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NYT Fackler記者 密約の解明は、パンドラの箱を開ける

鳩山政権と政権交代後の日本の民主主義が直面するより錯綜した問題が普天間問題である。アメリカと日本の戦後65年に対する歴史観の違いが、あいまいな形で放置されてきた、あるいは意識的に隠蔽されてきたのが自民党の長期政権の下での戦後秩序だった。

若泉敬氏が愚者の天国として批判した、自己欺瞞を、ぼくたちはどこまで冷静に直視することができるのだろうか。

アメリカ人たちの判断の基本に、結局日本は敗戦国であり、その戦後の成功は、米国の寛容さと恩恵によるものだという意識が存在する。そういった裸の事実を、自国民から意図的に隠してきたのが、戦後日本だった。

政権交代が、自分の目でものを直視し、自分の頭でものを考えることだとすれば、こういったアメリカ人の思考を正確に受け止める必要がある。

ニューヨークタイムスのMARTIN FACKLER記者の密約についての記事を読んでみた。


Japanese Split on Exposing Secret Pacts With U.S.

http://www.nytimes.com/2010/02/09/world/asia/09japan.html?pagewanted=print

冷戦時代に日米両国政府が締結した最悪の密約が存在した。米軍基地の費用を日本政府が負担することと、日本の港に、核を搭載した米国船舶の入港を認めることだ。

何十年もの間、日本のリーダーは、万難を排して、この密約の存在を隠蔽してきた。日本の元外交官の証言や、米国での機密解除された文書の開示など、不利な証拠が続々現れる中でも、政府のスタンスは変わらなかった。1972年の新聞記者による密約の暴露はその中でももっともセンセーショナルな事件だった。この記者は、国家機密の取得の罪で逮捕され、情報源の外務省女性職員とのスキャンダルが報じられた。

こういった密約が、再び、新しい問題を引き起こしている。今回は、俄然、難しくなっている米国との関係を日本がどのように対応するかという局面においてである。

昨年夏の選挙で、半世紀に及ぶ自民党支配を終わらせた民主党政権は、今回の密約問題を明らかにすることを、この国の秘密主義的で、官僚主導の戦後秩序を一掃することへの政権の断固とした意志を示すために用いようとしている。昨年の秋に、岡田外務大臣は、学者のチームを組成して、密約についての調査を開始した。この結果が今月発表される予定である。

問題は、この調査が、日本と長きにわたって日本のパトロンだった米国との関係が微妙になっている時期に行われたことだ。鳩山政権とオバマ政権は既に沖縄のアメリカ空軍基地の移転に関して対立している。日米の歴史の中で、あえて日本の米国への過度の軍事的依存をいう好ましくない側面を暴くということによって左寄りの鳩山政権がワシントンから離れようとしているという批判を、とりわけ両国の保守派から招くことになるだろう。

しかし、政府の内外を問わず、関係者は、当該調査が、日米同盟自体に疑問を呈するものではないと主張している。インタビューの対象となった中心人物は、岡田外相、密約の存在について証言した元外交官、密約のスクープを行った西山太吉元記者(79歳)だ。彼らは、今回の調査を、60年代から70年代のはじめの日米合意を明らかにするのが目的とし、これが現在の外交関係に影響を及ぼすには古い話すぎるだろうと主張している。

岡田氏などは密約の存在については既に米国で公開されていることを強調する。ただ今回の調査は、自民党長期政権のもとで国民からは隠されてきた過去の真実を明らかにするというこの国では稀な試みとして注目を浴びるだろう。また今回の一連の調査は新政権による日本の発育不良の民主主義を国民により身近なものとし、国民の説明責任に答えるものにするということを示すための高度に象徴的なジェスチャーだという意見もある。

「首相と私は、議会の前で、これまでのように、ただ密約の存在を否定するわけにはいかない。我々は米国が既に行なっていることを単にしようとしているだけなのだ。」と岡田氏は言う。

外交の専門家たちも密約の内容を明らかにすることは日米同盟にほとんど直接の影響を及ぼさないことには同意する。それは米国が1990年代のはじめに、もはや米国軍艦のほとんどに核兵器を搭載いないことを公表しているという理由からでもある。
しかし今回の調査が、日本政府がこれまで意図的に曖昧にしてきた事実についての長い間抑圧されてきた公開の論争を解放するならば、意図しない帰結が生まれる可能性もある。公式には日本の領土内に核兵器が持ち込まれることを禁止しているのだが、その中で、米国の核の傘に依存することが可能かどうか、その結果、危機状況で、核兵器を搭載したアメリカの軍艦や航空機が日本国内で許されるのかどうかなどだ。

こういった議論は、進み方次第では、米国の基地撤去、日本の平和主義憲法の改正による、日本の完全な再軍備、さらには日本が自前の核抑止力(Nuclear deterrent)を構築することへの要求などに繋がる可能性があるのだ。

沖縄県琉球大学の国際関係の我部政明教授は次のように言う。

「これは戦後における最大の矛盾だ。民主党は、国民的議論のパンドラの箱を開いた可能性がある。」

専門家によると、日米両国が1960年代に安全保障条約を改訂したとき、あるいは1972年に沖縄返還交渉が行われたときに、4つの密約が存在したことが知られている。最初の密約は当時毎日新聞で売り出し中の西山記者によって暴かれた。

彼の暴露によって、同時期に米国で生じたペンタゴンペーパーに比べられるような政府の国家機密保護要求に対する国民の知る権利を守るための戦いを喚起した。しかしペンタゴンペーパーのケースとは違って、日本ではジャーナリストが敗れた。

一般国民の関心はすぐに彼の逮捕に向けられ、彼が認めた情報源の外務省の女性事務官との恋愛問題に焦点が移った。

西山氏は、この問題の週刊誌的側面を検察官が殊更にハイライトすることで、国民の関心が密約から逸らされたと主張している。1978年に日本の最高裁は、西山氏を(国家公務員法違反で)国家機密を不当に得た廉で有罪とした。その後彼は、公的な謝罪と、密約に関する書類の開示を求めて訴訟を提起している。

西山氏は言う。「なぜ日本の国民は自国の政府のことを米国で開示された書類からしか知ることができないのか。これは気違い沙汰だ。」

西山氏と密約の調査をしている市民団体の活動は2000年に、米国が密約に関する書面についての機密解除を開始したことによって勢いづいた。さらに予期せぬ突破口が4年前に開いた。当時、西山氏の裁判で、密約は存在しないと証言した外交官で、沖縄返還交渉のメンバーの一人だった吉野文六が30年前の証言が虚偽であったことを認めたのだ。

現在92歳の吉野氏は言う。

「何十年も年月が経過したが、もうこれ以上歴史を歪めつづけることはできない。」

岡田外務大臣は、調査が反米的であるという批判があることは認識しているが、それは誤解だと主張する。彼は真実を明らかにすることによって、実際には、多くの日本人が、結果として、自国の政府と米国政府の誠実さを疑うように仕向ける結果となった過去の過ちを正すことによって、むしろ同盟を強化することができるのだと言う。

“Telling the facts to the people is extremely important for democracy,” he said, adding that the change in Japan’s government “is a great chance” to do so.

「国民に対して真実を語ることは、民主主義にとってきわめて重要だ。そして今回の政権交代は、そのための素晴らしいチャンスなのだ。」と岡田氏は語る。(以上)