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Made In Chinaの裏側

ニューヨークタイムスは、アップルのiPhoneを製造している中国の会社で、試作機がなくなり、疑われた25歳の若者が飛び降り自殺したというニュースがあった。David Barboza名の記事。

http://www.nytimes.com/2009/07/27/technology/companies/27apple.html?ref=global-home

アップルのiPhoneを製造している中国企業のFoxconnで、試作機がなくなる騒ぎが続いた。内部調査で、地方出身で、名門校を卒業したばかりの25歳の若者が疑われた。自分にかかった嫌疑を彼は否定したが、工場の警備担当から暴力をふるわれ、屈辱的な扱いを受けたことに対する不満を友人にもらしていたという。

その後、彼は、自分の恋人に悲痛なメールを送った後、アパートの12階から飛び降りた。会社側は、自殺と発表した。

Foxconnとアップルは事態の重大さから、すぐに哀悼の意を発表し、関係した警備担当をの職務を一時停止にし、警察による捜査に委ねた。さらに従業員に対するカウンセリングサービスなども検討しているという。

自殺のニュースの後、Foxconn労働環境や、アップルの過度の秘密主義がこういった問題を引き起こしたという批判が巻き起こった。

中国南部の深川という、海賊版、偽造なんでもありの、電子機器の製造の中心地で、しかも、スマートフォンなどという競争が激しい市場で、グローバル企業が自社の製品デザインや知的所有権を守ることの困難さを如実にしめしている。

iPhoneはすでに中国で多くの模倣品や偽造品を生み出している。中国のウェブサイトでは常に、アップルの試作機の漏洩の噂が取りざたされている。

第三者へ外注すれば、工程に対するコントロールを失うのは当然だ。しかも外注先は中国なのだ。この国では、新しいデザインを獲得するのに、賞金が出るような文化なのだ。

台湾のHon Hai Groupの子会社である、Foxconnは労働者の不当な取扱いの嫌疑できびしい批判にさらされている。

Foxconnは、ソニーやHPのような世界一流のブランドの電子機器の製造を行っており、中国南部に多くの工場を有している。深川工場には30万人近い労働者がいる。

労働問題の活動家は、同社の労働環境の劣悪さを批判する。

Foxconn側は工場訪問などを含めたマスコミ対応に追われている。

Foxconnによると、なくなったiPhoneに何が起こったのかはいまだ判明していない。


同社は、自殺した青年は、試作機の担当で、これまでにも、試作機がなくなるという問題が起こっているようで、今回の件についての彼の説明には信頼性はないというのが会社側の考え方である。

警備担当者は、地元新聞のインタビューに答えて、殴ったことは否定した。ただ、興奮して、青年の右腕をつかんだことは認めている。

このような状況のもとでも、Foxconnは、青年の家族に対して4万4000ドル相当の支払を行い、ガールフレンドには、アップルのラップトップコンピュータ1台が与えられた。

青年の兄弟は彼が盗みを行うはずがないとインタビューに答えた。彼は正直で穏やかな性格だったという。

この青年は、雲南省の南西部の小さな貧しい村で育ったが、地元高校で首席になるような優秀な学生だったという。その後、彼は中国のトップスクールの1つである、Harbin Institute of Technologyを卒業して、1年前にFoxxconに入社した。

父親も事件後のFoxconnの扱いに感謝をしているが、大人しく優しかった息子が、建物から飛びおりたということにショックを隠せない。

インタビューの直後に、Foxconnの上着を着た二人の男と、一人のセキュリティガードが、ジャーナリストの通訳に対して、家族に対してプライベートな質問をしつこく続けるならば、殴るぞと威嚇した。Foxconn側は、このガードは、自社のスタッフではなく、おそらく警察関係者だろうと述べた。

Sun君の自殺の原因に対して、友人たちは、彼がFoxcommの扱いに憤激しており、仕返しのために何か大きなことをやってやると言っていたという。(以上)

中国をめぐる米国の報道というのもセンシティブなのだということをつくづく思わされる記事の書きっぷりだ。しかし、行間に、記者は意図的に、事実を通して、その意見を表現しているような気がする。

中国は言論の自由が認められている国ではない。この青年が一方的な犠牲者で、会社が一方的な加害者であるというような単純な世界ではないような気もする。本当の真実はわからない。ただし、息子が謎の自殺を遂げた父親に対して一定の資金が手渡されている事実、最後のメールを受け取った恋人には、アップルのラップトップコンピュータが供与されていること、会社側か、警察当局かが、ジャーナリストの通訳を威嚇している事実。

情緒的な形容詞なしに、この記者は、西側の感覚からすると、違和感を感じざるを得ない事実をたんたんと列挙している。そのことで、グローバル資本主義に巻き込まれつつ変化を遂げている中国の今が露呈している。そういう意味で面白い記事だった。