの破綻を批判したり嘲笑する声が大きくなっている。しかし、経済危機にとどまらないより広範な政治的帰結があるというのが彼の主張だ。

What Europe represents is not so much raw power as the power of an idea – a European dream.

欧州が代表していたのは、生の権力というよりは理念の持つ力だったのだ。すなわち欧州の夢である。国家の共存共栄というものを信じる人々にとっては、EUは希望のかがり火だったのだ。

60年以上かけて営々と続けられてきた欧州の実験が崩壊するならば、欧州が代表していた理念もまた深刻な打撃を受けるだろう。これに対立する考え方、すなわち法に対する力の優位性、民族国家の優位性の継続が地盤を拡大する可能性がある。

こういった欧州の夢を支持している人々は、米国の大学の教養学部のよく分からない学者たちだけじゃなく、日本の首相や、米国の大統領など錚々たるメンバーが含まれているのだ。

鳩山首相がアジア共通通貨の構築ということを発言したときには当然ユーロをそのモデルとして意識していた。オバマ大統領は、表立って、欧州モデルを賞賛こそしないが、彼がこれまでの政策には明らかに欧州の影響がある。

しかし、今回の欧州危機は、欧州から学ぶべきだと主張するアメリカ人やアジア人の立場を難しくしていくだろう。オバマ大統領に反対する保守派は、今回の欧州危機をとらえて、オバマ大統領の欧州スタイルの「社会主義」はアメリカを破産させるという主張を強めている。

While the EU’s foreign admirers are on the defensive, international Eurosceptics are in the ascendancy.

海外のEU支持者は防戦一方で、国際的ユーロ懐疑論者は勢いをましているのだ

数年前に、ジェレミー・リフキンは、「ヨーロピアンドリーム」という本を書いた。彼はこの中で、欧州こそが未来のモデルだと主張した。

「アメリカ的精神が衰弱する一方で、新しいヨーロピアンドリームとでも呼ぶべきものが生まれている。これは人類の次の段階により適している。相互関連性が増加する社会に適したグローバルな意識を人類に与えるものなのである。」

今これを読むと、笑っていいのか、嘆くべきなのかわからなくなるという言葉でRachmanのコラムはしめくくられている。