21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

マイクロソフト夏の陣?クロームOS大戦争

ツイッターは、ニュースメディアやブログスフィアで時々刻々生まれるコンテンツをリアルタイムでフィードしてくる。

毎朝起きると、そそくさとメールの確認をすると、ツイッターを開くことが習慣になった。

Twittoratiなどというツイッターとブログのトップサイトのアグリゲーターのようなサービスまで登場し、followした人がfollowしている人をさらにfollowしたりする中で、日々チェックするアカウントも増大している。

そうなると、リアルタイムで増加していくフィードをチェックするのも一仕事になっていく。また、このあたりは整理整頓するアイディアが生まれてくることになるのだろう。

ただ、人間というのはやはり生身なので、フルスロットルで拡大するこういうニューメディア環境というものはかなり消耗的だ。

すると、自分が慣れ親しんだ古いメディアに回帰する。そういった振幅の中でデジタルな生活環境というものがゆきつもどりつしながら展開していくのだろう。

ぼくも、今日の朝は、慣れ親しんだ「古い」メディアである、ニューヨークタイムスのウェブサイトにべったりと戻って過ごした。個別のコンテンツが独自の拡大運動をしながら、スプロール化していく中で、編集性という輪郭のしっかりしたメディアが懐かしくなるのだ。

Freeという現象の中で、マスメディアのすべてが、破壊されつくすのではなく、新しい技術環境と、それに伴うUser Experienceの中で、「ゆきつもどりつ」しながら新しい編集性が括りなおされるのだろう。

今のまま、ブログが書き続けられれば、グーグルが勝とうが、マイクロソフトが勝とうが俺には関係ないと、昨日息巻いては見たが、ヤンキースレッドソックスの因縁の対決が気になる程度にはやはり新旧巨人の対決は気にかかる。

特に今回は、ネットスケープマイクロソフトの因縁対決の、時代と相手を変えた復讐戦のようなところがあるので、そのあたりは、気になるところだ。

ニューヨークタイムスのMiguel HelftとAshlee Vanceがクロームの中にウィンドウズの真の脅威のヒントがあるという記事が、ネットスケープとの因縁もうまくまとめていて面白かった。

http://www.nytimes.com/2009/07/09/technology/internet/09google.html?_r=1&ref=technology


立ち上がるのが遅く、すぐにクラッシュするし、ウィルスにはいつも悩まされ、面倒なアップデートもしなければならないPCにいらいらし続けているユーザーの悩みに対応しましたというのが、グーグルの新しいOS開発の目的だ。OSというのは、コンピュータの基礎的な機能のほとんどを処理するソフトウェア。

グーグルはこのクロームOSで、PCの95%に自社製品のウィンドウズOSが搭載されているマイクロソフトの圧倒的な支配への挑戦を始めたのだ。

合言葉は、スピード、シンプリシティ、セキュリティだ。

ハードルは低くはない。IBMサンマイクロも、マイクロソフトに対する攻勢を試み、あえなく失敗した。でも、グーグルの試みが万が一成功すると、実は、マイクロソフトはウィンドウズ事業だけではなく、もう一つの巨大ビジネスマイクロソフトオフイスも揺るがせる可能性を持つのだ。

一言で言えば、グーグルは人々のデジタルライフの中心にウェブブラウザを置こうとしている。これによってウィンドウズのような複雑なOSを片隅に追いやろうという考えだ。

マイクロソフト陣営は、今すぐ、マイクロソフトの株を売るべきだなどとは云わないが、少なくともマイクロソフトの終わりの始まりだと静かに気勢を上げている。

マイクロソフトは、今回のグーグルの発表にはノーコメント。

ロームOSの主たる目的は以前発表したクロームブラウザを走らせることだ。このブラウザは、ウェブサイトや、Gメール、フェイスブックのようなオンライン上のアプリケーションへの手軽な入口と目指している。

今回のOS戦略は、コンピューティングの世界で現在進行中の大きな変化に対してグーグルが行っている大きな賭けの一部だ。

ウェブ接続が高速化し、ブラウザが強力になると、PCに搭載されているプログラムはほとんどオンラインアプリケーションに代替されるという未来を見据えている。そうなれば、ユーザーは、ソフトウェアのインストール、アップグレード、バックアップなど必要なくなるのだ。

10年前にも、同じビジョンに基づいて、ブラウザ会社のネットスケープが同じ戦いを挑んだ。10年間の技術進歩によって、ビジョン自体の現実性は圧倒的に増している。

ただし、マイクロソフトはいまだ手強い。ウィンドウズ上で、ゲーム、メディア、金融ソフトウェアを、自社陣営のソフトウェア会社に量産させ続けることもできるし、プリンターやデジタルカメラなどの周辺機器との連動性をよくするために、多くのお金や時間をかける財力も持ち合わせている。

今回のような無料ソフトウェアでマイクロソフトに戦いを挑んだ企業も過去には数多く存在したが、成功しているものは少ない。

さらに、グーグルのOSはいまだ開発の初期段階にある。予想通り完成するとは限らない。先行して、携帯電話市場に導入したアンドロイドOSの成功もこれまでのところは限定的だ。

しかしグーグルのこの動きを、適切なタイミングで適切なアイディアを適切な会社が発表したと賞賛する声もある。曰く、グーグルはデスクトップという考え方自体を再定義しようとしている。

とりわけ現在、消費者は大型のデスクトップではなく、ネットブックと呼ばれる、小さくて安いラップトップに興味をもちはじめている。

消費者のネットブックに対する期待もウェブに繋がればいいという程度だ。

ウィンドウズの最新版は重すぎて搭載できないネットブックが最初の主戦場だと考えている。

グーグルのビジネスモデル自体も、ネットスケープの時に比べると、有利に働く可能性がある。

PCメーカーがクロームを無料で搭載できるようにすることには大きな意味がある。さらには、グーグルがお金を払って、搭載してもらってもいいのだ。ネットブックが普及して、人々が多くの時間をオンラインで過ごし、グーグルの検索サービスや、ウィンドウズオフィスの競合商品であるGoogleDocを使ってくれれば、グーグルが受け取る広告料が増えるという考えだ。なんといっても、グーグルの年間収入の220億ドルのほとんどがこの広告から来ているのだ。

グーグルの(補完財)戦略は、マイクロソフト冬の陣とも言うべき、ネットスケープとの戦いに勝利した力学が事実上逆転しているのだ。

当時、ネットスケープは有料で自社のウェブブラウザを販売していたが、敵を屠るために、マイクロソフトは自社ブラウザであるInternet Explorerを無料にしたのだ。ところが今回、無料戦略で危機に瀕しているのは、マイクロソフト側の虎の子である、ウィンドウズとオフィスからの収入なのだ。

ハードウェアとソフトウェアを無料にして、サービスからお金を儲けられるのは、今はグーグルだけなのである。

マイクロソフトも漫然と手を拱いているだけではない。彼らも多くのオンラインソフト開発を行っている。ただ、気前よく無料で配る覚悟はまだない。

2年前に、ネットブックが最初に登場した時のリナックスの脅威にも負けなかったという自負もある。実際、現在マイクロソフトのウィンドウズXPは米国のネットブックの9割以上に搭載されている。(調査会社NPD調べ)

しかし負けなかったとはいっても、過去20年間、マイクロソフトが享受してきたような利益水準がもたらされたわけでもない。

マイクロソフトがつらいのは、対抗策がないわけではないが、どれ一つを取っても、ビジネス的に儲からないということなのだという、ハーバードビジネススクールのDavid B. Yoffieの最後のコメントが利いている。(以上)

ウェブ人口が増加すること、すなわち、グーグルが受け取る広告収入が増えるという恐怖の方程式が成立しつづける限り、あるいは方程式が成立しつづけるという世の中の信憑が崩れない限り、マイクロソフトに限らずグーグルはライバルにとって本当に恐ろしい敵だ。しかし本当のところはどうなのだろう。いつまでたっても、インターネット接続費用だけが急拡大し、黒字の影も見えないYouTubeの存在や、どちらから近づいたとは言えないが、昔の敵は今日の友ともいうように急速に近づきつつある広告代理店とグーグル。

確実なことは一つもない。ただし、ヤンキースレッドソックスと同じくらい奥行のある物語であることだけは確かだ。